【短編】通知ゼロのイブから、既読スルーの元旦まで 〜17歳の恋は、あけおめ前に死ぬ

月下花音

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第4話:大晦日の別れ

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 12月31日。
 大晦日。
 本来なら今頃、みなとみらいの観覧車の下で、ゆうたと手を繋いでいるはずだった。
 でも現実は、実家のこたつでミカンを剥いている。
 お母さんがそばを茹でている匂いがする。
「あんた、今日出かけないの?」
 お母さんが無神経に聞いてくる。
「……うん、なんか、向こうが風邪引いたみたいで」
 嘘をついた。
「振られかけたから家にいる」なんて、死んでも言えない。
 プライドが許さない。
 お父さんはビール飲みながらガキ使(の再放送)見て笑ってる。
 平和だ。
 この家の平和な空気が、今の私には猛毒だ。
 息が詰まる。

 スマホを握りしめる。
 あれから丸2日、既読がつかない。
 ブロックはされてない(スタンププレゼントで確認した)。
 ただの未読無視。
 これが一番メンタルに来る。
「ごめん」の一言を待ってる私の時間は、完全に止まってるのに、世間はどんどん新しい年に向かって進んでいく。
 テレビでは紅白歌合戦が始まった。
 キラキラしたアイドルたちが歌って踊ってる。
『愛してる~』とか『ずっと一緒~』とか、歌詞がいちいち神経を逆撫でする。
 そんな安っぽい言葉で愛が続くなら苦労しないわ。
 あんたらの彼氏も、裏でマネージャーと豚汁食ってるかもしれないよ?
 心の中で悪態をつく。
 性格が悪くなってる自覚はある。
 でも、そうでも思わないとやってられない。

 午後11時。
 もうすぐ年が明ける。
 このまま年越しちゃうのかな。
 喧嘩したまま、連絡ないまま、202X年が終わるのかな。
 それは嫌だ。
 せめて「あけおめ」くらいは言い合いたい。
 自分から送ろうか迷う。
『まだ怒ってる?』
 入力して、消す。
『良いお年を』
 入力して、消す。
 何を送っても「重い」って言われそうで怖い。

『ピロリロリン!』
 突然、通知音が鳴った。
 心臓が口から飛び出るかと思った。
 ゆうただ。
 やっと来た。
 震える指で画面を開く。

『あかり、ごめん』
『やっぱ俺たち、合わないと思う』
『別れよう』

 ……え?
 短文。
 3行。
 スタンプなし。
 電話でもない、会ってでもない、LINEでの別れ話。
 しかも大晦日の、こんなギリギリの時間に?
「合わない」って何?
 具体的になんにも書いてない。
 美咲先輩のこと?
 私の性格のこと?
 全部?
『待って』
『どういうこと?』
『話し合おうよ』
 送信する。
 既読がつかない。
 また未読。
 言いたいことだけ言って、通知オフにしたんだ。
 私の反論なんて聞く価値もないってことだ。

 テレビの中では『蛍の光』が流れている。
 指揮者がタクトを振っている。
 家族が「今年も終わるなー」なんてのんきに話している。
 私はスマホを握りしめたまま、声を殺して泣いた。
 涙が止まらない。
 ミカンの皮の上に涙が落ちる。
 視界が滲んで、紅白の衣装がぐちゃぐちゃの色の塊に見える。
 なんで?
 クリスマス、あんなに幸せだったじゃん。
「好きだよ」って言ったじゃん。
 あれ全部嘘だったの?
 インスタの「いいね」のために付き合ってたの?
 悔しい。
 悲しいより、悔しい。
 私のJKブランドの貴重な3ヶ月を返してよ。
 私の初めてのクリスマスを返してよ。

『10、9、8……』
 カウントダウンが始まった。
 お父さんが「おー、明けるぞー」って言ってる。
 私は布団を頭から被って、耳を塞いだ。
『おめでとうー!!』
 新しい年が来た。
 私の恋が終わった瞬間に、世界は新しいスタートを切った。
 最悪のタイミングだ。
 こんな惨めな年越し、人生で初めてだ。
 スマホの画面には『別れよう』の文字が残ったまま、時計の数字だけが冷酷に変わっていた。
 私の17歳の冬は、除夜の鐘と共に砕け散った。

(つづく)
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