【短編】通知ゼロのイブから、既読スルーの元旦まで 〜17歳の恋は、あけおめ前に死ぬ

月下花音

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第2話:クリスマス後の違和感

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 12月26日。
 クリスマスの熱狂が嘘みたいに冷めて、年末の空気感が漂い始めるこの時期。
 私のスマホの熱量も、比例して下がっていた。
 ゆうたからのLINEが遅い。
 イブの時は秒で返ってきたのに、今は平気で1時間とか2時間空く。
『ごめん、部活忙しくて』
 こればっかり。
 サッカー部の冬合宿が始まったから仕方ないのは分かってる。
 分かってるけど、スマホ握りしめて待ってるこっちの身にもなってほしい。
 既読がつくまでの時間が、私の寿命を削っていることに気づいてないんだろうか。

「あかり、顔死んでるよ」
 ファミレスでドリンクバーのメロンソーダを混ぜながら、友達のマナが言った。
「……だってさ、昨日なんか『おやすみ』のスタンプ一つだよ? ありえなくない?」
「合宿中でしょ? 疲れてるんじゃない?」
「疲れててもスタンプくらい押せるじゃん。指先一つで済むんだよ? 0.1秒の労力も私に使いたくないわけ?」
「重いって。マジで」
 マナが呆れたようにポテトをつまむ。
 重い?
 これが?
 付き合ってるなら当たり前の連絡頻度を求めてるだけじゃん。
 私が重いんじゃなくて、ゆうたが軽すぎるんだよ。

 スマホを開く。
 ゆうたのストーリーを見る。
 更新されてる。
『合宿2日目! 走り込み死ぬ』
 部員たちがグラウンドで倒れ込んでる写真。
 その端っこに、白いベンチコートが見切れている。
 拡大する。
 スクショして、さらに拡大する。
 このピンクのスマホケース、見覚えがある。
 マネージャーの美咲先輩だ。
 やっぱりいる。
 当たり前だ、マネージャーなんだから。
 でも、なんか嫌だ。
 ゆうたの近くにいるのが嫌だ。
 特に、美咲先輩は美人枠じゃなくて「愛嬌あって気が利く枠」だから余計にタチが悪い。
 男子はああいうタイプに弱いって、相場が決まってる。

『ねえ、美咲先輩も行ってるの?』
 送信する前に消した。
 こんなの送ったら、束縛女認定される。
「ウザい」と思われたくない。
 でも気になって仕方ない。
 インスタの検索窓に『misaki_soc』って入力して、美咲先輩のアカウントに飛ぶ。
 鍵垢じゃない。
 ガード緩すぎ。
 最新の投稿。
『みんなお疲れ様! マネージャー特製豚汁どうぞ♡』
 大きな鍋を囲む部員たちの写真。
 その中心で、一番いい笑顔で豚汁を持ってるのがゆうただ。
「……は?」
 声が出た。
 ゆうた、私の前でそんな顔したことある?
 クリスマスの時の「冷たいキス」の後の顔とは大違いだ。
 生き生きしてる。
 楽しそう。
 しかも、コメント欄。
 ゆうたのアカウントから『うまかった! ごち!』ってコメントが入ってる。
 私にはLINE返してないのに?
 インスタにはコメントすんの?
 優先順位、どうなってんの?

 胃の奥が熱くなる。
 メロンソーダが一瞬で泥水みたいな味になった。
「マナ、ちょっとこれ見て」
 スマホを見せる。
「えー、ただの豚汁じゃん。考えすぎだって」
「でもさ、私には返信ないのに、こっちにはコメントしてるんだよ!? おかしくない!?」
「あー……まあ、みんな見てる場所だし? 先輩の手前、反応しないと悪いと思ったんじゃない?」
 マナのフォローが虚しい。
 そんな社交辞令、ゆうたができるわけない。
 あいつはデリカシーのない単細胞だ。
 つまり、本能で「豚汁うまい」「美咲先輩ありがとう」って思ってるってことだ。
 私の「スペシャルショートケーキ」より、美咲先輩の「豚汁」の方が勝ってるってことだ。

 帰り道、一人で歩きながらまたLINEを確認する。
 やっぱり既読がつかない。
 2時間経過。
 合宿の休憩時間終わったのかな。
 それとも、今頃美咲先輩と豚汁のおかわりで盛り上がってるのかな。
 妄想が止まらない。
 悪い方向にしか考えられない。
 イブの夜、あんなに通知が鳴り止まなくて「世界一幸せ」とか思ってた自分が、今は世界で一番惨めな人間に思えてくる。
 たった2日で急降下。
 ジェットコースターにも程がある。
 通知センターには、ニュースアプリのどうでもいい通知とお母さんからの『夕飯いらないの?』だけ。
 ゆうたの名前はない。
「……ふざけんな」
 小さく毒づいて、私はスマホをポケットに乱暴に突っ込んだ。
 画面が割れてもいいと思った。
 いや、むしろ割れてくれたら、連絡が来ない言い訳になるのに。

(つづく)
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