【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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最終章:愛の残骸

#14:図書室の二人は、卒業までの期間限定 Ep.04

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 3月。
 卒業式まであと1週間。
 先輩の受験も終わり、合格が決まったらしい。
「おめでとうございます!」
「ありがとう」

 でも、先輩の態度は変わらない。
 むしろ、卒業が近づくにつれて、少しずつ距離を取ろうとしている気さえする。
 LINEの返信が遅くなった。
 図書室で会う時間も減った。

 ある日、部活の後輩の男子と話す機会があった。
「先輩、部長と付き合ってるんすか?」
「え、ま、まあね」
「へー、部長もやっと吹っ切れたんすね」
「え?」

 後輩は声を潜めて教えてくれた。
「部長、去年の秋ぐらいに、すごい美人に振られてボロボロだったんすよ。相手、チア部の3年で。それから『もう恋なんてしない』とか言ってたのに」

 点と点が繋がった。
 図書室で静かに傷を癒やしていた先輩。
 グラウンドのチア部を見ていた寂しそうな目。
 そして、「卒業まで」という条件。

 私は、彼の傷が癒えるまでの「つなぎ」だったのか。
 あの激しい痛みから逃げるための、安全で、無害で、都合のいい避難所。
 それが私だったんだ。
 本命になれなかった彼が、自分を慰めるために選んだ「仮初めの恋人」。

 放課後、図書室で先輩に聞いた。
「先輩、卒業しても、会えますか?」
 先輩は困ったように笑って、本のページをめくった。
「……どうだろうね。東京行くし、忙しくなるから」

 嘘だ。
 距離の問題じゃない。
「期間限定」の契約終了が近づいている。
 先輩の傷はもう癒えかけていて、だから「絆創膏」である私は、もう用済みになろうとしているのだ。
 剥がして、捨てる時が来たのだ。

 涙が出そうになるのをこらえて、私は笑った。
「そうですよね、忙しいですよね」
 聞き分けのいい彼女を演じる。
 最後まで、先輩にとって「都合のいい存在」でいなきゃいけない気がして。
 ここで泣いて縋ったら、綺麗な思い出にすらなれない気がして。

(つづく)
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