偽装ライバル 〜絶望と再生のデバッグモード〜

月下花音

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第11話:祖父の叱責

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 相良の出馬拒否から一夜明けた。
 私は登校せず、ホテルのスイートルームにいた。
 祖父が「緊急会議」と称して私を呼び出したからだ。

 広すぎる部屋。重厚な調度品。
 ソファに座る老人は、モニター越しではなく、実体としてそこにいた。
 九条重蔵(くじょう じゅうぞう)。政財界のフィクサーであり、私の雇い主。

「……失望したぞ、玲奈」
 祖父の第一声は、重く響いた。
「相良樹を出馬させられなかったそうだな。期限を守れない無能を、私はどう扱うべきか?」

 私は直立不動で頭を下げた。
「申し訳ありません。……ですが、これは必要なプロセスです」
「プロセス?」
「はい。彼は操り人形になることを拒否しました。それは、彼が『王の資質(エゴ)』に目覚めた証拠でもあります」

 詭弁だ。
 ただの失敗を、もっともらしく言い訳しているだけだ。

「……ふん。口だけは達者になったものだ」
 祖父が冷ややかに笑う。
「だが、結果が出ていない。……美優という邪魔者も排除できていないようだしな」

 心臓が跳ねた。
 祖父は全て知っている。私の失態も、嫉妬も。

「プランBに変更する」
 祖父が指を鳴らす。
 背後のSPがタブレット端末を差し出した。
 画面には、相良樹の父親が経営する工場の写真が映っていた。

「相良の父親の会社は、資金繰りが厳しいらしいな。……私が少し『手助け』をしてやれば、彼は学費を払えなくなり、退学せざるを得なくなる」

「なっ……!?」
 私は声を上げた。
「待ってください! 相良くんは関係ないでしょう!?」

「関係ある。彼が私の望む駒としての価値を示さないなら、廃棄処分にするだけだ」
 祖父は冷酷に言い放つ。
「お前が彼を説得しろ。明後日の立候補締め切りまでに、彼が私の前に跪けば、会社は助けてやる」

 最悪の取引。
 彼を救うために、彼を奴隷(ドレイ)にしろと言うのか。

「……嫌です」
 私の口から、拒絶の言葉が漏れた。
 自分でも驚くほどはっきりと。

「何だと?」
 祖父の目が鋭くなる。

「私は……彼を操り人形にはしたくない。彼には、自分の意志で王になってほしいんです」
「甘いな。そんな綺麗事で世界は動かん」
「動かしてみせます!」

 私は顔を上げた。
 祖父の目を見据える。膝が震えているのを悟られないように。

「私に賭けてください。……もし失敗したら、私は九条家を出ていきます。フィクサーの地位も、財産も、全て放棄します」

 祖父はしばらく沈黙し、私を値踏みするように見つめた。
 そして、短く鼻を鳴らした。

「……いいだろう。明後日まで待つ」
 彼は立ち上がった。
「ただし、失敗すればお前も破滅だ。覚悟しておけ」

 部屋を出た瞬間、私は壁に手をついて崩れ落ちた。
 言ってしまった。
 もう後戻りはできない。
 私の人生と、相良の人生。両方を天秤にかけたギャンブル。

 私はスマホを取り出し、相良にメッセージを送ろうとした。
 でも、指が止まった。
 何を伝えればいい?
 「あなたを助けるために立候補して」なんて、言えるわけがない。

 その時、学校の掲示板サイトの通知が来た。
 『速報:生徒会長選、朝比奈美優が立候補!』

 美優が動いた。
 彼女は相良を守るために、自分が権力を握ろうとしているのだ。
 「私が樹くんを守る」という、彼女なりの愛の形。

「……負けてられないわね」
 私は立ち上がった。
 美優にも、祖父にも、そして相良にも負けたくない。

 私は走った。
 タクシーを拾い、学校へ向かう。
 私がやるべきことは一つ。
 私自身が生徒会長に立候補することだ。
 
 そして、相良樹を最大の敵(ライバル)として迎え撃つ。
 彼を「私の敵」として舞台に引きずり出す。
 それが、私が書ける唯一の、愛のシナリオだった。

(つづく)
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