【短編】通知ゼロのイブから、既読スルーの元旦まで 〜17歳の恋は、あけおめ前に死ぬ

月下花音

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第5話:元旦の既読スルー初詣

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 1月1日。
 お昼過ぎ。
 目が覚めると、頭がガンガン痛かった。
 昨日の夜、泣きすぎて目がパンパンに腫れている。
 鏡を見ると、そこには落ち武者がいた。
 これが「花のセブンティーン」の元旦の姿か。
 終わってる。

 リビングに行くと、お節料理が並んでいた。
 栗きんとんだけ食べた。
 甘すぎて気持ち悪い。
「あかり、初詣行かないの?」
 お母さんが聞いてくる。
「……行く」
 家族と一緒に行くのは恥ずかしいし、家にいても気が滅入るだけだから、一人で行くことにした。
 ジャージの上からベンチコートを着て、帽子を目深に被る。
 完全防備。
 誰にも会いたくない。
 特に、リア充たちには。

 近所の神社は、地獄のような混雑だった。
 どこを見てもカップル。
 手を繋いで、キャッキャと笑い合っている。
「今年はお互い受験頑張ろうね♡」
「合格したらディズニー行こうな」
 そんな会話が聞こえてくる。
 うるさい。
 全員別れろ。
 私のゆうたとの「ディズニー計画」が消滅した日に、よくそんなハッピーな話題ができるな。
 神様、あいつらに天罰を下してください。
 そんな呪いをかけながら、行列に並ぶ。

 お賽銭を入れる。
 5円玉がないから、10円玉を入れた。
『ゆうたから連絡が来ますように』
『復縁できますように』
 ……なんて、願うと思ったか?
『あいつがハゲますように』
『美咲先輩と喧嘩しますように』
『次のテストで赤点取りますように』
 最低の願い事をした。
 でも、これくらい許されるはずだ。
 こっちは大晦日に振られてるんだから。

 おみくじを引く。
 カシャカシャと箱を振る。
 棒が出る。
 番号を巫女さんに伝える。
 渡された紙を開く。
『凶』
 ……は?
 凶?
 元旦から?
『待ち人:来ず』
『失せ物:出ず』
『恋愛:諦めよ』
 神様、ケンカ売ってる?
 今の私に「諦めよ」とか、追い討ちにも程がある。
 あまりにも救いがなくて、逆に笑えてきた。
 そうだよね。
 私の人生なんてこんなもんだよね。

 スマホを取り出す。
 ゆうたのLINE画面を開く。
『別れよう』
 その下に、一言だけ送ってみた。
『分かった。今までありがとう』
 未練がましい長文は送らない。
「いい女」ぶって終わらせてやる。
 送信。
 ……既読がつかない。
 ブロックはされてないみたいだけど、通知オフにしてるのか、あえて見てないのか。
 どっちにしても、私の言葉は届いていない。
 虚しい。
 あんなに毎日LINEしてたのに。
「おはよう」から「おやすみ」まで、全部共有してたのに。
 糸が切れた凧みたいに、どこかへ飛んでいってしまった。

『ピロリロリン!』
 通知音が鳴った。
 ビクッとする。
 ゆうた訳ないのに、期待してしまう自分が憎い。
 画面を見る。
『マナ』からだ。
『あけおめー! ことよろ!』
『てか、昨日大丈夫だった? ゆうた死ねって感じなんだけどw』
『今度カラオケ行って発散しよ! 奢るわ!』
 ……マナ。
 持つべきものは友達だ。
 涙がまた滲んできた。
 でも、昨日の夜の涙とは違って、少し温かい涙だった。
『いく! 絶対いく! 喉潰れるまで歌う!』
 返信すると、すぐに『了解(笑)』のスタンプが返ってきた。
 即レス。
 嬉しい。
 やっぱり、私の居場所はここだ。
 男なんて、どうせすぐいなくなる。
 でも友達とカラオケのフリータイムは裏切らない。

 神社の境内を出る。
 空気が冷たくて、澄んでいる。
 ゆうたのことは、まだ好きだ。
 インスタ見たら辛くなるし、学校で会ったら気まずいと思う。
 でも、スマホの通知が鳴らなくても、世界は終わらないって分かった。
 むしろ、四六時中スマホ気にして、美咲先輩の影に怯えてた時より、息がしやすいかもしれない。
「……さむっ」
 独り言をつぶやいて、私はベンチコートの前をしっかり閉めた。
 凶のおみくじは、境内の木に強く結びつけてきた。
 私の「最悪の恋」と一緒に、そこに置いてきた。
 来年は、もう少しまともな美味しいケーキが食べられますように。
 そう願いながら、私は一人で家に帰った。
 ポケットの中で、マナからのLINE通知がもう一度鳴った気がした。

(おわり)
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