偽装ライバル 〜絶望と再生のデバッグモード〜

月下花音

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第14話:契約違反のペナルティ

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 翌日、私は学校を休んだ。
 行く場所がなかったからだ。
 叔母の家に転がり込む算段はついたが、転校の手続きなどで少し時間がかかる。
 この学園とも、今日でお別れだ。

 私は最後に一度だけ、制服に袖を通した。
 特注の、あの上品すぎる制服。
 もう着ることはないだろう。

 荷物をまとめ、マンションを出る。
 クレジットカードは止まっていた。現金も心細い。
 これが「自由」の代償か。
 意外と軽いものね。

 駅へ向かう途中。
 見慣れた公園の前を通る。
 そこで足を止めた。
 ベンチに、相良が座っていたからだ。

 授業中の時間のはず。
 なんでここに?
 彼はスマホを必死に操作していた。
 その顔は焦燥に満ちている。

「……何サボってるの、生徒会長」
 私は声をかけた。

「九条さん!」
 相良が飛び上がる。
「探したんだぞ! 学校来てないし、家も引き払ったって聞いて……!」

「情報が早いわね。……ええ、私はもうこの街を出るわ」
 私は淡々と告げる。
「任務完了よ。あなたはキングになった。私の役目は終わり」

「任務って……やっぱり、誰かの命令だったのか?」
「そうよ。……全部ビジネス。あなたへの暴言も、挑戦状も、選挙戦も。全部あなたを成長させるための演技」

 嘘をついた。
 全部が演技だったわけじゃない。
 あの嫉妬も、涙も、PCを壊した怒りも、本物だった。
 でも、それを悟られてはいけない。

「そうか……」
 相良が俯く。
「じゃあ、あの『好き』って感情も……演技だったのか?」

 ドキリとした。
 私は彼に好きなんて言った覚えはない。
 態度に出ていたということか?

「……自意識過剰ね」
 私は鼻で笑う。
「私があなたごときを好きになるわけないでしょ? 鏡見なさいよ」

「そっか。……よかった」
 相良が妙なことを言う。
「演技でよかった。……もし本気だったら、俺、最低なことするところだった」

「は?」

「俺は、あんたが好きだ」

 時が止まった。
 公園の噴水の音だけが響く。

「……は?」
 私は間抜けな声を上げた。

「あんたが演技でも、俺は本気だ。……最初はムカつく女だと思ったけど、あんたはずっと俺を見ててくれた。俺のために怒って、俺のために泣いてくれた」
 相良が私に近づく。
「あんたがいなきゃ、俺は変われなかった。……俺の横には、あんたが必要なんだ」

 視界が歪む。
 涙が溢れてくる。
 我慢していた堤防が決壊する。

「バカ……! バカじゃないの!?」
 私は泣きながら叫んだ。
「私はあんたを騙してたのよ!? 利用してたのよ!? 祖父の命令で、あんたの人生を食い物にしようとしてた悪人なのよ!」

「知ってるよ。……でも、あんたは最後、俺を守るために自分の立場を捨ててくれたんだろ?」
 相良が私の手を掴む。
「美優から聞いたよ。あんたが家を追い出された理由」

 美優。あの情報通め。余計なことを。

「離して! 私はもう何もないの! お金も、地位も、家も! あんたに関わっても損するだけよ!」
「うるせえ! 損得勘定で恋愛してんじゃねえよ!」

 相良が私を抱きしめた。
 強い力。温かい体温。
 洗剤の匂い。

「俺がプロデュースしてやる」
 彼が耳元で囁く。
「空っぽになったなら、俺が埋めてやる。……これからは、俺があんたのフィクサーになってやるよ」

 その言葉に、私は完全に崩れ落ちた。
 彼の胸の中で、子供のように泣きじゃくった。
 仮面が砕け散り、ただの「九条玲奈」が生まれた瞬間だった。

(つづく)
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