「君の妄想、全部聞こえてるよ?」~古本屋の呪いで、クールな美少女と脳内イチャラブ同期(シンクロ)してしまった件~

月下花音

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第17話

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 翌週。
 異変は、唐突に起きた。
 学食でランチを食べてる時だった。

(あ、このハンバーグ美味しい。優也にも一口あげようかな)

 そう思って、箸でハンバーグを切った瞬間。
 プツン。
 まるでテレビの電源が切れたように、世界から「音」が消えた。
 いや、周囲の喧騒は聞こえる。
 消えたのは、僕の脳内に常に流れていたBGM――一ノ瀬こころの心の声だ。

「……優也?」

 一ノ瀬さんが不安そうに僕を見る。
 口は動いてる。声も聞こえる。
 でも、その裏にあるはずの(どうしたの?)(顔色が悪いよ)という副音声が聞こえない。

「……聞こえない」

「え?」

「あんたの心の声が……聞こえないの」

 彼女も同じだったらしい。
 箸を落とし、目を見開いてる。

「……まさか、また?」

 以前と同じ。
 「同期」が切れた。
 僕たちの世界に、完全な静寂が訪れた。

     ∞ ―――――――――― ∞

 原因は不明。
 放課後、慌てて古書堂に駆け込んだが、店主の老婆は「心の乱れじゃろう」と煙に巻くようなことしか言わなかった。
 「乱れ」って何だ。
 僕たちはこんなに愛し合ってるのに。

 そして、心の声が聞こえなくなった途端、僕たちの関係はギクシャクし始めた。
 まるで、自転車の補助輪を急に外された子供みたいに。

「……今日、遅くなるから」

 翌日の夕方。
 一ノ瀬さんがそっけなく言う。
 目を合わせない。

「え? どこに行くんですか?」

「……ゼミの集まり」

 それだけ言って、彼女は背を向けた。
 いつもなら、ここで心の声が聞こえるはずだ。
 (本当は行きたくない)(優也と一緒に帰りたい)(でも教授がうるさいから)……そんな本音が。
 でも、今は何も伝わってこない。
 ただの冷たい拒絶に見える。

 不安。
 疑心暗鬼。
 彼女は本当にゼミなのか?
 もしかして、僕に飽きたんじゃないか?
 テレパシーという「特別な繋がり」がなくなった僕は、ただの冴えない大学生だ。彼女が一緒にいる理由なんて、もうないのかもしれない。

 そんなネガティブな妄想が、脳内を黒く塗りつぶしていく。

     ∞ ―――――――――― ∞

 その夜。
 外は激しい雨が降っていた。
 僕は一人で部屋にいた。
 スマホを見る。
 一ノ瀬さんからの連絡はない。既読もつかない。

(……何してるんだろう)

 心の声が聞こえないと、こんなにも孤独だなんて。
 今まで、僕たちは「繋がっている」ことに甘えすぎてたのかもしれない。
 言葉にしなくても伝わる。
 その便利さに溺れて、一番大切な「対話」をサボってたツケが回ってきたんだ。

 ピンポーン。

 不意にインターホンが鳴る。
 こんな時間に誰だ?
 新聞の勧誘か? それとも神崎葵の突撃取材か?

 ドアを開ける。
 そこに立っていたのは、ずぶ濡れの一ノ瀬こころだった。
 傘もささず、髪も服もびしょ濡れ。
 まるで捨て猫のような姿。

「……一ノ瀬さん?」

「……入れて」

 震える声。
 僕は慌てて彼女を部屋に入れ、バスタオルで包む。
 彼女の体は氷のように冷たかった。

「どうしたんですか? ゼミは?」

「……嘘」

 彼女が俯く。

「……嘘ついた。ゼミなんて、なかった」

「え?」

「本当は……あんたに会いたくなくて。……一人で考えたくて」

 その言葉に、心臓が凍りつく。
 会いたくない?
 やっぱり、嫌われたのか?

「……なんで?」

「だって……」

 一ノ瀬さんが顔を上げる。
 その目は、雨水か涙かわからないもので濡れていた。

「……心の声が聞こえないと、あんたが何考えてるかわからなくて、怖かったの」

「一ノ瀬さん……」

「いつもなら、『可愛い』とか『好きだ』とか、うるさいくらい聞こえてくるのに……今日は静かで。……もしかして、私のこと、もう好きじゃないんじゃないかって……」

 彼女の声が震える。
 僕と同じだ。
 彼女も不安だったんだ。

「……バカだよね。テレパシーがないと、信じることさえできないなんて」

 彼女が自嘲気味に笑う。
 僕はたまらなくなって、彼女を抱きしめた。
 濡れた服が冷たいけど、そんなの関係ない。

「僕も同じです。……心の声が聞こえないと、君の気持ちがわからなくて、不安でした」

「……優也」

「でも、わかりました」

 彼女の顔を両手で包む。
 冷たい頬。

「テレパシーなんて、ただのオマケです。……僕が見るべきなのは、心の声じゃなくて、目の前の君だ」

「……うん」

「好きです。一ノ瀬さん。……心の声じゃなくて、ちゃんと言葉にします。……愛してます」

 彼女の瞳から、大粒の涙が溢れる。

「……私も。大好き、優也。……世界で一番、愛してる」

 唇を重ねる。
 雨の音だけが響く部屋で、僕たちは互いの体温を確かめ合う。

 その瞬間。

 キーン。

 頭の中に、あの懐かしい、そして少し頭痛のするノイズが走った。
 まるでラジオのチューニングが合った時のような音。
 そして、堰を切ったように、彼女の声が流れ込んでくる。

(……あ、繋がった)
(優也の声だ。……温かい)
(大好き。もう離さない。……今日は帰さないから)

 僕も思う。

(……おかえり、こころ)
(僕も帰さないよ。……覚悟してね)

 「同期」は戻ってきた。
 でも、今度は違う。
 テレパシーに頼るんじゃなく、信頼の上に成り立つ繋がり。
 言葉と心、その両方で愛し合う、最強のカップル(バカップル)の誕生だ。

(第17話 完)

第17話完 次話へ続く
次回、シーズン2最終話! 葵の最後の挑戦、そして二人が辿り着く「永遠の同期」とは? 感動のフィナーレ!
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