ココイチ男子の恋人契約~1ヶ月だけ君と本気の恋をする~

月下花音

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第1話:期限付きの約束

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深夜0時のコンビニ駐車場。  
俺の目の前で――カップルがキスをしていた。

街灯の下、抱き合う二人。  
女の子が首に手を回して、男がそっと頬に触れる。  
そして、唇が重なる。

うわ、マジかよ。

俺は思わず目を逸らした。見ちゃいけないものを見た気がして、自販機の前に逃げる。ガコン、と缶を買う音が、夜の静寂に響いた。

「はぁ…」

コーラを開けて一口飲む。炭酸が喉を刺激するけど、気は晴れない。あんな風に、誰かとキスなんて――俺には一生無理だろうな。

だって俺は「1ヶ月以内に恋人を作れ。できなかったらクラス全員の前で女装して告白」という、とんでもない罰ゲームを背負わされたんだから。



すべては、数時間前の昼休みに決まった。

俺、優也と、悪友の武田と佐藤、そしてクラスのムードメーカーである美咲の4人は、教室で弁当を広げていた。話のきっかけは、武田の自慢話だ。

「俺、昨日ついに隣のクラスの真奈ちゃんとLINE交換したわ」

「マジかよ、武田。お前、声かけるの苦手じゃなかったか?」

佐藤が茶化すと、武田は得意げに胸を張る。

「男は度胸だろ。それに比べて優也、お前はいつになったら彼女作るんだ?文芸部で小説ばっか読んでないで、少しは現実の恋愛も経験しろよな」

「う、うるさいな…」

俺が顔を赤くして反論すると、美咲がニヤニヤしながら提案した。

「じゃあさ、ここで一番度胸がないやつを決めるゲームしない?」

「面白そうじゃん!負けたやつにはキッツい罰ゲームな!」

武田が乗っかり、最悪の流れになった。俺は嫌な予感しかしない。

「罰ゲームって何だよ?」

「そりゃあ、恋愛絡みでしょ。負けたやつは…『女子の制服を着て、クラスの誰かに告白する』ってのはどう?」

美咲のその一言で、地獄の罰ゲームは決定した。そして、運命を決めるゲームが始まった。単純な「ババ抜き」だった。

ジョーカーを1枚だけ入れたトランプが配られる。俺の手札には、運悪く最初からジョーカーがあった。

頼む、誰か引いてくれ…!

心の中で祈りながらも、ポーカーフェイスを装う。ゲームは進み、一人、また一人と抜けていく。そしてついに、残ったのは俺と、最初に話を振ってきた武田の二人だけになった。

俺の手札は2枚。「ハートの7」と「ジョーカー」。武田の手札は1枚。「スペードの7」。最悪の状況だ。武田が俺からカードを引く番。50%の確率。

「優也、お前の運命、俺が決めちゃうぜ?」

武田がニヤリと笑いながら、俺の持つ2枚のカードに手を伸ばす。

頼む、頼む、頼む…!

武田の指が、一瞬ためらって――片方を引き抜いた。それは、ハートの7だった。

「よっしゃあ!ペアだ!」

武田は、持っていたスペードの7と今引いたハートの7を場に捨て、満面の笑みで立ち上がった。俺の右手には、一枚だけ。忌まわしいジョーカーのカードが、虚しく残されていた。

「うぉっしゃあああ!優也の負けだー!!」

教室中に、仲間たちの歓声が響き渡った。

「優也、女装決定!」

俺は、机に突っ伏した。頭が真っ白だった。



そして今、俺はここで一人、絶望している。

「詰んだ…」

俺は自動販売機の前で、再び一人で呟いた。冗談じゃない。俺は昔から、人前に出るのが苦手だった。友達は多い方じゃない。告白なんて夢のまた夢。女の子と二人で話すだけで心臓が爆発しそうになる。

そんな俺が、1ヶ月で恋人?無理に決まってる。

そのとき。

「優也くん?」

背後から、聞き覚えのある声。振り返ると――こころが立っていた。



「こ、こころ…?」

幼馴染のこころ。同じマンションの別棟に住んでる、小学生の頃からの知り合い。パジャマの上にパーカーを羽織った姿。夜のコンビニに来たらしい。

「こんな時間に、どうしたの?」

こころが首を傾げる。その仕草が、街灯の光の中で妙に可愛く見えた。

「あ、いや…ちょっと」

言葉を濁す。罰ゲームのことなんて、恥ずかしくて言えない。でも、こころは俺の顔をじっと見て、小さく笑った。

「何か悩んでるでしょ。顔に書いてあるよ」

「…バレた?」

「うん。優也くん、わかりやすいから」

こころはそう言って、自販機でココアを買う。温かい缶を両手で包んで、俺の隣に立った。

距離が、近い。

「で、何?話してみて」

こころの声が、優しい。俺は、少し迷ったけど…観念した。

「実は…罰ゲームで、1ヶ月以内に恋人作らなきゃいけなくて」

「恋人?」

こころが、目を丸くする。

「うん。できなかったら、クラスの前で女装して告白…とか」

「…それ、マジ?」

「マジ」

こころは一瞬黙って、それから噴き出した。

「ぷっ、あはは!優也くん、女装似合いそう」

「笑うなよ!」

俺は顔を赤くして反論するけど、こころは笑いが止まらない。でも、その笑顔を見てると、少しだけ気が楽になった。



「でもさ」

こころが笑いを収めて、真面目な顔になる。

「優也くん、本気で困ってるんだよね?」

「うん…」

「じゃあ」

こころは、俺の手を取った。

「私が、恋人のフリしてあげる」

「え?」

「契約恋人。どう?」

こころの瞳が、月明かりの中で輝いている。

「でも…」

「大丈夫。私たち幼馴染だし、演技くらいできるよ」

こころは、俺の手を握ったまま微笑む。

「それに…」

こころが、少し顔を赤らめる。

「優也くんの恋人役、ちょっと興味ある」

その言葉に、俺の心臓が跳ねた。

「こころ…」

「決まりね。明日から、私たち恋人よ」

こころは、俺の頬に軽くキスをした。

「契約成立の印」

そう言って、微笑む。

俺は、頬に残る温かさに、一晩中眠れなかった。

(つづく)
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