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第18話
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春が来た。
桜が咲き誇るキャンパスで、僕たちは新学期を迎えてた。
舞い散る花びらが、ピンク色の絨毯を作ってる。
「先輩!」
神崎葵が駆け寄ってくる。
手にはいつものカメラ。でも、その表情は以前のような探るような鋭さはなく、憑き物が落ちたような明るい笑顔だった。
「……神崎さん」
僕と一ノ瀬さんは身構える。
また何か仕掛けてくるのか?
「実は……白状します」
葵がペロリと舌を出す。
「先輩方のテレパシー調査、諦めました」
「え?」
「いくら観察しても、科学的な証拠が掴めなくて。……それに、気づいたんです」
彼女はカメラを下ろす。
「証拠なんて、どうでもいいなって」
葵の目が、少し潤んでるように見えた。
「先輩方、本当に仲がいいですよね。……言葉がなくても通じ合ってる。それが『超能力』だろうが『愛』だろうが、結果は同じです。……二人は、世界で一番幸せなカップルだってことです」
一ノ瀬さんと目を合わせる。
彼女の脳内に、安堵の色と、葵への優しさが浮かんでた。
「……ありがとう、神崎さん」
「いえ。……あ、それと報告がもう一つ」
葵が苦笑いする。
「田中くんとは、お友達に戻りました」
「えっ」
「やっぱり、私にはまだ早かったみたいです。……彼の優しさに甘えてばかりで、私は彼のことを何も見てなかった。……先輩方みたいに、相手の心の奥底まで理解できるようになってから、出直します」
寂しそうに、でも晴れやかに笑う。
彼女もまた、この「事件」を通じて成長したのかもしれない。
「先輩方、これからもお幸せに! ……あ、でもスクープの匂いがしたら、いつでも飛んできますからね!」
葵は深々とお辞儀をして、桜吹雪の中を駆け去っていった。
嵐のような、でも憎めない後輩だった。
∞ ―――――――――― ∞
放課後。
僕たちはいつもの古書堂「夢現」に来てた。
店内の古時計が、ボーン、ボーンと時を告げる。
「おばあさん、ありがとうございました」
店主の老婆に礼を言う。
彼女はカウンターの奥で、満足そうにキセルをふかしてる。
「この『呪い』のおかげで、僕たちは出会えました。……そして、大切なことを学びました」
「呪いではない。『祝福』じゃと、何度も言うておろう」
老婆がニヤリと笑う。
その笑顔は、皺だらけだけど、どこか少女のように悪戯っぽい。
「お主らは、この栞を通じて知ったのじゃ。……言葉の無力さと、言葉の偉大さを。そして、心を覗くことの恐ろしさと、受け入れることの尊さを」
深い言葉だ。
僕たちは顔を見合わせる。
「……もう、栞はいらんか?」
老婆が問う。
栞を返せば、このテレパシーも消えるのかもしれない。
普通のカップルに戻れる。
プライバシーのある、平穏な生活。
でも。
「……いいえ」
一ノ瀬さんが即答した。
「これは、私たちのものです。……一生、離しません」
(だって、優也の変態妄想が聞けなくなるなんて、つまんないし)
脳内に響く彼女の本音。
僕は苦笑いする。
「僕もです。……彼女の毒舌な本音が聞けないと、調子が狂うんで」
「カッカッカ! 物好きな若人(わこうど)じゃ」
老婆が高笑いする。
僕たちは店を出た。
ドアのベルが、カランコロンと祝福のように鳴り響いた。
∞ ―――――――――― ∞
帰り道。
川沿いの桜並木を歩く。
夕日が水面をキラキラと照らしてる。
一ノ瀬さんが僕の肩に頭を預ける。
その脳内は、今、嵐のように騒がしい。
(……言うの? 今言うの?)
(いや、まだ早い? でも卒業まで待てない)
(優也から言ってくれないかな。……ヘタレだから無理か)
(あー、もう! 心臓うるさい!)
全部聞こえてますよ、一ノ瀬さん。
僕は立ち止まる。
彼女も立ち止まる。
「……ねえ、優也」
今度は声に出して、一ノ瀬さんが言う。
その顔は真っ赤で、瞳は潤んでる。
「……結婚しよう」
「え?」
「卒業したら、すぐに。……ずっと一緒にいたいの」
真っ直ぐに僕を見る。
その瞳に、嘘偽りのない「愛」が見える。
「心の声じゃなくて、ちゃんと言うね。……大好き。一生、あんたのそばにいたい。……あんたの妄想も、弱さも、全部私が受け止めてあげるから」
彼女の言葉が、胸に突き刺さる。
嬉しくて、愛おしくて、涙が出そうだ。
僕は彼女を強く抱きしめる。
「……僕もです。……一生、君を愛します。君が僕の妄想に付き合ってくれる限り……いや、呆れられても、ずっとついていきます」
「……ふふっ。バカ」
彼女が僕の胸に顔を埋める。
(……愛してる、優也)
(……愛してる、こころ)
その誓いは、心の声でも、言葉でも、同じ重さを持ってた。
二つの世界で、僕たちは結ばれたのだ。
古書堂の片隅から始まった、僕たちの奇妙な恋物語。
それはここで一区切り。
でも、僕たちの「同期」は終わらない。
妄想も、現実も、全部ひっくるめて。
これからも、二人で甘くて騒がしい日々を歩いていこう。
(完)
【あとがき】
柏木優也と一ノ瀬こころの物語は、ここで一区切りです。
「呪いの栞」は、二人にとって最高の「祝福」となりました。
もし、また二人に会いたくなったら……古書堂「夢現」を訪れてみてください。
きっと、彼らはそこで、今日も甘くて騒がしい日々を送ってるはずです。
読んでくださって、ありがとうございました。
桜が咲き誇るキャンパスで、僕たちは新学期を迎えてた。
舞い散る花びらが、ピンク色の絨毯を作ってる。
「先輩!」
神崎葵が駆け寄ってくる。
手にはいつものカメラ。でも、その表情は以前のような探るような鋭さはなく、憑き物が落ちたような明るい笑顔だった。
「……神崎さん」
僕と一ノ瀬さんは身構える。
また何か仕掛けてくるのか?
