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第1章:大人の苦味(働く女性のリアル)
#1:義理チョコに込めた本気 Ep.02
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バレンタイン当日。
私はサンタクロースのように、大きな紙袋を持って出社した。
紙袋はずっしりと重い。
物理的な重さよりも、私の下心の重さが肩に食い込む。
中身は大量の義理チョコ。
そして、右側のポケットにだけ入っている、一つだけの本命。
間違えて部長にあげたりしたら、人生が終わる。
私は何度もポケットの上から感触を確かめた。
「はい、これ義理~。ホワイトデー期待してるよ」
「お疲れ様です、糖分補給してくださいねー」
軽口を叩きながら、おじさん達に配り歩く。
この明るいキャラ作りも、もう板についたものだ。
「さすが佐藤くん、気が利くなあ」
「ありがとう、もらえるのこれだけだよ」
おじさん達の寒いジョークを、愛想笑いで流していく。
顔の筋肉が痙攣しそうだ。
そして、営業部のフロアへ。
高橋くんの席が見える。
彼は電話中だった。
受話器を肩に挟んで、キーボードを叩いている。
真剣な横顔。
眉間のシワ。
ああ、好きだ。
胃の奥がキュッとなる。
電話を置いた瞬間を見計らって、私は深呼吸をして近づいた。
「高橋くん、はい」
「お、サンキュー! 毎年悪いねー」
彼は無邪気に笑って手を伸ばす。
私はポケットから、「例のブツ」を取り出した。
私の体温で溶けてないか心配だったけど、大丈夫そうだ。
渡す瞬間、指先が一瞬だけ触れた。
静電気がバチッと走った。
「痛っ」
「あ、ごめん帯電体質で」
「お前いっつも電気溜めてんなー」
彼は笑いながら、私の500円(税抜)を受け取った。
私の心拍数が跳ね上がる。
気づくか?
重さが違うぞ。密度が違うぞ。
30円のスカスカチョコとは違う、ベルギーの重みを感じろ。
「糖分補給して午後も頑張ってね」
「おう、これで戦えるわ。後で食う」
彼はチョコを、デスクの引き出しにポイッと入れた。
文房具とか、乾いた目薬とかが入っている、雑多な引き出しの中へ。
雑な扱い。
でも、それでいい。
特別扱いされたら、周りにバレる。
「ありがとうございます!」なんて丁寧に受け取られたら、逆に距離を感じてしまう。
「……ふぅ」
自分の席に戻って、息を吐く。
ミッション完了。
背中が汗でびっショリだ。
あとは、彼がそれを食べた時。
「ん? なんかこれ美味しくね?」
って気づいてくれるかどうか。
いや、気づかなくてもいい。
私の自己満足でいい。
彼の中に、私の選んだ最高級の味が取り込まれて、彼の細胞の一部になる。
それだけで、私は満足なのだ。
……気持ち悪い思考だ。
我ながら重すぎる愛情表現に、少し吐き気がした。
(つづく)
私はサンタクロースのように、大きな紙袋を持って出社した。
紙袋はずっしりと重い。
物理的な重さよりも、私の下心の重さが肩に食い込む。
中身は大量の義理チョコ。
そして、右側のポケットにだけ入っている、一つだけの本命。
間違えて部長にあげたりしたら、人生が終わる。
私は何度もポケットの上から感触を確かめた。
「はい、これ義理~。ホワイトデー期待してるよ」
「お疲れ様です、糖分補給してくださいねー」
軽口を叩きながら、おじさん達に配り歩く。
この明るいキャラ作りも、もう板についたものだ。
「さすが佐藤くん、気が利くなあ」
「ありがとう、もらえるのこれだけだよ」
おじさん達の寒いジョークを、愛想笑いで流していく。
顔の筋肉が痙攣しそうだ。
そして、営業部のフロアへ。
高橋くんの席が見える。
彼は電話中だった。
受話器を肩に挟んで、キーボードを叩いている。
真剣な横顔。
眉間のシワ。
ああ、好きだ。
胃の奥がキュッとなる。
電話を置いた瞬間を見計らって、私は深呼吸をして近づいた。
「高橋くん、はい」
「お、サンキュー! 毎年悪いねー」
彼は無邪気に笑って手を伸ばす。
私はポケットから、「例のブツ」を取り出した。
私の体温で溶けてないか心配だったけど、大丈夫そうだ。
渡す瞬間、指先が一瞬だけ触れた。
静電気がバチッと走った。
「痛っ」
「あ、ごめん帯電体質で」
「お前いっつも電気溜めてんなー」
彼は笑いながら、私の500円(税抜)を受け取った。
私の心拍数が跳ね上がる。
気づくか?
重さが違うぞ。密度が違うぞ。
30円のスカスカチョコとは違う、ベルギーの重みを感じろ。
「糖分補給して午後も頑張ってね」
「おう、これで戦えるわ。後で食う」
彼はチョコを、デスクの引き出しにポイッと入れた。
文房具とか、乾いた目薬とかが入っている、雑多な引き出しの中へ。
雑な扱い。
でも、それでいい。
特別扱いされたら、周りにバレる。
「ありがとうございます!」なんて丁寧に受け取られたら、逆に距離を感じてしまう。
「……ふぅ」
自分の席に戻って、息を吐く。
ミッション完了。
背中が汗でびっショリだ。
あとは、彼がそれを食べた時。
「ん? なんかこれ美味しくね?」
って気づいてくれるかどうか。
いや、気づかなくてもいい。
私の自己満足でいい。
彼の中に、私の選んだ最高級の味が取り込まれて、彼の細胞の一部になる。
それだけで、私は満足なのだ。
……気持ち悪い思考だ。
我ながら重すぎる愛情表現に、少し吐き気がした。
(つづく)
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