【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第4章:特殊設定と変化球(スパイスを投入)

#11:バレンタインまでの恋人契約 Ep.02

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 翌日から、私たちの「演技」が始まった。
 登下校を一緒にする。
 休み時間は私の席に来て話す。
 廊下ですれ違うときは手を振る。

「うわ、見てあれ。瞬くんと地味子が付き合ってるって噂、マジ?」
「えー、ないわー。釣り合わなくね?」
 周囲の雑音が耳に痛い。
 でも、瞬は堂々としていた。
「気にすんな。俺が選んだことになってんだから」
 耳元で囁かれる。
 近い。心臓に悪い。

 ある日の放課後。
 校門で待ち合わせていると、視線を感じた。
 校門の影に、見知らぬ女子がいる。
 あれが例のストーカーか。
 可愛い。私より全然可愛い。

「来た。手、繋ごうぜ」
「えっ、手汗すごいかも」
「いいから」
 強引に手を握られた。
 大きくて、温かい手。
 サッカーボールを追いかけている手。

 私たちは見せつけるように、楽しそうに会話しながら歩いた。
「今日の古文、意味わかんなくね?」
「予習してないからでしょ」
 他愛のない会話。
 でも、繋いだ手から伝わる熱だけが、現実味を帯びていた。

 ストーカーの子が、悔しそうに睨んでいるのが見えた。
 ざまあみろ、と言いたいところだけど、逆に申し訳なくなった。
 ごめんね、これ偽物なんだ。
 私なんかが、彼の手を独占してごめんね。

 帰り道、コンビニに寄った。
「お疲れ。報酬」
 肉まんを奢ってくれた。
「ありがとう」
 二人でハフハフしながら食べる。
「お前、意外と演技うまいな。自然だった」
「図書委員は観察眼が鋭いの」

 嘘だ。
 演技じゃない部分も混ざってた。
 彼の手を握った瞬間のときめきは、台本にはないアドリブだった。
 でも、それを悟られてはいけない。
 契約違反になる。
 私は肉まんの湯気で、赤くなった顔を隠した。

(つづく)
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