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第11話:幼馴染の帰省で、君の故郷を歩いた
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夏休みに連絡が来たのは、五月末のことだった。
「亮太、夏休みに一緒に帰省しない?」
千尋からのメッセージ。
千尋は、小学校の時の隣の席。一緒に登下校して、放課後も毎日遊んだ。そして、大学で東京に出てからも、時々連絡を取り合っていた。
ただし、それは「友達」の範囲だ。少なくとも僕はそう思い込んでいた。
その一年間、東京での生活は、退屈だった。
新しい大学。新しい友達。だが、誰もが「新しい」だった。故郷の友達との繋がりは、だんだん薄れていっていた。
連絡はたまにくる。だが、返信は遅れる。返信内容も短くなっていく。
そんな時、千尋からのメッセージ。
「亮太と一緒に帰りたい。久しぶりに故郷を見たい。でも、一人じゃ怖い」
その一言に、僕は心が揺さぶられた。
新幹線の中。
千尋は、僕の隣に座っていた。
髪が少し長くなっていた。顔は、大人っぽくなっていた。だが、その笑顔は、小学生の時と変わっていなかった。
「亮太、覚えてる?この駅」
降りた時、千尋は言った。
懐かしい駅前。古い駅舎。変わらない商店街。蝉の声。
駅から小学校へ向かう道。
「この坂、よく転んだよね」
千尋が、段差を指で示した。
「そうだっけ。君が転んでたのかな」
「違うもん。亮太が転んで、私が手を貸してたんだよ」
「嘘つけ。逆だ」
千尋が、ムッとした顔になった。その顔は、確かに、あの頃と同じだった。思わず笑ってしまった。
小学校に着いた。
校庭は、昔より小さく見えた。遊具も、古くなっていた。
「あの木の根元に、秘密基地作ったね」
千尋が指差した。
「そうだな。毎日来てた」
「私たち、一生これで遊べるんだって思ってた」
千尋の声が、少し寂しそうだった。
「でも大人になったんだ。この道も、この学校も、全部小さくなった」
彼女は、校庭を眺めていた。
「東京、どう?」
僕は聞いた。
「んー。楽しいけど……」
千尋は迷った。
「何か、いつも何かが足りない気がする。友達もいっぱいいるけど、本当の友達って誰だろうって。毎日、思ってた」
その言葉に、僕の心臓が、何か言い出した。
「……君からメッセージ来て、初めて心が落ち着いた」
千尋は続けた。
「返信遅くてごめんね。亮太は忙しいんだろうって……」
「違う」
僕は、強く言った。
「忙しかったわけじゃない。ただ、君との距離が遠ざかるのが怖かった」
夕方。神社の前。
二人で、石段に座った。
「この神社のお祭り、覚えてる?」
千尋が言った。
「りんご飴を買ったな。一個を二人で食べた」
「そう。あの時、私は決めたんだ」
千尋は、横を向いた。
「亮太と、ずっと一緒にいようって」
その言葉に、僕は何も答えられなかった。
「小学校の時から、好きだったんだ。亮太のこと。でも言えなかった。友達でいるのが、楽しかったから」
千尋の声が、震えていた。
「でも、大学に出てから分かった。友達じゃ足りない。ずっと隣にいたい。毎日会いたい。手を握ってたい」
千尋が、僕を見た。
「亮太も……そう思ってくれないかな」
僕は、何も言わずに、千尋の手を握った。
小さな手。温かい手。何度も繋いだことがある手。だが、この時ほど大切だと思ったことはなかった。
「俺も」
声が、出ない。
「俺も、君がいない人生は考えられない。友達としてじゃなく……」
「もっと特別な存在として?」
千尋が、先に言った。
僕は頷いた。
二人で、故郷の街を歩いた。
駄菓子屋は、もうなかった。公園の遊具は、新しくなっていた。秘密基地を作った空き地は、新しい建物が立っていた。
だが、その全てが、新しく見えた。
なぜなら、千尋が、僕の隣にいたから。
夕焼けが、空全体を赤く染めていた。
「これからも、この道を一緒に歩く?」
千尋が聞いた。
「ずっと」
僕は答えた。
幼馴染から恋人へ。その一歩は、小学校から家へ帰る同じ道の上にあった。
だが、今日からは、その道は、新しい道になるんだと思った。
「亮太、夏休みに一緒に帰省しない?」
千尋からのメッセージ。
千尋は、小学校の時の隣の席。一緒に登下校して、放課後も毎日遊んだ。そして、大学で東京に出てからも、時々連絡を取り合っていた。
ただし、それは「友達」の範囲だ。少なくとも僕はそう思い込んでいた。
その一年間、東京での生活は、退屈だった。
新しい大学。新しい友達。だが、誰もが「新しい」だった。故郷の友達との繋がりは、だんだん薄れていっていた。
連絡はたまにくる。だが、返信は遅れる。返信内容も短くなっていく。
そんな時、千尋からのメッセージ。
「亮太と一緒に帰りたい。久しぶりに故郷を見たい。でも、一人じゃ怖い」
その一言に、僕は心が揺さぶられた。
新幹線の中。
千尋は、僕の隣に座っていた。
髪が少し長くなっていた。顔は、大人っぽくなっていた。だが、その笑顔は、小学生の時と変わっていなかった。
「亮太、覚えてる?この駅」
降りた時、千尋は言った。
懐かしい駅前。古い駅舎。変わらない商店街。蝉の声。
駅から小学校へ向かう道。
「この坂、よく転んだよね」
千尋が、段差を指で示した。
「そうだっけ。君が転んでたのかな」
「違うもん。亮太が転んで、私が手を貸してたんだよ」
「嘘つけ。逆だ」
千尋が、ムッとした顔になった。その顔は、確かに、あの頃と同じだった。思わず笑ってしまった。
小学校に着いた。
校庭は、昔より小さく見えた。遊具も、古くなっていた。
「あの木の根元に、秘密基地作ったね」
千尋が指差した。
「そうだな。毎日来てた」
「私たち、一生これで遊べるんだって思ってた」
千尋の声が、少し寂しそうだった。
「でも大人になったんだ。この道も、この学校も、全部小さくなった」
彼女は、校庭を眺めていた。
「東京、どう?」
僕は聞いた。
「んー。楽しいけど……」
千尋は迷った。
「何か、いつも何かが足りない気がする。友達もいっぱいいるけど、本当の友達って誰だろうって。毎日、思ってた」
その言葉に、僕の心臓が、何か言い出した。
「……君からメッセージ来て、初めて心が落ち着いた」
千尋は続けた。
「返信遅くてごめんね。亮太は忙しいんだろうって……」
「違う」
僕は、強く言った。
「忙しかったわけじゃない。ただ、君との距離が遠ざかるのが怖かった」
夕方。神社の前。
二人で、石段に座った。
「この神社のお祭り、覚えてる?」
千尋が言った。
「りんご飴を買ったな。一個を二人で食べた」
「そう。あの時、私は決めたんだ」
千尋は、横を向いた。
「亮太と、ずっと一緒にいようって」
その言葉に、僕は何も答えられなかった。
「小学校の時から、好きだったんだ。亮太のこと。でも言えなかった。友達でいるのが、楽しかったから」
千尋の声が、震えていた。
「でも、大学に出てから分かった。友達じゃ足りない。ずっと隣にいたい。毎日会いたい。手を握ってたい」
千尋が、僕を見た。
「亮太も……そう思ってくれないかな」
僕は、何も言わずに、千尋の手を握った。
小さな手。温かい手。何度も繋いだことがある手。だが、この時ほど大切だと思ったことはなかった。
「俺も」
声が、出ない。
「俺も、君がいない人生は考えられない。友達としてじゃなく……」
「もっと特別な存在として?」
千尋が、先に言った。
僕は頷いた。
二人で、故郷の街を歩いた。
駄菓子屋は、もうなかった。公園の遊具は、新しくなっていた。秘密基地を作った空き地は、新しい建物が立っていた。
だが、その全てが、新しく見えた。
なぜなら、千尋が、僕の隣にいたから。
夕焼けが、空全体を赤く染めていた。
「これからも、この道を一緒に歩く?」
千尋が聞いた。
「ずっと」
僕は答えた。
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だが、今日からは、その道は、新しい道になるんだと思った。
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