幼馴染に「つまらない」と捨てられた俺、実は学校一のクール美少女(正体は超人気覆面配信者)の「生活管理係」でした。

月下花音

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第一章 捨てられた俺と、ポンコツ美少女の生活管理係

第15話:運命という名の「完全包囲網」

 すべての騒動が落ち着き、また静かな朝がやってきた。
 カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋の中を漂う埃をキラキラと照らしている。

 俺はいつものように、玲奈が散らかした配信機材を片付けていた。
 玲奈はシャワーを浴びている。バスルームの方から、上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。

 平和だ。
 完全に「飼い慣らされた」日常。
 ミサからの連絡はあれ以来途絶えたし、学校でもネットでも、俺たちは公認のカップルとして定着した。

 俺はテーブルの上にある、玲奈のタブレットをふと手に取った。
 画面がつけっぱなしになっている。
 充電が切れそうだ。充電器に繋いでおくか。

 そう思った時、指が触れて、開かれていたウィンドウが目に入った。

 『SNS広告配信レポート』

 ん?
 玲奈が広告を出してるのか? グッズの販促か?

 何気なくスクロールした俺の指が、止まった。

    『キャンペーン名:専属スタッフ(相沢湊)捕獲計画』
    『ターゲット設定:半径500m以内、行動履歴「尽くす男」「都合のいい男」、検索ワード「彼女 冷たい」』
    『トリガー条件:対象者のストレス値が「限界(Limit)」を超過した瞬間』
    『完了日時:20XX年XX月(約1年前)』
    『配信ステータス:コンバージョン完了(捕獲成功)』

  ……は?

 背筋がゾクリとした。
 冷や汗が一気に吹き出した。

 これ、俺があの「高額バイト」を見つけた時の広告だ。
 タイミングが良すぎると思っていた。
 俺が貧乏でミサに冷たくされ、金が必要で、やけになってバイトを探していたあの夜。
 俺のスマホの最上部に、この広告が出てきた。

 偶然じゃなかった。
 ターゲティング広告ですらなかった。
 これは、俺たった一人を狙い撃ちにするための、専用の罠だったんだ。

「……気づいちゃった?」

 背後から、湿った声がした。
 心臓が跳ね上がる。
 振り返ると、バスタオル一枚の玲奈が立っていた。
 濡れた銀髪から、水滴が滴り落ちている。
 その瞳は、ゾッとするほど綺麗に澄んでいて、そして笑っていた。

「……玲奈。これ、なんだ」
「見ての通りだよ。……ずっと待ってたの」

 彼女はゆっくりと近づいてくる。
 足音がない。幽霊みたいだ。

「高校に入学した時から、ずっと湊を見てた。……でも、湊の隣にはいつもあの女がいたじゃない?」

 彼女はタブレットを俺の手から優しく抜き取り、テーブルに置いた。

「だから、待ったの。あの女は馬鹿だから、きっとすぐに湊の良さに飽きて、他の男にうつつを抜かすって分かってたから」
「……ミサが拓海先輩と付き合い始めたのも?」
「うん。ちょっとだけ、拓海先輩に『ミサちゃんって可愛いよね』って噂を流したかも。……背中を押してあげただけだよ?」

 悪魔だ。
 この天使みたいな顔をした美少女は、何年もかけて、俺が孤立し、傷つき、誰かの救いを求める瞬間を、虎視眈々と狙っていたんだ。
 蜘蛛が巣を張って、獲物がかかるのをじっと待つように。

「……怖くない?」
 玲奈が小首を傾げて、無邪気に聞いてきた。

「全部計算だったんだよ? 湊がここに来たのも、私のご飯を作るようになったのも、……私を好きになったのも」

 彼女の指先が、俺の頬を伝う。
 冷たくて、気持ちいい。

 俺は自分の感情を探った。
 恐怖? 怒り? 嫌悪感?

 ……いや。
 不思議と、湧き上がってきたのは「安堵」だった。

 そこまでして、欲しかったのか。俺が。
 こんなつまらない、地味な俺を手に入れるために、この国宝級の美少女が、何年も画策していたのか。

 その事実が、たまらなく愛おしかった。

「……性格悪いな、お前」
「うん。知ってる」
「最高に根性が曲がってる」
「湊以外には見せないよ」

 俺は溜息をつき、彼女の濡れた腰を引き寄せた。
 
「……俺の負けだ。完全にハメられたよ」
「ふふ。……逃げる?」
「逃げられるわけないだろ。……もう、お前なしじゃ生きられない体に改造されちまったんだから」

 俺の言葉に、玲奈はパァっと花が咲くような笑顔を見せた。
 それは、計算も演技もない、本当に嬉しそうな、ただの恋する少女の顔だった。

「大好き。……死ぬまで離してあげないからね、私の『生命維持装置』さん」

 彼女の唇が、俺の唇を塞いだ。
 甘いバニラの味と、少ししょっぱいシャンプーの味がした。

 こうして、俺の高校生活は幕を閉じた――いや、ここからが本当の始まりだ。
 学校一のクール美少女の、一生終わらない「生活管理(支配)」を受ける日々の。

 檻の中で、俺は幸せに暮らしましたとさ。
 それが、正しいかどうかは分からないけれど。
 めでたし、めでたし。

 ――幸福に、運用期限があることも知らずに。

(第1章・おわり)
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