【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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最終章:愛の残骸

#14:図書室の二人は、卒業までの期間限定 Ep.02

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 2月14日。
 放課後の図書室は、いつもより空気が浮ついている。
 そこかしこで女子生徒がコソコソ話をしている。
 でも先輩の周りだけは、エアポケットみたいに静謐なままだ。
 彼は今日も本を読んでいる。
 周りの浮わついた空気なんて、彼の世界には存在しないみたいに。

 私はカバンの中の包みを握りしめる。
 手芸屋で一番高いリボンを買った。
 味は、失敗しないように既製品を溶かして固めただけだけど、先輩への重すぎる愛は混入させた。
 致死量の想いが詰まっている。

「あの、先輩」
「ん?」
 先輩が顔を上げる。
「これ、受け取ってください」

 チョコを差し出す。
 手が震えて、空気が揺れる。
 先輩は少し驚いたように目を見開き、そしてチョコと私の顔を交互に見た。
 困惑? 迷惑?
 沈黙が長い。
 図書室の時計の秒針の音が、爆音のように聞こえる。
 カチ、カチ、カチ。

「……私のこと、彼女にしてください」
 言っちゃった。
 顔から火が出そう。
 耳まで熱い。

 先輩はフゥと小さく息を吐き、困ったように笑った。
「俺、受験生だよ? 4月からは大学生だし」
「分かってます! 邪魔しません! 待ってます!」

 必死な私を見て、先輩は少し考え込み、そして残酷なほど穏やかに言った。
「……いいよ。でも、条件がある」

「条件?」
「俺が卒業するまで。期間限定なら、付き合ってもいいよ」

 意味が分からなかった。
 なんで期限付き?
 お試し期間?
 でも、その時の私は「断られなかった」という事実だけで脳内麻薬がドバドバ出ていた。
 卒業までに、私が先輩を本気にさせればいい。
 私の魅力で、期間延長させればいい。
 そう、私は自惚れていたのだ。

「はい! お願いします!」
 私は元気よく返事をした。
 その契約に隠された「先輩の本当の目的」なんて、知る由もなく。
 ただ、彼の「彼女」になれたという事実だけで、世界がバラ色に見えた。

(つづく)
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