11 / 15
第11話:祖父の叱責
しおりを挟む
相良の出馬拒否から一夜明けた。
私は登校せず、ホテルのスイートルームにいた。
祖父が「緊急会議」と称して私を呼び出したからだ。
広すぎる部屋。重厚な調度品。
ソファに座る老人は、モニター越しではなく、実体としてそこにいた。
九条重蔵(くじょう じゅうぞう)。政財界のフィクサーであり、私の雇い主。
「……失望したぞ、玲奈」
祖父の第一声は、重く響いた。
「相良樹を出馬させられなかったそうだな。期限を守れない無能を、私はどう扱うべきか?」
私は直立不動で頭を下げた。
「申し訳ありません。……ですが、これは必要なプロセスです」
「プロセス?」
「はい。彼は操り人形になることを拒否しました。それは、彼が『王の資質(エゴ)』に目覚めた証拠でもあります」
詭弁だ。
ただの失敗を、もっともらしく言い訳しているだけだ。
「……ふん。口だけは達者になったものだ」
祖父が冷ややかに笑う。
「だが、結果が出ていない。……美優という邪魔者も排除できていないようだしな」
心臓が跳ねた。
祖父は全て知っている。私の失態も、嫉妬も。
「プランBに変更する」
祖父が指を鳴らす。
背後のSPがタブレット端末を差し出した。
画面には、相良樹の父親が経営する工場の写真が映っていた。
「相良の父親の会社は、資金繰りが厳しいらしいな。……私が少し『手助け』をしてやれば、彼は学費を払えなくなり、退学せざるを得なくなる」
「なっ……!?」
私は声を上げた。
「待ってください! 相良くんは関係ないでしょう!?」
「関係ある。彼が私の望む駒としての価値を示さないなら、廃棄処分にするだけだ」
祖父は冷酷に言い放つ。
「お前が彼を説得しろ。明後日の立候補締め切りまでに、彼が私の前に跪けば、会社は助けてやる」
最悪の取引。
彼を救うために、彼を奴隷(ドレイ)にしろと言うのか。
「……嫌です」
私の口から、拒絶の言葉が漏れた。
自分でも驚くほどはっきりと。
「何だと?」
祖父の目が鋭くなる。
「私は……彼を操り人形にはしたくない。彼には、自分の意志で王になってほしいんです」
「甘いな。そんな綺麗事で世界は動かん」
「動かしてみせます!」
私は顔を上げた。
祖父の目を見据える。膝が震えているのを悟られないように。
「私に賭けてください。……もし失敗したら、私は九条家を出ていきます。フィクサーの地位も、財産も、全て放棄します」
祖父はしばらく沈黙し、私を値踏みするように見つめた。
そして、短く鼻を鳴らした。
「……いいだろう。明後日まで待つ」
彼は立ち上がった。
「ただし、失敗すればお前も破滅だ。覚悟しておけ」
部屋を出た瞬間、私は壁に手をついて崩れ落ちた。
言ってしまった。
もう後戻りはできない。
私の人生と、相良の人生。両方を天秤にかけたギャンブル。
私はスマホを取り出し、相良にメッセージを送ろうとした。
でも、指が止まった。
何を伝えればいい?
