【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第1章:大人の苦味(働く女性のリアル)

#2:本命は私、彼の本命は別 Ep.02

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 2月14日、当日。
 私は定時で仕事を上がり、一人でデパ地下に寄った。
 自分用の少し高いチョコを買うために。
 彼のためじゃない。私のためだ。

 スマホを見る。
 彼からの連絡はない。
 GPSアプリを見る勇気はない。(彼に入れろと言われたアプリだが、怖くて見られない)

 ふと、インスタグラムを開く。
 彼の本命彼女のアカウント。
 鍵垢だけど、私は裏垢でフォローしている。
 彼女は更新頻度が低い。
 でも、今日だけは動くと踏んでいた。

 案の定、ストーリーが更新されていた。
『サプライズ! 仕事終わりに会いに来てくれた♡』
『大阪駅なう』

 背景に映り込んでいるのは、見覚えのある彼のコートの袖。
 そして、彼の手には、私が先週プレゼントした手袋。
 吐き気がした。

「出張」は本当だったかもしれない。
 でも、「会えない」は嘘だった。
 彼は仕事を理由に大阪に行き、そして彼女と会っている。
 私には「仕事で忙しい」と言っておきながら。

 私が買った手袋をして、他の女の手を繋いでいる。
 その事実に、胃液が逆流しそうになる。
 私はデパ地下のトイレに駆け込み、個室の中でうずくまった。
 買ったばかりのチョコの袋を抱きしめる。
 袋の中で、綺麗な箱が少し潰れる音がした。

 彼女のストーリーには、続きがあった。
『手作りチョコ、喜んでくれた! 来月はディズニーデート!』
 ディズニー?
 私とは「人混み嫌いだから」って、近場の映画館しか行ってくれないのに?

 序列がはっきりした。
 私は「日常の世話係」。
 彼女は「イベント用の姫」。
 どんなに近くにいても、どんなに尽くしても、私はハレの日には選ばれない。
 ケの日だけの女。

 トイレの鏡に映る自分を見る。
 顔色が悪い。
 化粧が崩れている。
 惨めだ。
 本当に惨めだ。
 でも、涙は出なかった。
 怒りよりも、諦めの方が大きかったからだ。

(つづく)
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