49 / 75
第4章:特殊設定と変化球(スパイスを投入)
#10:バレンタインは終わらない Ep.04
しおりを挟む
放課後。
「彩花、帰りコンビニ寄ろうぜ」
陸に誘われた。
クラスの女子たちの視線が痛い。
「え、なんで彩花?」「チョコ渡してないのに?」というヒソヒソ声が聞こえる。
でも、今の私には無敵のジャージがある。失うものなんてない。
コンビニで、陸がブラックサンダーを2つ買った。
30円のやつ。
「はい、これ」
「え?」
「バレンタイン。逆だけど」
「……これ、チョコじゃん。苦手なんじゃないの?」
「これくらいなら食える。お前と一緒に食うなら」
殺し文句かよ。
顔が熱い。
店を出て、二人で歩きながらブラックサンダーを齧る。
ザクザクした食感。チープな甘さ。
ゴディバより、手作りガトーショコラより、何倍も美味しい。
「なあ、明日も遊ばね?」
陸が言った。
明日。
2月15日。
私にとって、来ないはずの明日。
たどり着けないはずの未来。
「……明日があればね」
「なんだよそれ。地球滅亡でもすんの?」
「かもね」
私は笑った。
少し泣きそうなのを誤魔化すために。
幸せだ。
今、最高に幸せだ。
だからこそ、怖い。
このあと、また死ぬんじゃないか。
帰り道、トラックが突っ込んでくるんじゃないか。
また2月14日の朝に戻されるんじゃないか。
そしたら、この記憶も消えてしまうのか?
陸の「今の方がいい」って言葉も、「明日遊ぼう」って約束も、屋上で食べたあんぱんの味も。
全部リセットされて、また私が一人でチョコを持って震える朝に戻るの?
嫌だ。
絶対に嫌だ。
「じゃあな、また明日! 駅前10時な!」
分かれ道。陸が手を振る。
「うん、また明日」
手を振り返す。
「さようなら」にならないように祈りながら。
私は慎重に歩いた。
赤信号は絶対に渡らない。
ガードレールの内側を歩く。
工事現場の下は通らない。
マンホールも避ける。
全神経を尖らせて、生存本能をフル稼働させる。
家にたどり着く。
まだ死んでない。
自分の部屋に入る。
鍵をかける。
窓も閉める。
ベッドに入って、布団をかぶる。
時計を見る。
23時55分。
あと5分。
心臓の音がうるさい。
今日を越えれば、ループが終わるかもしれない。
それとも、日付が変わった瞬間にリセットされるのか?
陸の顔を思い出す。
「明日も遊ばね?」
その約束だけを、命綱みたいに握りしめる。
神様、お願い。
チョコなんて一生いらないから。
明日をください。
(つづく)
「彩花、帰りコンビニ寄ろうぜ」
陸に誘われた。
クラスの女子たちの視線が痛い。
「え、なんで彩花?」「チョコ渡してないのに?」というヒソヒソ声が聞こえる。
でも、今の私には無敵のジャージがある。失うものなんてない。
コンビニで、陸がブラックサンダーを2つ買った。
30円のやつ。
「はい、これ」
「え?」
「バレンタイン。逆だけど」
「……これ、チョコじゃん。苦手なんじゃないの?」
「これくらいなら食える。お前と一緒に食うなら」
殺し文句かよ。
顔が熱い。
店を出て、二人で歩きながらブラックサンダーを齧る。
ザクザクした食感。チープな甘さ。
ゴディバより、手作りガトーショコラより、何倍も美味しい。
「なあ、明日も遊ばね?」
陸が言った。
明日。
2月15日。
私にとって、来ないはずの明日。
たどり着けないはずの未来。
「……明日があればね」
「なんだよそれ。地球滅亡でもすんの?」
「かもね」
私は笑った。
少し泣きそうなのを誤魔化すために。
幸せだ。
今、最高に幸せだ。
だからこそ、怖い。
このあと、また死ぬんじゃないか。
帰り道、トラックが突っ込んでくるんじゃないか。
また2月14日の朝に戻されるんじゃないか。
そしたら、この記憶も消えてしまうのか?
陸の「今の方がいい」って言葉も、「明日遊ぼう」って約束も、屋上で食べたあんぱんの味も。
全部リセットされて、また私が一人でチョコを持って震える朝に戻るの?
嫌だ。
絶対に嫌だ。
「じゃあな、また明日! 駅前10時な!」
分かれ道。陸が手を振る。
「うん、また明日」
手を振り返す。
「さようなら」にならないように祈りながら。
私は慎重に歩いた。
赤信号は絶対に渡らない。
ガードレールの内側を歩く。
工事現場の下は通らない。
マンホールも避ける。
全神経を尖らせて、生存本能をフル稼働させる。
家にたどり着く。
まだ死んでない。
自分の部屋に入る。
鍵をかける。
窓も閉める。
ベッドに入って、布団をかぶる。
時計を見る。
23時55分。
あと5分。
心臓の音がうるさい。
今日を越えれば、ループが終わるかもしれない。
それとも、日付が変わった瞬間にリセットされるのか?
陸の顔を思い出す。
「明日も遊ばね?」
その約束だけを、命綱みたいに握りしめる。
神様、お願い。
チョコなんて一生いらないから。
明日をください。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど
くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。
貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。
カメリア――彷徨う夫の恋心
来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。
※この作品は他サイト様にも掲載しています。
ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた
玉菜きゃべつ
恋愛
確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。
なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話
【完結】勘違いしないでください!
青空一夏
恋愛
自分の兄の妻に憧れすぎて妻を怒らせる夫のお話です。
私はマドリン・バーンズ。一代限りの男爵家の次女ですが、サマーズ伯爵家の次男ケントンと恋仲になりました。あちらは名門貴族なので身分が釣り合わないと思いましたが、ケントンは気にしないと言ってくれました。私たちは相思相愛で、とても幸せな結婚生活を始めたのです。
ところが、ケントンのお兄様が結婚しサマーズ伯爵家を継いだ頃から、ケントンは兄嫁のローラさんを頻繁に褒めるようになりました。毎日のように夫はローラさんを褒め続けます。
いいかげんうんざりしていた頃、ケントンはあり得ないことを言ってくるのでした。ローラさんは確かに美人なのですが、彼女の化粧品を私に使わせて・・・・・・
これは兄嫁に懸想した夫が妻に捨てられるお話です。あまり深く考えずにお読みください💦
※二話でおしまい。
※作者独自の世界です。
※サクッと読めるように、情景描写や建物描写などは、ほとんどありません。
走馬灯に君はいない
優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる