偽装ライバル 〜絶望と再生のデバッグモード〜

月下花音

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第15話:俺がお前をプロデュースする

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 それから一年後。
 学園の生徒会室。
 私は副会長のデスクで、書類の山と格闘していた。
 
「会長! 予算案の決裁まだ!?」
「あー、ごめん! 今美優と文化祭の打ち合わせしてて……」
「後にして! 先にこっち!」
 
 私は相良の首根っこを掴んで机に座らせる。
 相良が生徒会長。私が副会長。美優が会計。
 この体制になってから、生徒会はカオスかつ最強の状態にあった。

 私は九条家とは絶縁状態のままだ。
 現在は奨学金を得て、一人暮らしをしている。生活はカツカツだが、バイトと生徒会活動で充実している。
 あの「完璧なお嬢様」の仮面は完全に剥がれ落ちた。
 今は「鬼の副会長」として恐れられている(そして一部のマゾヒスト男子に人気があるらしい)。

「……ふぅ。やっと終わった」
 夕方。相良が伸びをする。
「お疲れ、玲奈」
「お疲れ様。……相変わらず手際が悪いわね」
「厳しいなぁ。これでも成長しただろ?」
「まだまだよ。……私の理想のキングには程遠いわ」

 私は憎まれ口を叩きながら、お茶を淹れる。
 安いティーバッグの紅茶。
 昔の私なら口にもしなかっただろう。
 でも、今はこれが一番美味しい。

 美優は気を利かせて先に帰った(「お熱いことで」と捨て台詞を残して)。
 生徒会室には二人きり。

「なあ、玲奈」
 相良が窓際で夕日を見ながら言う。
「俺、進路決めたよ」
「へえ。どこ? 三流私大?」
「経営学部。……将来、会社を作ろうと思う」

「会社?」
「ああ。誰もが自分の才能を見つけられるような、プロデュース会社」
 彼は振り返って、私を見た。
「最初の契約社員は、お前な」

「……は?」
「お前のプロデュース能力はすごい。俺が保証する。……だから、一生俺の隣で、俺を支えてくれ」

 それは、遠回しなプロポーズだった。
 
 顔が熱くなる。
 心拍数が上がる。
 胃は痛くない。むしろ、くすぐったい。

「……条件があるわ」
 私は精一杯の虚勢を張る。
「給料は高いわよ? それに、福利厚生もしっかりしてもらわないと」
「ああ。愛ってやつで支払うよ」

「……バカ」

 彼が近づいてくる。
 夕日の逆光で、彼の顔がよく見えない。
 でも、わかっている。
 最高に優しくて、最高にかっこいい顔をしていることを。

 キスをした。
 紅茶の味と、青春の味がした。
 
 私の書いた「偽装ライバル」のシナリオは、完全に破綻した。
 その代わりに生まれたのは、予測不可能で、波乱万丈で、最高に幸せな「本物の恋人」の物語。

 私は彼の方に頭を預けた。
「……覚悟してね、社長。私を雇うなら、世界一の会社にしないと許さないから」
「おう。任せとけ、副社長」

 私たちは笑い合った。
 窓の外では、一番星が輝き始めていた。
 私たちの未来のように、小さけれど、確かな光を放って。

(完)
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