【告白短編集】~どこにでもある日常の中に、最高の愛が隠れている~

月下花音

文字の大きさ
11 / 48

第11話:幼馴染の帰省で、君の故郷を歩いた

しおりを挟む
夏休みに連絡が来たのは、五月末のことだった。

「亮太、夏休みに一緒に帰省しない?」

千尋からのメッセージ。

千尋は、小学校の時の隣の席。一緒に登下校して、放課後も毎日遊んだ。そして、大学で東京に出てからも、時々連絡を取り合っていた。

ただし、それは「友達」の範囲だ。少なくとも僕はそう思い込んでいた。



その一年間、東京での生活は、退屈だった。

新しい大学。新しい友達。だが、誰もが「新しい」だった。故郷の友達との繋がりは、だんだん薄れていっていた。

連絡はたまにくる。だが、返信は遅れる。返信内容も短くなっていく。

そんな時、千尋からのメッセージ。

「亮太と一緒に帰りたい。久しぶりに故郷を見たい。でも、一人じゃ怖い」

その一言に、僕は心が揺さぶられた。



新幹線の中。

千尋は、僕の隣に座っていた。

髪が少し長くなっていた。顔は、大人っぽくなっていた。だが、その笑顔は、小学生の時と変わっていなかった。

「亮太、覚えてる?この駅」

降りた時、千尋は言った。

懐かしい駅前。古い駅舎。変わらない商店街。蝉の声。



駅から小学校へ向かう道。

「この坂、よく転んだよね」

千尋が、段差を指で示した。

「そうだっけ。君が転んでたのかな」

「違うもん。亮太が転んで、私が手を貸してたんだよ」

「嘘つけ。逆だ」

千尋が、ムッとした顔になった。その顔は、確かに、あの頃と同じだった。思わず笑ってしまった。



小学校に着いた。

校庭は、昔より小さく見えた。遊具も、古くなっていた。

「あの木の根元に、秘密基地作ったね」

千尋が指差した。

「そうだな。毎日来てた」

「私たち、一生これで遊べるんだって思ってた」

千尋の声が、少し寂しそうだった。

「でも大人になったんだ。この道も、この学校も、全部小さくなった」

彼女は、校庭を眺めていた。

「東京、どう?」

僕は聞いた。

「んー。楽しいけど……」

千尋は迷った。

「何か、いつも何かが足りない気がする。友達もいっぱいいるけど、本当の友達って誰だろうって。毎日、思ってた」

その言葉に、僕の心臓が、何か言い出した。

「……君からメッセージ来て、初めて心が落ち着いた」

千尋は続けた。

「返信遅くてごめんね。亮太は忙しいんだろうって……」

「違う」

僕は、強く言った。

「忙しかったわけじゃない。ただ、君との距離が遠ざかるのが怖かった」



夕方。神社の前。

二人で、石段に座った。

「この神社のお祭り、覚えてる?」

千尋が言った。

「りんご飴を買ったな。一個を二人で食べた」

「そう。あの時、私は決めたんだ」

千尋は、横を向いた。

「亮太と、ずっと一緒にいようって」

その言葉に、僕は何も答えられなかった。

「小学校の時から、好きだったんだ。亮太のこと。でも言えなかった。友達でいるのが、楽しかったから」

千尋の声が、震えていた。

「でも、大学に出てから分かった。友達じゃ足りない。ずっと隣にいたい。毎日会いたい。手を握ってたい」

千尋が、僕を見た。

「亮太も……そう思ってくれないかな」



僕は、何も言わずに、千尋の手を握った。

小さな手。温かい手。何度も繋いだことがある手。だが、この時ほど大切だと思ったことはなかった。

「俺も」

声が、出ない。

「俺も、君がいない人生は考えられない。友達としてじゃなく……」

「もっと特別な存在として?」

千尋が、先に言った。

僕は頷いた。



二人で、故郷の街を歩いた。

駄菓子屋は、もうなかった。公園の遊具は、新しくなっていた。秘密基地を作った空き地は、新しい建物が立っていた。

だが、その全てが、新しく見えた。

なぜなら、千尋が、僕の隣にいたから。

夕焼けが、空全体を赤く染めていた。

「これからも、この道を一緒に歩く?」

千尋が聞いた。

「ずっと」

僕は答えた。

幼馴染から恋人へ。その一歩は、小学校から家へ帰る同じ道の上にあった。

だが、今日からは、その道は、新しい道になるんだと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

心のすきまに【社会人恋愛短編集】

山田森湖
恋愛
仕事に追われる毎日、でも心のすきまに、あの人の存在が忍び込む――。 偶然の出会い、初めての感情、すれ違いのもどかしさ。 大人の社会人恋愛を描いた短編集です。

処理中です...