【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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最終章:愛の残骸

#14:図書室の二人は、卒業までの期間限定 Ep.03

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 私たちは「恋人」になった。
 でも、デートの場所はもっぱら図書室。
 誰もいない奥の書架の影で、並んで本を読む。
 たまに、私が持ってきたお菓子を隠れて食べる。
「先生に見つかるよ」「大丈夫ですって」
 そんな秘密の共有ごっこ。

 手を繋ぐことはある。
 先輩の手は白くて、少し冷たい。
 指が長くて、私の手なんてすっぽり包まれてしまう。
 でも、キスはしてくれない。
「好き」とも言ってくれない。

「先輩、今度映画見に行きませんか?」
「うーん、受験終わってからね」
「先輩、卒業したらどこの大学行くんですか?」
「東京の方」

 先輩は、自分の情報をあまり話したがらない。
 私の話は「うん、うん」って優しく聞いてくれるのに。
 まるで、私の話を聞くことで、何かを忘れようとしているみたいに。
 私は、ただの「聞き手」であり、「寂しさを埋めるための詰め物」なんじゃないか。

 ある日、先輩が遠くを見ていた。
 窓の外、グラウンドの方。
 そこには、チアダンス部の華やかな女子たちが練習していた。
 先輩の瞳に、寂しさと、後悔のような色が混じっているのを見た気がした。
 あの目は、本を読んでいる時の集中した目じゃない。
「喪失」を見つめる目だ。

「先輩?」
「……ん、ごめん。何だっけ」

 先輩は私を見る。
 でも、私を見ていない。
 私を通して、誰か別の「面影」を見ているような気がして、私は少しだけ胸が痛んだ。
 いや、考えすぎだ。
 今は私が彼女だ。
 私が隣にいる。
 その事実があれば、不安なんて掻き消せるはずだ。

「先輩、この本面白かったです!」
 私は明るく振る舞う。
 先輩の寂しさを埋めるのが、私の役目だと思ったから。
 道化になってもいい。彼が笑ってくれるなら。

(つづく)
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