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第14話 エンドロールのその先
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秋が深まってきた。
俺たちの関係は、驚くほど順調だ。
喧嘩もするようになった。
栞は意外と気が強いし、俺も意外と頑固だ。
映画の趣味で揉めたり、LINEの返信速度で文句を言い合ったり。
「理想のカップル」時代にはありえなかった衝突だが、それが楽しい。
ある放課後。
俺たちは図書室にいた。
「あ、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』まだあるね」
栞が棚を見上げて言う。
あの「出会い」の本だ。
「取ってあげようか?」
俺が言うと、栞は悪戯っぽく笑った。
「ううん、いい。……自分で取る」
彼女は近くにあった踏み台(キッカー)を持ってきて、それにピョンと乗った。
俺の助けなど借りずに、軽々と本を抜き取る。
「はい、取れた!」
踏み台の上から、俺を見下ろしてドヤ顔。
「……王子様の出番なし、か」
「ふふっ。だって、夏月くんが無理して背伸びしなくていいようにね」
栞は踏み台から降りて、俺の隣に座った。
「ねえ、夏月くん」
「ん?」
「私ね、思うんだけど」
彼女は本の表紙を撫でながら、静かに言った。
「あの『記憶喪失』って、神様がくれたプレゼントだったのかもね」
「プレゼント?」
「うん。私たちが一度壊れて、正しく組み立て直すための時間。……あのまま進んでたら、きっとどこかで取り返しがつかないくらいダメになってた気がする」
確かにそうかもしれない。
俺が記憶を失わずに「文化祭の失敗」を引きずっていたら。
栞の嘘に気づかずに、虚構の物語を演じ続けていたら。
俺たちは互いに疲れ果てて、もっと悲惨な「バッドエンド」を迎えていたかもしれない。
一度リセットされたからこそ。
過去を「物語」として客観視できたからこそ。
俺たちは「間違い」に気づき、軌道修正できたんだ。
「神様か……」
俺は文芸部員らしく、少しポエミーなことを考えてみた。
「あるいは、作者の慈悲かもしれないな」
「作者?」
「俺たちの人生っていう物語を書いてる誰か。……『これじゃ打ち切りになるぞ』って焦って、テコ入れしてくれたのかも」
栞がクスクス笑う。
「じゃあ、今は『シーズン2』ってこと?」
「ああ。しかも、視聴率無視の深夜枠だ」
「深夜枠かぁ。……なんか、ディープで面白そう」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
図書委員の佐々木さんが「静かに!」と睨んでくるまで。
帰り道。
二人で手を繋いで歩いた。
手汗はまだ少しかくけれど、もう気にならない。
夕日が俺たちの影を長く伸ばしている。
エンドロールはもう流れた。
「めでたしめでたし」の文字も出た。
でも、画面が暗転した後も、登場人物たちの人生は続いている。
派手なイベントも、劇的な展開もないけれど。
この何気ない「続き」の時間こそが、俺が本当に欲しかったものだったんだ。
(つづく)
俺たちの関係は、驚くほど順調だ。
喧嘩もするようになった。
栞は意外と気が強いし、俺も意外と頑固だ。
映画の趣味で揉めたり、LINEの返信速度で文句を言い合ったり。
「理想のカップル」時代にはありえなかった衝突だが、それが楽しい。
ある放課後。
俺たちは図書室にいた。
「あ、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』まだあるね」
栞が棚を見上げて言う。
あの「出会い」の本だ。
「取ってあげようか?」
俺が言うと、栞は悪戯っぽく笑った。
「ううん、いい。……自分で取る」
彼女は近くにあった踏み台(キッカー)を持ってきて、それにピョンと乗った。
俺の助けなど借りずに、軽々と本を抜き取る。
「はい、取れた!」
踏み台の上から、俺を見下ろしてドヤ顔。
「……王子様の出番なし、か」
「ふふっ。だって、夏月くんが無理して背伸びしなくていいようにね」
栞は踏み台から降りて、俺の隣に座った。
「ねえ、夏月くん」
「ん?」
「私ね、思うんだけど」
彼女は本の表紙を撫でながら、静かに言った。
「あの『記憶喪失』って、神様がくれたプレゼントだったのかもね」
「プレゼント?」
「うん。私たちが一度壊れて、正しく組み立て直すための時間。……あのまま進んでたら、きっとどこかで取り返しがつかないくらいダメになってた気がする」
確かにそうかもしれない。
俺が記憶を失わずに「文化祭の失敗」を引きずっていたら。
栞の嘘に気づかずに、虚構の物語を演じ続けていたら。
俺たちは互いに疲れ果てて、もっと悲惨な「バッドエンド」を迎えていたかもしれない。
一度リセットされたからこそ。
過去を「物語」として客観視できたからこそ。
俺たちは「間違い」に気づき、軌道修正できたんだ。
「神様か……」
俺は文芸部員らしく、少しポエミーなことを考えてみた。
「あるいは、作者の慈悲かもしれないな」
「作者?」
「俺たちの人生っていう物語を書いてる誰か。……『これじゃ打ち切りになるぞ』って焦って、テコ入れしてくれたのかも」
栞がクスクス笑う。
「じゃあ、今は『シーズン2』ってこと?」
「ああ。しかも、視聴率無視の深夜枠だ」
「深夜枠かぁ。……なんか、ディープで面白そう」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
図書委員の佐々木さんが「静かに!」と睨んでくるまで。
帰り道。
二人で手を繋いで歩いた。
手汗はまだ少しかくけれど、もう気にならない。
夕日が俺たちの影を長く伸ばしている。
エンドロールはもう流れた。
「めでたしめでたし」の文字も出た。
でも、画面が暗転した後も、登場人物たちの人生は続いている。
派手なイベントも、劇的な展開もないけれど。
この何気ない「続き」の時間こそが、俺が本当に欲しかったものだったんだ。
(つづく)
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