幼馴染に「つまらない」と捨てられた俺、実は学校一のクール美少女(正体は超人気覆面配信者)の「生活管理係」でした。

月下花音

文字の大きさ
20 / 31
第二章 頂点の裏側で、俺は彼女を“壊れずに運用するシステム”になった

第20話:無期限活動休止――玲奈が限界を迎えた瞬間

しおりを挟む
 その夜、世界は燃えていた。
 正確には、玲奈を取り巻くネットの世界が、真っ赤な炎に包まれていた。

 新居のリビングは、葬式のような静けさに支配されていた。
 唯一の光源は、テーブルの上のタブレット端末。
 そこに次々と流れていく文字の奔流を、玲奈はずっと凝視していた。

『レイちゃん完全に洗脳されてるじゃん』
『「誰かに動かしてもらわないと」って発言、ヤバすぎ』
『裏の男って誰? 特定班まだ?』
『ミオちゃんが心配そうな顔してたのが印象的だった。やっぱミオこそ聖女』

 トレンド一位『#レイちゃん精神崩壊』。
 トレンド三位『#洗脳彼氏』。

 オフイベントでの発言は、感動的な「本音の吐露」として受け取られた一方で、悪意ある切り抜きによって最悪の文脈で拡散されていた。
 ミオの信者たちが中心となり、「レイは悪い男に操られている被害者」「救出しなければならない」という歪んだ正義感が暴走している。

「……湊」
 玲奈が掠れた声で呼んだ。
 彼女は膝を抱え、小さく震えている。
「ごめん。……私が、余計なこと言ったから」
「謝る必要はない。お前は勝った」
 俺はコーヒーを淹れながら、淡々と答える。
「あの会場にいた人間は、お前の本気に心を動かされた。ミオの薄っぺらい演技は否定された。……ただ、ネットという拡散装置においては、真実よりも『分かりやすい悪』の方が商品価値が高いだけだ」

 俺はタブレットを取り上げ、画面を伏せた。
「見るな。今のこれに意味はない。ただのノイズだ」
「……でも」
 玲奈が顔を上げる。
 その顔色は紙のように白く、瞳には濃い隈が浮かんでいた。
 明らかに消耗している。
 精神的摩耗率(メンタル・ストレス)、八十%超過。危険領域だ。

「怖い……」
 玲奈が震える手で自分の腕を抱く。
「自分が叩かれるのはいいの。……でも、湊が」
「俺?」
「特定班が動いてる。湊の写真、撮られてるかもしれない。……もし湊が特定されて、攻撃されたら……湊まで壊されちゃう」
 彼女の恐怖の根源は、自分の社会的死ではない。
 俺というシステムの崩壊だ。
 その事実に、俺は奇妙な安堵――いや、充足感を覚えた。
 正常だ。彼女の優先順位(プライオリティ)は正しく設定されている。

「心配するな。俺の情報は最小限しか露出していない。特定には時間がかかる」
 俺は玲奈の横に座り、その冷たい手を握る。
「それより、お前のメンテナンスが先だ。……明日の配信は休め」
「え?」
 玲奈が目を見開く。
「ダメだよ。休んだら、もっと騒がれる。『逃げた』って言われる」
「休むのも戦略だ。燃料投下を避けるための冷却期間(クールダウン)と説明すればいい」
「でも……!」
 玲奈が俺の手を強く握り返す。痛いほどに。
「……ミオが、言ってた。『休んだら忘れられるよ』って。……私、忘れられたくない。湊の作った『レイ』を、壊したくない」

 その時。
 インターホンが鳴った。
 深夜一時。宅配にしては遅すぎる。
 俺と玲奈は顔を見合わせた。
 セキュリティ万全のタワーマンションだ。部外者が入れるはずがない。

 俺は玲奈をソファに残し、モニターへ向かう。
 カメラに映っていたのは――誰もいない、無機質なエントランスホールだけだった。
 だが。
 郵便受けの通知ランプが点滅している。

