【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第3章:青春の残酷さ(スクールカーストと幼馴染)

#7:彼の本命チョコ、私が預かってます Ep.05

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 全ての騒ぎが終わった放課後。
 私は教室の自分のロッカーの前にいた。
 奥の方に押し込んだ、私の手作りチョコ。
 誰の目にも触れず、誰の手にも渡らなかった、哀れな箱。

 取り出す。
 一日経って、少し湿気ってるかもしれない。
 誰もいない教室で、袋を開ける。
 不格好なハート型。
 一生懸命テンパリングしたのに、少し白っぽくなっている。

 パクっと食べる。
 甘い。
 そして、しょっぱい。
 涙がボロボロ出てきた。
 止まらない。

「……おいしいじゃん」

 自分で自分を褒める。
 誰も褒めてくれないから。
 健太の口に入るはずだったこのチョコは、私の胃の中で消化されて終わる。
 エリカのチョコみたいに、彼を幸せにすることも、彼の一部になることもできずに。
 ただのカロリーとして、私の贅肉になるだけだ。

 もし、あの時拾わなかったら?
 もし、捨てていたら?
 もしかしたら、未来は変わっていたかもしれない。
 でも、健太のあの笑顔は見られなかった。
 どっちが正解だったんだろう。
 分からない。
 ただ、今の私が「いい子」の仮面を被ったまま、心の中で血を流していることだけは確かだ。
「いい子」でいることは、こんなにも痛いことなのか。

「さようなら、健太」

 最後の欠片を飲み込む。
 これで証拠隠滅だ。
 私はチョコの包み紙を丸めて、ゴミ箱に捨てた。
 ピンク色の、あの可愛い包み紙とは全然違う、安っぽい透明なフィルム。
 それが、私の恋の終わりの姿だった。

 教室を出る時、振り返らなかった。
 夕日が沈みきって、廊下はもう暗かった。
 明日からは、彼らの「よき友人」として、二人の幸せな話を聞かされる日々が始まる。
 その地獄に耐えられる自信はないけれど、私はきっと笑顔で耐えるのだ。
 彼が好きだから。
 どうしようもなく、まだ好きだから。

(おわり)
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