【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

文字の大きさ
65 / 75
最終章:愛の残骸

#13:三年間、同じ人に渡し続けたチョコ Ep.05

しおりを挟む
 家に帰ると、部屋が静かだった。
 私は、来年のバレンタインのために書き溜めていたレシピノートを開いた。
『来年はフォンダンショコラに挑戦』
『健斗の好きな抹茶味もいいかも』

 ビリッ。
 ページを破った。
 もう必要ない。
 彼には専属のパティシエ(彩ちゃん)ができた。
 私の出る幕はない。

 冷蔵庫を開ける。
 失敗した時のために余分に作っておいたブラウニーが一つ残っていた。
 ラップに包まれた、茶色い塊。
 健斗にあげたのと同じもの。

 ラップを剥がす。
 かじる。
 冷たくて、少し硬い。
 でも、口の中で溶かすと、濃厚なチョコの味が広がる。
 美味しい。
 悔しいけど、美味しい。
 3年間、彼のために研鑽を積んだ味だ。

「……ばーか」
 誰に言ったのか。
 鈍感な健斗にか。
 あざとい彩ちゃんにか。
 それとも、3年間も「お守り」に甘んじていた自分にか。

 涙がブラウニーの上に落ちた。
 しょっぱい味が混ざる。
 これが私の3年間の結末の味。
 失恋の味はビターだと言うけど、私の場合は「塩味」だった。

 全部食べた。
 お茶で流し込んだ。
 これで終わり。
 これからは、誰かのための「お守り」じゃなく、自分のための「ガソリン」としてチョコを食べよう。
 彼の恋をアシストするのはもうやめだ。
 私は私の人生のプレイヤーになるんだ。

 スマホを取り出し、健斗の連絡先を非表示にした。
 ブロックはできない弱さも、今の私だ。
 でも、来年の2月14日は、絶対に彼には渡さない。
 それだけを誓って、私は空になったラップをゴミ箱に捨てた。

(おわり)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど

くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。 貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。

聖女エーステリアの死

倉真朔
恋愛
聖女エーステリアはなぜ最愛の人に断罪されたのか。切ない物語です。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

走馬灯に君はいない

優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。

【完結】勘違いしないでください!

青空一夏
恋愛
自分の兄の妻に憧れすぎて妻を怒らせる夫のお話です。 私はマドリン・バーンズ。一代限りの男爵家の次女ですが、サマーズ伯爵家の次男ケントンと恋仲になりました。あちらは名門貴族なので身分が釣り合わないと思いましたが、ケントンは気にしないと言ってくれました。私たちは相思相愛で、とても幸せな結婚生活を始めたのです。 ところが、ケントンのお兄様が結婚しサマーズ伯爵家を継いだ頃から、ケントンは兄嫁のローラさんを頻繁に褒めるようになりました。毎日のように夫はローラさんを褒め続けます。 いいかげんうんざりしていた頃、ケントンはあり得ないことを言ってくるのでした。ローラさんは確かに美人なのですが、彼女の化粧品を私に使わせて・・・・・・ これは兄嫁に懸想した夫が妻に捨てられるお話です。あまり深く考えずにお読みください💦 ※二話でおしまい。 ※作者独自の世界です。 ※サクッと読めるように、情景描写や建物描写などは、ほとんどありません。

処理中です...