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第1章:大人の苦味(働く女性のリアル)
#1:義理チョコに込めた本気 Ep.03
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翌日の昼休み。
社員食堂のC定食(カツ丼)の列に並んでいると、高橋くんと一緒になった。
偶然を装ったけど、本当は彼が席を立つのを見てから私も動いた。
ストーカー予備軍の行動力だ。
「お、佐藤。今日のカツ丼うまくね?」
「うん、揚げたてだね」
相席になる。
私の心臓は早鐘を打っている。
聞かなきゃ。
昨日のチョコのこと。
カツ丼をかきこむ彼を見て、私は何気ないトーンを装って聞いた。
「チョコ、食べた?」
「ん? ああ、食った食った。残業中に」
彼は水を飲んで、ニカッと笑った。
その笑顔を見ると、私のIQが3くらいに下がる。
「あれさ、なんかすごかったな」
「えっ」
箸が止まる。
「なんか、一粒だけすげー濃いやつなかった? あれ何? 当たり?」
気づいた。
気づいてくれた!
やっぱり、500円の破壊力は伊達じゃない。
カカオ70%の深みと、ヘーゼルナッツの香りは、30円の準チョコレートとは次元が違うのだ。
「あー、あれね! たまたま混ざってたんじゃない? ラッキーだね」
誤魔化す私。
ここで「あれは本命だよ。私が一つ一つ包み直したんだよ」と言えないヘタレさ。
言ったら最後、この心地よいランチタイムは終了する。
「マジで? ラッキーだわー。今年の運使い果たしたかも」
彼は嬉そうに言う。
「お前のチョコが一番うまかったわ。他のはなんか、パサパサしててさ」
その言葉だけで、私はあと1年は生きていけると思った。
コスパのいい女だ。
たった一言で、報われた気になってしまう。
500円以上の価値があった。
でも、神様は私に長時間の幸福を許さないらしい。
その直後、彼はトレイを片付けながら、残酷なことを言った。
「そういやさ、総務の新人の子、知ってる? 佐藤さん」
私の名字と同じ、下の名前はミナミちゃん。
今年入ってきた、小動物系の可愛い子だ。
「……うん、知ってるけど。私の後輩だし」
「あの子、彼氏いんのかな?」
ドキン、と心臓が嫌な音を立てた。
嫌な予感しかしない。
「え、どうだろ。いないって言ってた気もするけど……」
「マジ? じゃあさ、今度飲み会セッティングしてくんない? 俺らの同期と、そっちの若手で」
天国から地獄へ、フリーフォールで叩き落とされた気分だった。
一番美味しいチョコを食べさせても、彼の心は別の若い子に向いている。
所詮、私は「チョコをくれるお母さん」であり、「飲み会の幹事」であり、「都合のいい女友達」でしかないのだ。
「……うん、いいよ。声かけとく」
笑顔で引き受けた自分の頬が、ピクピクと痙攣しているのが分かった。
口の中のカツ丼が、急に砂利みたいな味になった。
昨日あげたプラリネが、彼のお腹の中で消化されずに、石になって残ればいいのに。
そして、腹痛を起こして、飲み会どころじゃなくなればいいのに。
そんな最低な呪いをかけながら、私は水を飲み干した。
(つづく)
社員食堂のC定食(カツ丼)の列に並んでいると、高橋くんと一緒になった。
偶然を装ったけど、本当は彼が席を立つのを見てから私も動いた。
ストーカー予備軍の行動力だ。
「お、佐藤。今日のカツ丼うまくね?」
「うん、揚げたてだね」
相席になる。
私の心臓は早鐘を打っている。
聞かなきゃ。
昨日のチョコのこと。
カツ丼をかきこむ彼を見て、私は何気ないトーンを装って聞いた。
「チョコ、食べた?」
「ん? ああ、食った食った。残業中に」
彼は水を飲んで、ニカッと笑った。
その笑顔を見ると、私のIQが3くらいに下がる。
「あれさ、なんかすごかったな」
「えっ」
箸が止まる。
「なんか、一粒だけすげー濃いやつなかった? あれ何? 当たり?」
気づいた。
気づいてくれた!
やっぱり、500円の破壊力は伊達じゃない。
カカオ70%の深みと、ヘーゼルナッツの香りは、30円の準チョコレートとは次元が違うのだ。
「あー、あれね! たまたま混ざってたんじゃない? ラッキーだね」
誤魔化す私。
ここで「あれは本命だよ。私が一つ一つ包み直したんだよ」と言えないヘタレさ。
言ったら最後、この心地よいランチタイムは終了する。
「マジで? ラッキーだわー。今年の運使い果たしたかも」
彼は嬉そうに言う。
「お前のチョコが一番うまかったわ。他のはなんか、パサパサしててさ」
その言葉だけで、私はあと1年は生きていけると思った。
コスパのいい女だ。
たった一言で、報われた気になってしまう。
500円以上の価値があった。
でも、神様は私に長時間の幸福を許さないらしい。
その直後、彼はトレイを片付けながら、残酷なことを言った。
「そういやさ、総務の新人の子、知ってる? 佐藤さん」
私の名字と同じ、下の名前はミナミちゃん。
今年入ってきた、小動物系の可愛い子だ。
「……うん、知ってるけど。私の後輩だし」
「あの子、彼氏いんのかな?」
ドキン、と心臓が嫌な音を立てた。
嫌な予感しかしない。
「え、どうだろ。いないって言ってた気もするけど……」
「マジ? じゃあさ、今度飲み会セッティングしてくんない? 俺らの同期と、そっちの若手で」
天国から地獄へ、フリーフォールで叩き落とされた気分だった。
一番美味しいチョコを食べさせても、彼の心は別の若い子に向いている。
所詮、私は「チョコをくれるお母さん」であり、「飲み会の幹事」であり、「都合のいい女友達」でしかないのだ。
「……うん、いいよ。声かけとく」
笑顔で引き受けた自分の頬が、ピクピクと痙攣しているのが分かった。
口の中のカツ丼が、急に砂利みたいな味になった。
昨日あげたプラリネが、彼のお腹の中で消化されずに、石になって残ればいいのに。
そして、腹痛を起こして、飲み会どころじゃなくなればいいのに。
そんな最低な呪いをかけながら、私は水を飲み干した。
(つづく)
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