声(ボイス)で、君を溺れさせてもいいですか

月下花音

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第11話

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 防音室の重い空気が、私たちの熱で満たされていく。
 律は、私の肩に額を預けたまま、荒い息を吐いていた。

「……ずっと、言いたかった」

 律の声が、私の鎖骨のあたりで響く。
 骨伝導で、直接心臓に届くような響き。

「……配信なんて、どうでもよかった。俺は、ただ……」

 律が顔を上げる。
 その瞳は、潤んでいて、熱っぽくて。
 いつもスマホを見ていたあの瞳が、今は私だけを映している。

「……君に、聴いてほしかっただけなんだ」

 ドクン。
 心臓が、痛い。

「……隣の席で、いつもイヤホンをして、俺の声を聴いてくれている君を見て……。もっと、君のために囁きたいって、ずっと思ってた」

 律の手が、私の頬に触れる。
 冷たい指先。
 でも、そこから伝わる体温は、火傷しそうに熱い。

「……リナ」

 名前を呼ばれるたびに、体が震える。

「……愛してる」

 その言葉は、配信で何千回も言っていた「愛してる」とは、全く違った。
 綺麗に整えられた、演技の「愛してる」じゃない。
 不器用で、必死で、泥臭い、本物の「愛してる」。

「……ずっと、見てた。君だけを」

 律が、私の耳元に唇を寄せる。
 マイクも、イヤホンも、何もない。
 空気の振動が、直接鼓膜を揺らす。

「……俺の、プリンセス」

 涙が溢れた。
 何万人のリスナーが、お金を払ってでも聞きたいと願うその声を。
 今、私だけが独占している。
 世界でたった一人、私だけのために、彼は囁いている。

 優越感なんて言葉じゃ足りない。
 これは、魂の充足だ。
 欠けていたピースが、パチリとハマる音。

「……私も」

 私は、律の背中に腕を回した。

「……私も、律の声がないと、生きていけない。……律がいないと、生きていけない」

 律が、私を強く抱きしめ返した。
 彼の鼓動が、私の胸に伝わる。
 トクトクと、速いリズム。
 私の鼓動と、同じリズム。

 防音室の外の世界なんて、どうでもよかった。
 ここには、私と律と、愛おしい「声」しかない。
 それだけで、世界は完璧だった。
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