「……湊」
 玲奈が怯えた声で俺を呼ぶ。
 俺は無言で首を振り、玄関へ向かった。
 ドアスコープで外を確認する。誰もいない。
 チェーンをかけたまま、少しだけドアを開ける。
 郵便受けの中に、一通の封筒が入っていた。
 差出人の名前はない。

 俺はそれを取り出し、リビングへ戻った。
 手の中で、封筒の感触が重い。
 中には、一枚の写真が入っていた。
 取り出す時、指先でパチリと静電気が弾けた。小さな痛み。それが現実であることを告げるような、嫌な刺激だった。

 ――今日のオフイベント会場。
 客席でステージを見つめる俺の横顔。
 そして、その周りに赤いマーカーで無数の『×』が書き殴られている。
 写真の裏には、走り書きのような文字でこう書かれていた。

 『女神を汚すな。解放しろ』

 玲奈がそれを見て、小さな悲鳴を上げて口元を押さえた。
 過呼吸気味に肩が上下する。
「……あっ、うぅ……」
「落ち着け、玲奈」
「私のせいだ……私が、湊を見たから……私が、あんなこと言ったから……!」

 彼女の瞳から、光が消えていく。
 システムエラー。
 制御不能。
 玲奈が俺に縋り付く。
「ごめんなさい、ごめんなさい……湊、捨てないで、嫌いにならないで……!」
 子供のように泣きじゃくる彼女を、俺は抱きしめた。
 その体は熱く、脈拍は異常に速い。銀髪から、いつもの甘い香りが混じった汗の匂いが立ち上る。

 限界だ。
 俺は冷静に判断を下した。
 これ以上の稼働は、修復不可能な損傷(ブレイクダウン)を招く。

「……活動休止だ」
 俺は彼女の耳元で囁いた。
「無期限活動休止。……これ以上は、俺が許さない」
 玲奈は俺の服を握りしめたまま、意識を飛ばすように崩れ落ちた。

 俺は彼女を抱きかかえ、寝室へと運ぶ。
 その軽い質量を感じながら、俺の思考は冷徹に次の手を計算していた。
 ここまで追い込んだ敵(社会)。
 そして、その引き金を引いたミオ。
 
 代償は払わせる。
 システムを攻撃した罪は、システムの総力を挙げて償わせる。
 活動休止は「敗北」ではない。
 「反撃」のための、潜伏期間だ。

 ――そして、その反撃で、俺はどこまで「人間」を失うことになるのか。

(第20話 おわり)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜

沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」 中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。 それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。  だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。  • 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。  • 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。  • 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。  • オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。  恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。 教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。  「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」  鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。 恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

【朗報】俺をこっぴどく振った幼馴染がレンカノしてたので2時間15,000円でレンタルしてみました

田中又雄
恋愛
俺には幼稚園の頃からの幼馴染がいた。 しかし、高校進学にあたり、別々の高校に行くことになったため、中学卒業のタイミングで思い切って告白してみた。 だが、返ってきたのは…「はぁ!?誰があんたみたいなのと付き合うのよ!」という酷い言葉だった。 それからは家は近所だったが、それからは一度も話をすることもなく、高校を卒業して、俺たちは同じ大学に行くことになった。 そんなある日、とある噂を聞いた。 どうやら、あいつがレンタル彼女なるものを始めたとか…。 気持ち悪いと思いながらも俺は予約を入れるのであった。 そうして、デート当日。 待ち合わせ場所に着くと、後ろから彼女がやってきた。 「あ、ごめんね!待たせちゃっ…た…よ…ね」と、どんどんと顔が青ざめる。 「…待ってないよ。マイハニー」 「なっ…!?なんであんたが…!ばっかじゃないの!?」 「あんた…?何を言っているんだい?彼女が彼氏にあんたとか言わないよね?」 「頭おかしいんじゃないの…」 そうして、ドン引きする幼馴染と俺は初デートをするのだった。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...