幼馴染に「つまらない」と捨てられた俺、実は学校一のクール美少女(正体は超人気覆面配信者)の「生活管理係」でした。

月下花音

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第二章 頂点の裏側で、俺は彼女を“壊れずに運用するシステム”になった

第29話:管理不能な“善意”という名のバグ

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 玲奈の母親が訪ねてきたのは、そんなじめじめした雨の日曜日だった。

 彼女は思い出話に花を咲かせている。
 出されたお茶はぬるく、茶葉の苦味が強すぎた。俺はそれを異物のように飲み下し、喉の奥の不快感を無視した。玲奈によく似た美しい顔立ちをしていた。
 だが、その瞳には玲奈にはない「温度」があった。
 湿度と言ってもいい。
 心配、不安、愛情、後悔。
 そんな人間的な感情が、幾重にも塗り重ねられた瞳。

 彼女は新居のリビングに座り、出された紅茶に口をつけず、ただ玲奈を見つめていた。
 玲奈は俺の隣に座り、まるで借りてきた猫のように静かだ。
 怯えているわけではない。
 「どう反応すればいいか(コマンド)が分からない」のだ。

「……玲奈」
 母親が口を開いた。声は穏やかで、優しかった。
「配信、見たわよ」
「……うん」
「あんなこと言って……大変だったわね」
 母親はハンカチを取り出し、目元を拭った。
「可哀想に。……誰かに言わされたの? 脅されてるの?」

 その視線が、ちらりと俺に向けられる。
 敵意ではない。
 「娘をたぶらかした悪い男」を見る目でもない。
 ただ純粋に、
 「この子は被害者だ」と決めつけている目だ。

 俺は眉をひそめないように、表情筋を制御する。
 厄介だ。
 怒鳴り込んでくるなら対処しやすい。論理で武装してくるなら論破すればいい。
 だが、この善意は厄介だ。
 彼女は「玲奈の幸せ」を本気で願っている。
 ただ、その「幸せの定義」が、俺たちとは致命的にズレているだけだ。

「お母さん」
 玲奈が俺の指示(サイン)を待たずに口を開いた。
「私は、幸せだよ」
「そんなわけないじゃない!」
 母親が声を荒げた。一瞬だけ、感情が暴走する。
「あんな……自分の意思がないみたいな生き方、幸せなわけがない! あなたはもっと自由で、もっと輝いていたはずよ!」

「自由?」
 玲奈が首を傾げる。
「自由って、なに?」
「それは……普通の女の子みたいに、恋をして、友達と遊んで、自分の好きなことをして……」
「今、してるよ」
 玲奈は俺の手を握った。
「私は湊が好き。湊と一緒にいるのが好き。湊に管理されるのが、一番好き」

「それは洗脳よ!」
 母親が叫んだ。
 その言葉に、俺は小さく息を吐いた。
 洗脳。便利な言葉だ。理解できない価値観を否定するための、最も安易なレッテル。

「相沢さん」
 母親が俺に向き直った。
 その目は涙で潤んでいる。
「お願いです。娘を……玲奈を返してください」
「返す、とは?」
「あの頃の……素直で、明るかった玲奈に。あなたが来る前の、あの子に」
「小学校の発表会で、一人でピアノを弾いた時、みんなが拍手してくれたわよ。あの子、本当に輝いてたの」


 俺は心の中で毒づいた。
 エラーだ。論理が通じない。
 彼女が見ている「あの頃の玲奈」など、この世のどこにも存在しなかった。
 あれは玲奈が必死に演じていた「良い子」の仮面だ。
 母親は、その仮面を愛していただけだ。
 本物の玲奈(中身)を見ようともせずに。

 だが、それを指摘しても意味はない。
 彼女は信じないだろう。
 自分の愛が、娘を追い詰めていたなんて事実は。

「……お断りします」
 俺は静かに答えた。
「玲奈は今、ここにいます。貴方が望む『過去の幻影』を愛したいなら、どうぞご自由に。ですが、現在の玲奈(実体)の管理権限は、私が持っています」

「あなた……っ!」
 母親が立ち上がる。
「警察に行くわよ! 未成年者略取で……!」
「どうぞ。玲奈はもう二十歳です。法的拘束力はありません」
「そういう問題じゃないのよ!」

 話にならない。
 感情論と法律論が交差しない平行線。
 面倒だ。あまりにも非効率だ。
 
 俺は玲奈を見た。
 彼女はどうする?
 母親の涙に絆されるか?
 それとも――。

 玲奈は立ち上がり、母親の前に立った。
 そして、淡々と言った。

「帰って」

 母親が息を呑む。
「れ、玲奈……?」
「もう来ないで。私の管理者(マスター)が困ってる」
「マス……なに言ってるの……?」
「私は『玲奈』じゃない。……湊の『レイ』なの」

 玲奈が俺の手を握り返す。
 その指先が、わずかに震えていた。
 〇・三秒後、振動は停止した。


 決定的な拒絶。
 それは、親子という血の繋がりすらも、システムの前では無意味なノイズであるという宣言だった。

 母親は崩れ落ちるように泣き出した。
 俺たちはそれを、ただ静観していた。
 冷たい雨の音が、窓の外で降り続いている。
 
 俺はこの時、初めて感じていた。
 これは勝利ではない。
 ただの、悲しいほどに正確な「処理」だと。

 数時間後、母親は帰っていった。
 二度と来ることはないだろう。
 彼女の中で、娘は「死んだ」ことになったのだから。

 俺はソファで眠ってしまった玲奈の髪を撫でた。
 親さえも切り捨てた彼女。
 もはや、このシステムから出る道はない。
 退路は断たれた。
 
 いや、最初から退路などなかったのだ。
 俺たちは、この閉ざされた楽園で、永遠に錆びていく運命だ。
 
「……よし」
 俺はスマホを取り出し、スケジュールに新たな項目を追加した。
 
 『7月7日 役所にて手続き(婚姻届提出)』

 最後の防壁を築く時が来た。
 善意という名のバグを、二度と侵入させないために。

(第29話 おわり)
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