【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第1章:大人の苦味(働く女性のリアル)

#1:義理チョコに込めた本気 Ep.04

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 半年後。
 夏が終わる頃。
 高橋くんから「ちょっと話がある」と呼び出された。
 会社の屋上。
 ドラマみたいなシチュエーション。
 0.1%くらいの確率で、「あの時の飲み会は嫌だった、やっぱりお前がいい」という展開を期待した。

 でも、現実はドラマよりもシビアだ。
 彼は白い封筒を渡してきた。

「結婚することになった」

 え?
 思考が停止する。
 相手は、あの佐藤ミナミちゃん?
 飲み会セッティングしたもんね、私。

「相手はさ、取引先の受付の子なんだけど」

 あ、違うんだ。
 ミナミちゃんですらないんだ。
 いつの間に。
 私がせっせと飲み会をセッティングしたり、仕事の相談に乗ったりしている裏で、彼は着々と別のルートで自分の幸せを掴んでいたのだ。
 私の知らないところで、私の知らない女と出会い、恋に落ち、プロポーズまでしていた。

「お前には一番に来てほしくてさ」
「……ありがとう」

 同期のよしみ。
 親友ポジション。
 一番に来てほしいのは、私が一番都合のいい「盛り上げ役」だからだろう。
 受付や二次会の幹事を頼みやすいからだろう。

 招待状の宛名書きは、彼の手書きだった。
『佐藤 玲奈 様』。
 達筆だ。
『出席』に丸をつけるペンのインクが、滲んで見えた。
 なんで私、泣いてるんだろう。
 振られたわけでもないのに。
 そもそも、始まってすらいなかったのに。

 私は何をしてたんだろう。
 高いチョコを隠して渡して、陰で支えて、満足して。
 そんなの、自己満足のオナニーでしかなかった。
 ちゃんと「好きだ」と言ってぶつかれば、玉砕したとしても、こんなに惨めな気持ちにはならなかったかもしれない。
「妹みたい」とか「友達」とか言われて振られていれば、次の恋に進めたかもしれない。

「おめでとう。綺麗な人だね」
 写真を見せられて、私は言った。
 本当にお人形さんみたいに綺麗な人だった。
 私とは違う。
 華やかで、守ってあげたくなるようなタイプ。

「だろ? 俺にはもったいないくらいだよ」
 高橋くんがデレデレと笑う。
 その笑顔を、私は5年間、独り占めしたいと願っていた。
 でも、もうそれは永久に叶わない。

「二次会の幹事、任せてよ」
 口が勝手に動く。
「マジ? 助かるわー! やっぱ佐藤しか頼めないわ」

 頼られることが嬉しかった時期は終わった。
 今は、頼られることが痛い。
 私の恋は、文字通り「寿退社」させられることになった。
 退職金も出ない、即日解雇だ。

(つづく)
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