渋谷カフェの人生哲学、お好き? ~一杯で変わる日常の味~

月下花音

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第47話「その比較癖って、隣の芝生が青く見えるだけかもです」

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 SNS時代の現代人は常に誰かと比較している。

 友人の昇進、同期の結婚、後輩の成功。

 他人の人生が輝いて見えて自分の人生が色あせて感じる。

 でも比較の向こう側にはその人なりの努力と悩みがある。

 そんな比較疲れした心を一杯のコーヒーで癒してくれる姉が今日もいる。

 ☕☕☕

 午後1時の渋谷クロスカフェ。

 ランチタイム、店内は会社員や学生で賑わっている。

 窓際のソファ席では30代前半の男性がスマホのSNSを見ながら深いため息をついている。

 そして今日もエスプレッソマシンの向こうであかりが比較に疲れた心への処方箋を用意している。

 ☕☕☕

 渋谷クロスカフェ発、姉弟のゆるっとログ。第47話。

 今日のテーマは他人との比較について。僕も同世代のライターの活躍を見るとつい自分と比べてしまう。

 カウンター席で僕はライター仲間のSNS投稿を見ていた。「新刊出版決定!」「テレビ出演します!」「海外取材に行ってきます!」...眩しすぎる投稿の数々。

(みんなすごいな...僕なんてまだこんなカフェで記事書いてるだけなのに)

 その時、窓際のソファ席から聞こえてきた溜息が僕の耳に飛び込んできた。

「はぁ...また昇進か...」

 30代前半の男性がスマホを見ながら呟いている。画面には同期らしき人の「部長昇進しました!」という投稿が表示されていた。

「姉ちゃんあの人なんだか落ち込んでるね」

「あらそうね」

 あかりはランチブレンドを淹れながらさりげなく男性の方を見た。

「他人と比較して疲れちゃってるのかもしれないわね」

「比較?」

「そう。SNSってみんなの『いいところ』だけが見えるから自分の人生が色あせて見えちゃうの。でもそれって錯覚なのよ」

「錯覚?」

 あかりは手を止めて僕の方を向いた。

「隣の芝生が青く見えるのと同じ。遠くから見ると綺麗に見えるけど近くで見ると雑草もあるし枯れた部分もある。でもSNSではそういう部分は見えないでしょう?」

(確かに...みんな成功した時しか投稿しないもんな)

 その時、男性がカウンターに近づいてきた。疲れた表情で、でも何かを吹っ切ろうとするような顔をしている。

「すみませんコーヒーを一杯お願いします」

「はいいらっしゃいませ。どのようなコーヒーをお望みですか?」

「えーっと...」

 男性は少し迷った後、苦笑いした。

「実は同期がどんどん出世していくのを見てなんだか自分が情けなくて...気分転換になるようなコーヒーはありますか?」

 あかりは優しく微笑んだ。

「同期の方の活躍を見て複雑なお気持ちなんですね」

「はい...SNSを見るたびに『俺は何やってるんだろう』って思っちゃって」

「他人と比較してしまうお気持ちとてもよく分かります。でもお客様」

「はい?」

「その比較って隣の芝生が青く見えるのと同じかもしれませんよ」

 男性が首をかしげた。

「隣の芝生?」

 あかりはコーヒー豆を手に取りながら説明を始めた。

「SNSってみんなの『成功した瞬間』だけが切り取られて表示されるんです。でもその裏にある努力や失敗、悩みは見えないでしょう?」

「あ...確かに」

「同期の方もきっと見えないところで苦労されてるはず。昇進の裏にはきっと長時間労働や責任の重さ新しいプレッシャーがあるかもしれません」

 男性の表情が少しだけ変わった。

「そう言われてみると...」

「そしてお客様にもその方にはない素晴らしいものがあるはずです」

 あかりが選んだのは深煎りのブラジル豆だった。

「ブラジル豆は派手さはないけれどとても安定していて飲む人を安心させてくれるんです」

 お湯をゆっくり注ぎながらあかりが続けた。

「目立たないけれど確実に価値がある。そんなコーヒーです」

「目立たないけれど価値がある...」

「はい。そして少しだけブラウンシュガーを加えます」

「ブラウンシュガー?」

「『自分のペースで歩んでいる』という静かな誇りです。他人と比較するのではなく昨日の自分と比較してみてください」

 完成したコーヒーを男性に差し出した。

「お客様の『自分らしいペース』完成です」

 男性が一口飲んでホッとしたような表情になった。

「あ...なんだか心が落ち着きます」

「良かったです」

「そうか...他人と比較するんじゃなくて昨日の自分と比較すればいいんですね」

 男性が少し考え込むような表情を見せた。

「去年の自分と比べたら確実に成長してるし経験も積んでる。それってとても価値のあることですよね」

 あかりが頷いた。

「そうですね。人それぞれ歩むペースも目指す方向も違います。大切なのは自分らしく歩き続けることじゃないでしょうか」

「ありがとうございます。なんだか肩の荷が下りました」

 男性はコーヒーを持って席に戻ると今度はスマホを閉じて窓の外の景色をゆっくり眺め始めた。

(すごいな...姉ちゃんの言葉であの人の見る世界が変わった)

「姉ちゃんまた素敵なアドバイスだったね」

「そう?でも私も昔は比較ばかりしてたのよ」

「姉ちゃんも?」

 あかりは少し遠い目をした。

「同期のバリスタが有名店に転職したりコンテストで入賞したりするのを見て『私は何やってるんだろう』って思ってた」

「へぇ」

「でもある時気づいたの。私には私の良さがある。お客さんとの距離が近くて一人一人に寄り添えるのが私の強みなんだって」

「なるほど」

「他人の芝生を羨ましがるより自分の庭を大切に育てる方がきっと幸せよ」

 僕は自分のSNSを見直した。確かにみんなの成功だけを見て自分と比較していた。

「僕も他人と比較するのやめてみようかな」

「それがいいわ。ハルはハルのペースで着実に成長してるじゃない」

「そうかな?」

「去年のハルと比べてみなさい。記事の質も上がってるしお客さんからの評価も良くなってる。それってとても素晴らしい成長よ」

 確かに言われてみればそうかもしれない。他人と比較ばかりしていて自分の成長を見落としていた。

 30分後、男性が再びカウンターにやってきた。

「ありがとうございました。なんだか久しぶりに心が軽くなりました」

「それは良かったです」

「SNSを見るのをやめて代わりに自分の日記を書いてみようと思います。昨日の自分と比較するために」

「素晴らしいアイデアですね」

「本当にありがとうございました。また来させていただきます」

 男性が穏やかな表情で店を出ていく姿を見て僕も自分のネタ帳を開いた。

『隣の芝生理論 - SNSは成功の瞬間だけを切り取る』
『自分の庭を育てる - 他人との比較より昨日の自分との比較』

 姉ちゃんの言葉はいつも僕の視点を変えてくれる。

 他人と比較して落ち込むより自分らしいペースで歩き続ける方がきっと幸せなんだ。

 渋谷の午後の陽射しが窓から差し込む中、クロスカフェの温かい空間で今日もまた一つ人生の真理を学ぶことができた。

(第47話完 次話へ続く)

 次回予告:
 その『でも』って実は新しい扉の前に立ってるサインです。

 #渋谷クロスカフェ #他人との比較 #隣の芝生理論 #自分らしいペース #SNS疲れ #昨日の自分との比較
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