「あなたを助けるために立候補して」なんて、言えるわけがない。
その時、学校の掲示板サイトの通知が来た。
『速報:生徒会長選、朝比奈美優が立候補!』
美優が動いた。
彼女は相良を守るために、自分が権力を握ろうとしているのだ。
「私が樹くんを守る」という、彼女なりの愛の形。
「……負けてられないわね」
私は立ち上がった。
美優にも、祖父にも、そして相良にも負けたくない。
私は走った。
タクシーを拾い、学校へ向かう。
私がやるべきことは一つ。
私自身が生徒会長に立候補することだ。
そして、相良樹を最大の敵(ライバル)として迎え撃つ。
彼を「私の敵」として舞台に引きずり出す。
それが、私が書ける唯一の、愛のシナリオだった。
(つづく)
私は登校せず、ホテルのスイートルームにいた。
祖父が「緊急会議」と称して私を呼び出したからだ。
広すぎる部屋。重厚な調度品。
ソファに座る老人は、モニター越しではなく、実体としてそこにいた。
九条重蔵(くじょう じゅうぞう)。政財界のフィクサーであり、私の雇い主。
「……失望したぞ、玲奈」
祖父の第一声は、重く響いた。
「相良樹を出馬させられなかったそうだな。期限を守れない無能を、私はどう扱うべきか?」
私は直立不動で頭を下げた。
「申し訳ありません。……ですが、これは必要なプロセスです」
「プロセス?」
「はい。彼は操り人形になることを拒否しました。それは、彼が『王の資質(エゴ)』に目覚めた証拠でもあります」
詭弁だ。
ただの失敗を、もっともらしく言い訳しているだけだ。
「……ふん。口だけは達者になったものだ」
祖父が冷ややかに笑う。
「だが、結果が出ていない。……美優という邪魔者も排除できていないようだしな」
心臓が跳ねた。
祖父は全て知っている。私の失態も、嫉妬も。
「プランBに変更する」
祖父が指を鳴らす。
背後のSPがタブレット端末を差し出した。
画面には、相良樹の父親が経営する工場の写真が映っていた。
「相良の父親の会社は、資金繰りが厳しいらしいな。……私が少し『手助け』をしてやれば、彼は学費を払えなくなり、退学せざるを得なくなる」
「なっ……!?」
私は声を上げた。
「待ってください! 相良くんは関係ないでしょう!?」
「関係ある。彼が私の望む駒としての価値を示さないなら、廃棄処分にするだけだ」
祖父は冷酷に言い放つ。
「お前が彼を説得しろ。明後日の立候補締め切りまでに、彼が私の前に跪けば、会社は助けてやる」
最悪の取引。
彼を救うために、彼を奴隷(ドレイ)にしろと言うのか。
「……嫌です」
私の口から、拒絶の言葉が漏れた。
自分でも驚くほどはっきりと。
「何だと?」
祖父の目が鋭くなる。
「私は……彼を操り人形にはしたくない。彼には、自分の意志で王になってほしいんです」
「甘いな。そんな綺麗事で世界は動かん」
「動かしてみせます!」
私は顔を上げた。
祖父の目を見据える。膝が震えているのを悟られないように。
「私に賭けてください。……もし失敗したら、私は九条家を出ていきます。フィクサーの地位も、財産も、全て放棄します」
祖父はしばらく沈黙し、私を値踏みするように見つめた。
そして、短く鼻を鳴らした。
「……いいだろう。明後日まで待つ」
彼は立ち上がった。
「ただし、失敗すればお前も破滅だ。覚悟しておけ」
部屋を出た瞬間、私は壁に手をついて崩れ落ちた。
言ってしまった。
もう後戻りはできない。
私の人生と、相良の人生。両方を天秤にかけたギャンブル。
私はスマホを取り出し、相良にメッセージを送ろうとした。
でも、指が止まった。
何を伝えればいい?
「あなたを助けるために立候補して」なんて、言えるわけがない。
その時、学校の掲示板サイトの通知が来た。
『速報:生徒会長選、朝比奈美優が立候補!』
美優が動いた。
彼女は相良を守るために、自分が権力を握ろうとしているのだ。
「私が樹くんを守る」という、彼女なりの愛の形。
「……負けてられないわね」
私は立ち上がった。
美優にも、祖父にも、そして相良にも負けたくない。
私は走った。
タクシーを拾い、学校へ向かう。
私がやるべきことは一つ。
私自身が生徒会長に立候補することだ。
そして、相良樹を最大の敵(ライバル)として迎え撃つ。
彼を「私の敵」として舞台に引きずり出す。
それが、私が書ける唯一の、愛のシナリオだった。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる