神様の失敗作ガチャを引かされた俺(元SE)、ハズレ女神たちと寂れた異世界を「再創生(リ・ジェネシス)」する

月下花音

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第6話:最初の敵(バグ)

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 翌朝。
 俺を叩き起こしたのは、アラームではなく、ソフィアの悲鳴だった。
「きゃあああああっ!」

 俺は飛び起きた。
 ネクタイを締める暇もなく、外へ駆け出す。
 
「どうした!?」

 ソフィアが尻餅をついている。
 その視線の先、荒野の彼方から、何かが近づいてきていた。
 
 それは「狼」の形をしていた。
 ただし、普通の狼ではない。
 身体の半分がノイズのように点滅し、極彩色のモザイクがかかっている。
 歩くたびに「ザザッ」「ブツッ」と不快な音がする。

「バグ・ウルフです……!」
 ソフィアが震えながら言う。
「廃棄されたデータの集合体……触れると汚染されます!」

 汚染。
 つまり、ウイルスのようなものか。
 こいつは「廃棄世界」の自浄作用だ。エラーの発生源(俺たち)を排除しに来たんだ。

「グルルル……」
 バグ・ウルフが加速した。
 速い。
 このままではソフィアが食われる。

「ヘスティア! 防御だ!」
 俺は叫ぶ。
「任せて!」

 ヘスティアが飛び出す。
 巨大なハンマーを構える。
「こちとら鍛冶の女神よ! 鉄屑にしてやるわ!」

 ドガァッ!
 ハンマーがウルフの脳天を直撃する。
 普通なら即死レベルの一撃。
 だが。

 すり抜けた。
 ハンマーが、モザイクの部分を何の手応えもなく通過した。

「えっ!?」
 ヘスティアが体勢を崩す。
 物理攻撃無効。
 実体がないデータ上の存在だからだ。

「くそっ、無敵判定かよ!」
 ウルフがヘスティアに爪を振るう。
 彼女は咄嗟にハンマーの柄でガードするが、衝撃で吹き飛ばされる。

「きゃっ!」
 ヘスティアが地面を転がる。
 まずい。三人とも戦闘能力は皆無に等しい。
 俺もだ。俺にあるのはキーボードを叩く指だけ……いや、待てよ。

 俺は地面を見た。
 ここは「廃棄世界」。まだ座標が確定していない不安定な領域。
 SEとしての勘が働く。
 俺の権限(管理者ID)を使えば、一時的に環境変数を書き換えられるかもしれない。

「フィリア! お前のツルを使え!」
「は、はい!?」
「あいつの『足元』の地面を固定しろ! 動けなくするだけでいい!」

 フィリアが手をかざす。
 地面からツルが伸び、ウルフの足を狙う。
 ウルフはそれを避けるためにジャンプする。

 そこだ。
 着地地点。
 俺は管理者ウィンドウを開いた。
 頭の中でコードを描く。

 `Region(X, Y).setGravity(0.0);`

 エンターキーを叩くイメージで、俺は叫んだ。
「重力係数、ゼロ!」

 バグ・ウルフが着地した瞬間。
 その場所だけ重力が消失した。
 ウルフの体がフワリと浮き上がる。
 地面を蹴ろうとしても、摩擦がないから空回りするだけだ。

「な、浮いた!?」
 ヘスティアが目を丸くする。

「今のうちだ! ソフィア、あいつの構成データを解析しろ! 核(コア)はどこだ!」
「は、はい!」
 ソフィアが眼鏡を光らせる。
「……胸の中心です! 赤いコードが見えます!」

「よし! ヘスティア、そこを狙え! 物理じゃなくて『削除(デリート)』のイメージで叩き込め!」

「削除……よくわかんないけど、ぶっ壊せってことね!」
 ヘスティアが跳躍する。
 浮遊して無防備なウルフの胸めがけて、渾身のハンマーを振り下ろす。

 ドオオオンッ!!
 今度は当たった。
 核を砕かれたウルフは、悲鳴も上げずにポリゴンの欠片となって霧散した。

「……やった」
 ヘスティアが着地する。

 俺もその場にへたり込んだ。
 頭が割れるように痛い。
 管理者権限の使用は、脳への負荷が半端ないらしい。

「創さん!」
 フィリアが駆け寄ってくる。
「すごい……魔法使いみたいでした!」
「魔法じゃない……ただのコマンド入力だ……」
 俺は呻く。

「……ありがと、助かったわ」
 ヘスティアが手を差し出してくる。
 俺はその手を掴んで立ち上がった。

 初めての共同作業(戦闘)。
 俺たちは生き残った。
 この何もない荒野で、俺たちの「居場所」を守ったのだ。

(つづく)
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