9 / 12
第9話
しおりを挟む
幸せな時間は、長くは続かない。
それは、物語の定石であり、現実の残酷さでもある。
事件は、唐突に起きた。
ある暴露系配信者が、動画を投稿したのだ。
『大人気ASMR配信者Nocturne、身バレ!? 大学特定か』
私は震える手でその動画を再生した。
そこには、律の配信の背景音(救急車のサイレンやチャイムの音)から地域を特定し、さらに過去のSNSの投稿(律が昔やっていたゲーム垢)と照らし合わせて、大学を絞り込んでいく過程が映されていた。
そして、最後に。
私の裏垢のスクショが貼られていた。
『隣の席の男子、今日も空気』
『Nocturne様と大違い』
配信者は言う。
「このアカウント、Nocturneの配信内容とリンクする投稿が多い。もしかして、この『隣の席の男子』がNocturne本人なんじゃないか?」
血の気が引いた。
私のせいだ。
私が、不用意にSNSで呟いていたせいで。
律との「秘密」を、世界にばら撒いてしまった。
✎ܚ
翌日。
大学は、なんとなくざわついていた。
律は、来ていなかった。
私は、律にLINEを送った。
『ごめんなさい。私のせいで』
既読がつかない。
その夜。
Nocturne様のチャンネルに、短いテキスト動画が上がった。
『一身上の都合により、当面の間、活動を休止します』
コメント欄は阿鼻叫喚。
『嘘でしょ!?』『待ってます』『特定班許さない』
私は、泣きながら律に電話をかけた。
出ない。
何度も、何度もかけた。
深夜。
やっと、律から返信が来た。
短い一文だけ。
『もう、関わらない方がいい』
突き放された。
当然だ。
私が、彼の居場所を壊したんだから。
でも、諦めきれなかった。
次の日、私は律のアパートへ向かった。
住所は知らないけど、駅前で待ち伏せすれば会えるかもしれない。
雨が降っていた。
傘も差さずに待っていると、律が現れた。
コンビニの袋を下げて、深くフードを被っている。
「律!」
私は駆け寄った。
律は、驚いた顔をした。
そして、すぐに冷たい顔になった。
「……帰れ」
「嫌だ! 謝らせて! 私のせいで……」
「お前のせいじゃない」
律が、強い口調で遮った。
「俺の脇が甘かっただけだ。……だから、もう来るな」
「なんで!? 私たち、共犯者じゃなかったの!?」
「……共犯関係は、解消だ」
律は、私から目を逸らした。
「……俺と一緒にいたら、お前まで特定される。ネットの連中は容赦ない。お前の住所も、顔も、全部晒されるぞ」
ああ。
そうか。
彼は、怒ってるんじゃない。
守ろうとしてくれているんだ。
自分の活動よりも、私の日常を。
「……そんなの、どうでもいい!」
私は叫んだ。
「律の声が聞けないなら、日常なんていらない! 守られるより、一緒にいたい!」
律の瞳が揺れた。
でも、彼は唇を噛み締めて、背を向けた。
「……さよなら、リナ」
律は、雨の中に消えていった。
残された私は、冷たい雨に打たれながら、ただ立ち尽くすしかなかった。
イヤホンからは、もう二度と更新されない、彼の過去の声だけが流れていた。
それは、物語の定石であり、現実の残酷さでもある。
事件は、唐突に起きた。
ある暴露系配信者が、動画を投稿したのだ。
『大人気ASMR配信者Nocturne、身バレ!? 大学特定か』
私は震える手でその動画を再生した。
そこには、律の配信の背景音(救急車のサイレンやチャイムの音)から地域を特定し、さらに過去のSNSの投稿(律が昔やっていたゲーム垢)と照らし合わせて、大学を絞り込んでいく過程が映されていた。
そして、最後に。
私の裏垢のスクショが貼られていた。
『隣の席の男子、今日も空気』
『Nocturne様と大違い』
配信者は言う。
「このアカウント、Nocturneの配信内容とリンクする投稿が多い。もしかして、この『隣の席の男子』がNocturne本人なんじゃないか?」
血の気が引いた。
私のせいだ。
私が、不用意にSNSで呟いていたせいで。
律との「秘密」を、世界にばら撒いてしまった。
✎ܚ
翌日。
大学は、なんとなくざわついていた。
