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第1章:大人の苦味(働く女性のリアル)
#1:義理チョコに込めた本気 Ep.05
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披露宴。
私は笑顔で出席していた。
新郎側の友人席。同期たちと一緒に。
高橋くんはタキシード姿で、隣には真っ白なドレスを着た奥さんがいる。
お似合いだ。
スポットライトを浴びて、二人は物語の主人公そのものだった。
私は、その他大勢のエキストラA。
料理の味なんてしない。
高いフレンチのはずなのに、ゴムを噛んでいるみたいだ。
シャンパンだけが進む。
酔っ払って暴れてやりたい。
「私が先に見つけたのに!」って叫んでやりたい。
でも、私は29歳の分別ある大人だから、静かに拍手をして、静かに笑っている。
スピーチの時間。
新郎の悪友・田中がマイクを持つ。
大学時代の武勇伝や、高橋くんの恥ずかしい過去話で会場が湧く。
その中で、田中がふと、こんなエピソードを話し始めた。
「高橋のやつ、昔こんなこと言ってまして。『一番うまいチョコは、毎年バレンタインに同期がくれる義理チョコだ』って」
会場がドッと沸く。
「ヒュー!」とか冷やかす声。
私は心臓が止まるかと思った。
同期がくれる義理チョコ。
私のことだ。
他に毎年あげてる同期なんていない。
「『あれに勝るチョコはない。店で売ってる高いやつよりうまい』って、奥さんの手作りチョコ食べるまで言ってましたよー!」
オチがついた。
奥さんのチョコの引き立て役としての、私の義理チョコ。
「過去の栄光」としての、私のプラリネ。
でも。
彼は覚えていてくれたのだ。
あの「義理」に隠した、私の「本気」の味を。
「たまたま混ざってた」なんて嘘を信じつつも、あるいは気づかないふりをしつつも、味覚だけは正直に反応してくれていた。
「一番うまい」と言ってくれていた。
涙が出そうになった。
嬉しさと、悔しさと、切なさが全部混ざって、喉の奥が詰まる。
高橋くんと目が合った。
彼は照れくさそうに、小さく手を挙げた。
「悪ぃな、ネタにして」という顔で。
奥さんも、苦笑いしながら私に会釈してくれた。
余裕のある勝者の笑みだ。
ずるい男だ。
最後まで、私の気持ちを知っていて、泳がせていたのかもしれない。
「都合のいい女友達」の枠からはみ出さないように、コントロールされていたのかもしれない。
でも、それが彼の優しさだったのかもしれない。
私たちの関係を壊さないための、最低限の配慮。
帰り道。
引き出物の重たい紙袋を持って、地下鉄に乗る。
バームクーヘンと、カタログギフト。
そして、彼との思い出の残骸。
重い。何もかもが重い。
私は袋の中から、プチギフトのクッキーを取り出した。
「Thank You」と書かれたシールが貼ってある、安っぽいクッキー。
封を開けて食べた。
パサパサして、ただ甘いだけの味。
私のあげたプラリネより、ずっと劣る味。
でも、これが現実の味だ。
これが、私が「友人」として受け取れる、精一杯の愛の形だ。
「……お幸せに、バカ」
つり革を握る手に力を込める。
電車が揺れる。
来年のバレンタインは、自分の一番好きなチョコを買おう。
誰にも隠さず、堂々と自分で食べるために。
誰かのための「義理」じゃなく、私のための「本命」を。
私の5年越しの初恋は、地下鉄の轟音にかき消されながら、今日ここで成仏した。
(義理チョコに込めた本気・おわり)
私は笑顔で出席していた。
新郎側の友人席。同期たちと一緒に。
高橋くんはタキシード姿で、隣には真っ白なドレスを着た奥さんがいる。
お似合いだ。
スポットライトを浴びて、二人は物語の主人公そのものだった。
私は、その他大勢のエキストラA。
料理の味なんてしない。
高いフレンチのはずなのに、ゴムを噛んでいるみたいだ。
シャンパンだけが進む。
酔っ払って暴れてやりたい。
「私が先に見つけたのに!」って叫んでやりたい。
でも、私は29歳の分別ある大人だから、静かに拍手をして、静かに笑っている。
スピーチの時間。
新郎の悪友・田中がマイクを持つ。
大学時代の武勇伝や、高橋くんの恥ずかしい過去話で会場が湧く。
その中で、田中がふと、こんなエピソードを話し始めた。
「高橋のやつ、昔こんなこと言ってまして。『一番うまいチョコは、毎年バレンタインに同期がくれる義理チョコだ』って」
会場がドッと沸く。
「ヒュー!」とか冷やかす声。
私は心臓が止まるかと思った。
同期がくれる義理チョコ。
私のことだ。
他に毎年あげてる同期なんていない。
「『あれに勝るチョコはない。店で売ってる高いやつよりうまい』って、奥さんの手作りチョコ食べるまで言ってましたよー!」
オチがついた。
奥さんのチョコの引き立て役としての、私の義理チョコ。
「過去の栄光」としての、私のプラリネ。
でも。
彼は覚えていてくれたのだ。
あの「義理」に隠した、私の「本気」の味を。
「たまたま混ざってた」なんて嘘を信じつつも、あるいは気づかないふりをしつつも、味覚だけは正直に反応してくれていた。
「一番うまい」と言ってくれていた。
涙が出そうになった。
嬉しさと、悔しさと、切なさが全部混ざって、喉の奥が詰まる。
高橋くんと目が合った。
彼は照れくさそうに、小さく手を挙げた。
「悪ぃな、ネタにして」という顔で。
奥さんも、苦笑いしながら私に会釈してくれた。
余裕のある勝者の笑みだ。
ずるい男だ。
最後まで、私の気持ちを知っていて、泳がせていたのかもしれない。
「都合のいい女友達」の枠からはみ出さないように、コントロールされていたのかもしれない。
でも、それが彼の優しさだったのかもしれない。
私たちの関係を壊さないための、最低限の配慮。
帰り道。
引き出物の重たい紙袋を持って、地下鉄に乗る。
バームクーヘンと、カタログギフト。
そして、彼との思い出の残骸。
重い。何もかもが重い。
私は袋の中から、プチギフトのクッキーを取り出した。
「Thank You」と書かれたシールが貼ってある、安っぽいクッキー。
封を開けて食べた。
パサパサして、ただ甘いだけの味。
私のあげたプラリネより、ずっと劣る味。
でも、これが現実の味だ。
これが、私が「友人」として受け取れる、精一杯の愛の形だ。
「……お幸せに、バカ」
つり革を握る手に力を込める。
電車が揺れる。
来年のバレンタインは、自分の一番好きなチョコを買おう。
誰にも隠さず、堂々と自分で食べるために。
誰かのための「義理」じゃなく、私のための「本命」を。
私の5年越しの初恋は、地下鉄の轟音にかき消されながら、今日ここで成仏した。
(義理チョコに込めた本気・おわり)
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