論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

文字の大きさ
59 / 63

第59話 「君と歩く未来」

しおりを挟む
 午前10時の相談所。

 透と美月は、一緒に朝を迎えていた。

 美月は昨夜から泊まっている。

 二人は、ただ話していた。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第59話。

 美月がコーヒーを淹れる。

 透は窓の外を見ている。

「藤原さん、コーヒーできました」

 美月は透に渡す。

 透は受け取る。

「ありがとう」

 二人は、机を挟んで座る。

 美月が話す。

「藤原さん、これから……どうしますか?」

 透は首を傾げる。

「どうするって?」

 美月は小さく笑う。

「私たち……これから、どうなるんでしょうか……」

 透は美月を見る。

「君は、どうしたい?」

 美月は涙を浮かべる。

「私は……藤原さんと一緒にいたいです……」

「でも……雪ちゃんのことが……」

 透は首を振る。

「雪は、もういない」

「でも、俺の心の中にいる」

「それは、変わらない」

 美月は透を見る。

「それでも……いいんでしょうか……」

 透はうなずく。

「いいんだ」

「雪は、俺たちを祝福してくれてる」

「俺には、分かる」

 美月は涙を流す。

「本当に……?」

 透は美月の手を取る。

「本当だ」

「だから、君と歩く未来を、俺は選ぶ」

 美月は透の手を握り返す。

「ありがとうございます……」

 透は小さく笑う。

「謝らないでくれ」

「これは、俺が選んだことだから」

 二人は、しばらく手を繋いでいる。

 言葉はいらない。

 ただ、温もりだけ。

 ◆

 午後3時の交差点。

 透と美月は、一緒に歩いていた。

 五つの道が交わる場所。

 透が初めて美月に会った場所。

「ここで、初めて会ったね」

 透が言う。

 美月はうなずく。

「はい……あの時、私は迷っていました……」

 透は美月を見る。

「今は?」

 美月は小さく笑う。

「今は……迷っていません……」

「藤原さんと一緒なら、どの道でも歩けます」

 透は美月の手を取る。

「じゃあ、一緒に歩こう」

 美月はうなずく。

「はい」

 二人は、一つの道を選ぶ。

 どこに続くか分からない。

 でも、一緒なら怖くない。

 二人は、手を繋いで歩き出す。

 新しい未来へ。

 ◆

 午後11時の相談所。

 透は机に向かっていた。

 美月は隣に座っている。

 透が新しい手紙を開く。

 便箋には、丁寧な文字でこう書かれていた。

『未来が、怖いです。

 どうなるか分からない。

 でも、歩き出したい。

 どうすればいいでしょうか。

 28歳・男性』

 透の手が止まる。

 これは、俺のことだ。

 透はペンを取り、便箋に書き始めた。

『未来が、怖い。

 その気持ち、分かります。

 俺も、怖いです。

 でも、歩き出します。

 理由は、ただ一つ。

 大切な人と一緒だから。

 一人じゃ怖い未来も、

 二人なら歩ける。

 あなたも、歩き出してください。

 大切な人と一緒に。

 それが、未来への第一歩です。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 美月が透を見る。

「藤原さん、いい答えですね」

 透は小さく笑う。

「君がいるから、書けた」

 美月は涙を浮かべる。

「私も……藤原さんがいるから、歩けます……」

 透は美月の手を取る。

「じゃあ、一緒に歩こう」

「どんな未来でも」

 美月はうなずく。

「はい」

 二人は、窓の外を見る。

 星空が見える。

 雪が、笑っている気がした。

「お兄ちゃん、幸せになってね」

 雪の声が、聞こえた気がした。

 透は小さく呟く。

「ありがとう、雪」

「俺は、幸せになる」

「美月さんと一緒に」

 美月は透を見る。

「藤原さん……?」

 透は首を振る。

「何でもない」

「ただ、雪に感謝してた」

 美月は小さく笑う。

「私も、雪ちゃんに感謝してます」

「雪ちゃんが、私たちを繋いでくれたから」

 透は美月を抱きしめる。

「そうだね」

「雪が、俺たちを繋いでくれた」

 二人は、しばらく抱き合っている。

 未来は、まだ見えない。

 でも、怖くない。

 二人で歩くから。

 君と歩く未来。

 それが、俺の選んだ道。

(第59話完 次話へ続く)

 次回、第60話「信じるという暴力」。
 第3章完結。
 そして、透と美月の物語が——君の想像する「新しい始まり」へ、向かう——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

後の祭り 

ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
 母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...