律は、来ていなかった。
私は、律にLINEを送った。
『ごめんなさい。私のせいで』
既読がつかない。
その夜。
Nocturne様のチャンネルに、短いテキスト動画が上がった。
『一身上の都合により、当面の間、活動を休止します』
コメント欄は阿鼻叫喚。
『嘘でしょ!?』『待ってます』『特定班許さない』
私は、泣きながら律に電話をかけた。
出ない。
何度も、何度もかけた。
深夜。
やっと、律から返信が来た。
短い一文だけ。
『もう、関わらない方がいい』
突き放された。
当然だ。
私が、彼の居場所を壊したんだから。
でも、諦めきれなかった。
次の日、私は律のアパートへ向かった。
住所は知らないけど、駅前で待ち伏せすれば会えるかもしれない。
雨が降っていた。
傘も差さずに待っていると、律が現れた。
コンビニの袋を下げて、深くフードを被っている。
「律!」
私は駆け寄った。
律は、驚いた顔をした。
そして、すぐに冷たい顔になった。
「……帰れ」
「嫌だ! 謝らせて! 私のせいで……」
「お前のせいじゃない」
律が、強い口調で遮った。
「俺の脇が甘かっただけだ。……だから、もう来るな」
「なんで!? 私たち、共犯者じゃなかったの!?」
「……共犯関係は、解消だ」
律は、私から目を逸らした。
「……俺と一緒にいたら、お前まで特定される。ネットの連中は容赦ない。お前の住所も、顔も、全部晒されるぞ」
ああ。
そうか。
彼は、怒ってるんじゃない。
守ろうとしてくれているんだ。
自分の活動よりも、私の日常を。
「……そんなの、どうでもいい!」
私は叫んだ。
「律の声が聞けないなら、日常なんていらない! 守られるより、一緒にいたい!」
律の瞳が揺れた。
でも、彼は唇を噛み締めて、背を向けた。
「……さよなら、リナ」
律は、雨の中に消えていった。
残された私は、冷たい雨に打たれながら、ただ立ち尽くすしかなかった。
イヤホンからは、もう二度と更新されない、彼の過去の声だけが流れていた。
10
あなたにおすすめの小説
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
三年間片思いしていた同級生に振られたら、年上の綺麗なお姉さんにロックオンされた話
羽瀬川ルフレ
恋愛
高校三年間、ずっと一人の女の子に片思いをしていた主人公・汐見颯太は、高校卒業を目前にして片思いの相手である同級生の神戸花音に二回目の告白をする。しかし、花音の答えは二年前と同じく「ごめんなさい」。
今回の告白もうまくいかなかったら今度こそ花音のことを諦めるつもりだった颯太は、今度こそ彼女に対する未練を完全に断ち切ることにする。
そして数か月後、大学生になった颯太は人生初のアルバイトもはじめ、充実した毎日を過ごしていた。そんな彼はアルバイト先で出会った常連客の大鳥居彩華と少しずつ仲良くなり、いつの間にか九歳も年上の彩華を恋愛対象として意識し始めていた。
自分なんかを相手にしてくれるはずがないと思いながらもダメ元で彩華をデートに誘ってみた颯太は、意外にもあっさりとOKの返事をもらって嬉しさに舞い上がる。
楽しかった彩華との初デートが終わり、いよいよ彩華への正式な告白のタイミングを検討しはじめた颯太のところに、予想外の人物からのメッセージが届いていた。メッセージの送り主は颯太と同じ大学に進学したものの、ほとんど顔を合わせることもなくなっていた花音だった。
彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します
八
恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。
なろうに別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
一部加筆修正しています。
2025/9/9完結しました。ありがとうございました。
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる