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第13話 Re:スタート
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翌朝。
俺は少し早く起きて、鏡の前に立った。
髪をセットする。
今まではワックスでガチガチに固めて「爽やかイケメン風」を目指していたが、今日は手櫛で整える程度にした。
靴底のインソール(身長+2cm)も抜いた。
等身大の俺。
冴えない平凡な俺。
でも、これが今のベストだ。
学校に着くと、昇降口で栞が待っていた。
今までの「完璧なお嬢様」オーラ全開の立ち姿とは少し違う。
カバンの持ち方がラフだし、スマホを見ながらあくびをしている。
「……おはよう、雪野さん」
声をかけると、彼女はパッと顔を上げて、ふにゃりと笑った。
「あ、夏月くん。おはよー」
気の抜けた挨拶。
でも、その笑顔は今までのどの「キメ顔」よりも可愛かった。
「……眠そうだな」
「うん。昨日、あんまり眠れなくて。……夏月くんのこと考えてたら、なんか興奮しちゃって」
あっけらかんと言う。
周囲の生徒が「えっ?」と振り返る。
以前の彼女なら、こんな恥ずかしいこと人前では言わなかったはずだ。
「清楚で慎ましやかな彼女」を演じていたから。
「声デカいよ。……俺もだけど」
俺もまた、昨夜のキスの余韻で枕を殴り続けていた。
お互い様だ。
「行こっか」
栞が自然に俺の腕に腕を絡めてくる。
距離が近い。
身長差五センチ。
インソールを抜いたせいで、彼女の顔がいつもより近く感じる。
「あれ? 夏月くん、なんか縮んだ?」
栞が小首を傾げる。
鋭い。
「……インソール抜いたんだよ。背伸びするの、やめたから」
俺が言うと、栞は目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んだ。
「そっか。……うん、その方がいいよ。キスしやすいし」
「……っ!///」
朝から破壊力がすごい。
心なしか、すれ違う生徒たちの視線も変わった気がする。
以前は「高嶺の花と、それに必死に食らいつく凡人」という痛々しい目で見られていた。
でも今は……「バカップル」を見る生温かい目に変わっている。
まあ、悪くない。
憧れの対象から、呆れられる対象へ。
ランクダウンかもしれないけど、居心地の良さは段違いだ。
教室に入ると、井上が飛んできた。
「おい夏月! お前、なんか雰囲気変わったな?」
「そうか?」
「ああ。なんかこう……憑き物が落ちたっていうか。無理してる感じがなくなった」
井上はニカっと笑って、肩を叩いてきた。
「その方がお前らしいよ。正直、前の『意識高い系夏月』は見てて疲れそうだったからな」
「……悪かったな、心配かけて」
「おう。これからは自然体で行けよ」
自然体。
それがこんなに難しいことだったなんて。
でも、一度崩壊して更地になったからこそ、ようやく基礎工事からやり直せる気がする。
昼休み。
栞がまた弁当を持ってきた。
ピンクの包み。
中身は……?
パカッ。
そこには、少し焦げ目のついた卵焼き(茶色っぽい)と、和風の煮物、そして冷凍食品じゃない手作りのハンバーグが入っていた。
彩りは地味になった。
「映え」はしない。
「……お母さんに教えてもらうのやめて、自分で作ってみたの」
栞が少し照れくさそうに言う。
「味付け、かなり適当なんだけど……」
俺は卵焼きを口に入れた。
……しょっぱい。
出汁の味と、少し焦げた苦味。
そして、砂糖の甘さは感じない。
「……美味い」
俺は心の底から言った。
「今まで食った中で、一番美味い」
「ほんと!? よかったぁ……」
栞が安堵して、自分の箸を進める。
俺たちは、ようやく「第13話」に辿り着いた。
嘘も演出もない、ただの日常パート。
視聴率は取れないかもしれない。
でも、俺たち自身にとっては、ここからが本当の本編だ。
(つづく)
俺は少し早く起きて、鏡の前に立った。
髪をセットする。
今まではワックスでガチガチに固めて「爽やかイケメン風」を目指していたが、今日は手櫛で整える程度にした。
靴底のインソール(身長+2cm)も抜いた。
等身大の俺。
冴えない平凡な俺。
でも、これが今のベストだ。
学校に着くと、昇降口で栞が待っていた。
今までの「完璧なお嬢様」オーラ全開の立ち姿とは少し違う。
カバンの持ち方がラフだし、スマホを見ながらあくびをしている。
「……おはよう、雪野さん」
声をかけると、彼女はパッと顔を上げて、ふにゃりと笑った。
「あ、夏月くん。おはよー」
気の抜けた挨拶。
でも、その笑顔は今までのどの「キメ顔」よりも可愛かった。
「……眠そうだな」
「うん。昨日、あんまり眠れなくて。……夏月くんのこと考えてたら、なんか興奮しちゃって」
あっけらかんと言う。
周囲の生徒が「えっ?」と振り返る。
以前の彼女なら、こんな恥ずかしいこと人前では言わなかったはずだ。
「清楚で慎ましやかな彼女」を演じていたから。
「声デカいよ。……俺もだけど」
俺もまた、昨夜のキスの余韻で枕を殴り続けていた。
お互い様だ。
「行こっか」
栞が自然に俺の腕に腕を絡めてくる。
距離が近い。
身長差五センチ。
インソールを抜いたせいで、彼女の顔がいつもより近く感じる。
「あれ? 夏月くん、なんか縮んだ?」
栞が小首を傾げる。
鋭い。
「……インソール抜いたんだよ。背伸びするの、やめたから」
俺が言うと、栞は目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んだ。
「そっか。……うん、その方がいいよ。キスしやすいし」
「……っ!///」
朝から破壊力がすごい。
心なしか、すれ違う生徒たちの視線も変わった気がする。
以前は「高嶺の花と、それに必死に食らいつく凡人」という痛々しい目で見られていた。
でも今は……「バカップル」を見る生温かい目に変わっている。
まあ、悪くない。
憧れの対象から、呆れられる対象へ。
ランクダウンかもしれないけど、居心地の良さは段違いだ。
教室に入ると、井上が飛んできた。
「おい夏月! お前、なんか雰囲気変わったな?」
「そうか?」
「ああ。なんかこう……憑き物が落ちたっていうか。無理してる感じがなくなった」
井上はニカっと笑って、肩を叩いてきた。
「その方がお前らしいよ。正直、前の『意識高い系夏月』は見てて疲れそうだったからな」
「……悪かったな、心配かけて」
「おう。これからは自然体で行けよ」
自然体。
それがこんなに難しいことだったなんて。
でも、一度崩壊して更地になったからこそ、ようやく基礎工事からやり直せる気がする。
昼休み。
栞がまた弁当を持ってきた。
ピンクの包み。
中身は……?
パカッ。
そこには、少し焦げ目のついた卵焼き(茶色っぽい)と、和風の煮物、そして冷凍食品じゃない手作りのハンバーグが入っていた。
彩りは地味になった。
「映え」はしない。
「……お母さんに教えてもらうのやめて、自分で作ってみたの」
栞が少し照れくさそうに言う。
「味付け、かなり適当なんだけど……」
俺は卵焼きを口に入れた。
……しょっぱい。
出汁の味と、少し焦げた苦味。
そして、砂糖の甘さは感じない。
「……美味い」
俺は心の底から言った。
「今まで食った中で、一番美味い」
「ほんと!? よかったぁ……」
栞が安堵して、自分の箸を進める。
俺たちは、ようやく「第13話」に辿り着いた。
嘘も演出もない、ただの日常パート。
視聴率は取れないかもしれない。
でも、俺たち自身にとっては、ここからが本当の本編だ。
(つづく)
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