【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第4章:特殊設定と変化球(スパイスを投入)

#10:バレンタインは終わらない Ep.02

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 学校に着くと、いつもの光景が広がっていた。
 繰り返される既視感(デジャヴ)。
 下駄箱で女子たちがソワソワして、男子たちが妙にカッコつけてポケットに手を突っ込んでいる。
 平和なもんだ。
 私がこのあと死ぬとも知らずに。
 世界は私の死なんてバグの一つとして処理して、何食わぬ顔で回っていくんだろう。

「彩花、おはよ! チョコどうするの? 陸くんに渡すんでしょ?」
 親友のマミが聞いてくる。
 この会話も5回目だ。
 セリフまで一言一句同じ。NPCかよ。
 いつもなら「うん、頑張る! 放課後作戦会議ね!」って返すんだけど。

「渡さない。捨てた」
「えっ!? 嘘でしょ?」
 マミの目が飛び出るんじゃないかってくらい見開かれる。
 そのリアクション、新鮮だわ。ここだけルート分岐した。

「マジ。もうどうでもよくなった。バカらしくて」
「ええ……あんなに張り切ってたのに? 何かあったの?」
「何もないよ。悟りを開いただけ」

 私はマミの驚愕を無視して、教室を出た。
 ホームルームなんてサボる。
 どうせループするなら、好き勝手やってやる。
 出席日数とか内申点とか、明日になればリセットされるんだから関係ない。

 屋上へ向かう。
 冬の屋上は寒くて誰もいないから好きだ。
 鍵は、前に用務員のおじさんが隠す場所を見て知っている(3回目のループで隠れ場所を目撃した)。
 植木鉢の下から鍵を取り出し、ガチャリと開ける。
 錆びついたドアが開く音。

 フェンス際へ行って、下を見下ろす。
 校庭でサッカー部が朝練をしている……はずだったけど、今日はテスト期間だからいないのか。
 誰もいない校庭。
 アリンコみたいに校門を通る生徒たち。

 コンビニで買ったあんぱんを袋から出す。
 バレンタインにあんぱん。
 最高にロックだ。
 牛乳と一緒に流し込む。
 冷たい風が頬を刺すけど、教室の甘ったるい空気よりずっとマシだ。

 ガチャ。
 後ろでドアが開く音がした。
 ビクッとする。
 見回り? 先生?
 怒られるのは面倒だな。

「……あれ、彩花?」

 その声に、喉にあんぱんが詰まりそうになった。
 咳き込む。
「げほっ、ごほっ!」

 振り返ると、そこに陸がいた。
 なんで?
 今までのループで、彼が屋上に来たことなんて一度もなかったのに。
 いつもなら教室で、女子に囲まれてる時間なのに。

「え、なんでいんの?」
 涙目で睨みながら聞く。
「いや、サボり。……お前こそ」
「私もサボり」

 陸が近づいてくる。
 いつもの爽やかなサッカー部エースのオーラがない。
 なんか、だるそうだ。
 肩が下がってる。

「チョコ、持ってないの?」
 陸が私の手元(あんぱん)を見て言った。
 自意識過剰かよ。
「ないよ。あるわけないでしょ」
「ふーん。いつもなら気合い入ってんのに」

 ……ん?
「いつもなら」?
 こいつ、私のこと見てたの?
 毎年私がチョコを用意して、渡すタイミングを伺って、結局渡せなかったりしてたの、見てたの?
 動揺する私をよそに、陸は隣にドカッと座り込んだ。
 コンクリートの冷たさが伝わってくる距離。

(つづく)
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