「実は……白状します」
葵がペロリと舌を出す。
「先輩方のテレパシー調査、諦めました」
「え?」
「いくら観察しても、科学的な証拠が掴めなくて。……それに、気づいたんです」
彼女はカメラを下ろす。
「証拠なんて、どうでもいいなって」
葵の目が、少し潤んでるように見えた。
「先輩方、本当に仲がいいですよね。……言葉がなくても通じ合ってる。それが『超能力』だろうが『愛』だろうが、結果は同じです。……二人は、世界で一番幸せなカップルだってことです」
一ノ瀬さんと目を合わせる。
彼女の脳内に、安堵の色と、葵への優しさが浮かんでた。
「……ありがとう、神崎さん」
「いえ。……あ、それと報告がもう一つ」
葵が苦笑いする。
「田中くんとは、お友達に戻りました」
「えっ」
「やっぱり、私にはまだ早かったみたいです。……彼の優しさに甘えてばかりで、私は彼のことを何も見てなかった。……先輩方みたいに、相手の心の奥底まで理解できるようになってから、出直します」
寂しそうに、でも晴れやかに笑う。
彼女もまた、この「事件」を通じて成長したのかもしれない。
「先輩方、これからもお幸せに! ……あ、でもスクープの匂いがしたら、いつでも飛んできますからね!」
葵は深々とお辞儀をして、桜吹雪の中を駆け去っていった。
嵐のような、でも憎めない後輩だった。
∞ ―――――――――― ∞
放課後。
僕たちはいつもの古書堂「夢現」に来てた。
店内の古時計が、ボーン、ボーンと時を告げる。
「おばあさん、ありがとうございました」
店主の老婆に礼を言う。
彼女はカウンターの奥で、満足そうにキセルをふかしてる。
「この『呪い』のおかげで、僕たちは出会えました。……そして、大切なことを学びました」
「呪いではない。『祝福』じゃと、何度も言うておろう」
老婆がニヤリと笑う。
その笑顔は、皺だらけだけど、どこか少女のように悪戯っぽい。
「お主らは、この栞を通じて知ったのじゃ。……言葉の無力さと、言葉の偉大さを。そして、心を覗くことの恐ろしさと、受け入れることの尊さを」
深い言葉だ。
僕たちは顔を見合わせる。
「……もう、栞はいらんか?」
老婆が問う。
栞を返せば、このテレパシーも消えるのかもしれない。
普通のカップルに戻れる。
プライバシーのある、平穏な生活。
でも。
「……いいえ」
一ノ瀬さんが即答した。
「これは、私たちのものです。……一生、離しません」
(だって、優也の変態妄想が聞けなくなるなんて、つまんないし)
脳内に響く彼女の本音。
僕は苦笑いする。
「僕もです。……彼女の毒舌な本音が聞けないと、調子が狂うんで」
「カッカッカ! 物好きな若人(わこうど)じゃ」
老婆が高笑いする。
僕たちは店を出た。
ドアのベルが、カランコロンと祝福のように鳴り響いた。
∞ ―――――――――― ∞
帰り道。
川沿いの桜並木を歩く。
夕日が水面をキラキラと照らしてる。
一ノ瀬さんが僕の肩に頭を預ける。
その脳内は、今、嵐のように騒がしい。
(……言うの? 今言うの?)
(いや、まだ早い? でも卒業まで待てない)
(優也から言ってくれないかな。……ヘタレだから無理か)
(あー、もう! 心臓うるさい!)
全部聞こえてますよ、一ノ瀬さん。
僕は立ち止まる。
彼女も立ち止まる。
「……ねえ、優也」
今度は声に出して、一ノ瀬さんが言う。
その顔は真っ赤で、瞳は潤んでる。
「……結婚しよう」
「え?」
「卒業したら、すぐに。……ずっと一緒にいたいの」
真っ直ぐに僕を見る。
その瞳に、嘘偽りのない「愛」が見える。
「心の声じゃなくて、ちゃんと言うね。……大好き。一生、あんたのそばにいたい。……あんたの妄想も、弱さも、全部私が受け止めてあげるから」
彼女の言葉が、胸に突き刺さる。
嬉しくて、愛おしくて、涙が出そうだ。
僕は彼女を強く抱きしめる。
「……僕もです。……一生、君を愛します。君が僕の妄想に付き合ってくれる限り……いや、呆れられても、ずっとついていきます」
「……ふふっ。バカ」
彼女が僕の胸に顔を埋める。
(……愛してる、優也)
(……愛してる、こころ)
その誓いは、心の声でも、言葉でも、同じ重さを持ってた。
二つの世界で、僕たちは結ばれたのだ。
古書堂の片隅から始まった、僕たちの奇妙な恋物語。
それはここで一区切り。
でも、僕たちの「同期」は終わらない。
妄想も、現実も、全部ひっくるめて。
これからも、二人で甘くて騒がしい日々を歩いていこう。
(完)
【あとがき】
柏木優也と一ノ瀬こころの物語は、ここで一区切りです。
「呪いの栞」は、二人にとって最高の「祝福」となりました。
もし、また二人に会いたくなったら……古書堂「夢現」を訪れてみてください。
きっと、彼らはそこで、今日も甘くて騒がしい日々を送ってるはずです。
読んでくださって、ありがとうございました。
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