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第16話
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週末。
僕たちは神崎葵に呼び出されて、駅前のカフェに来てた。
そして、そこには見知らぬ男子学生もいた。
「紹介します。私の彼氏、田中くんです」
葵が爽やかな笑顔で言う。
田中と名乗った男は、爽やかな短髪に、人懐っこい笑顔。
まさに「ザ・好青年」。
僕のような日陰者とは正反対の、光属性の住人だ。
「よろしくお願いします! 葵から、先輩方のことは聞いてます。ベストカップルなんですよね!」
田中くんが元気よく挨拶する。
眩しい。直視できない。
「……ダブルデート、ですか」
一ノ瀬さんが冷ややかに言う。
その目は「帰りたい」と語ってる。
「はい! 仲良くなりたいなって思って」
葵はニコニコしてるけど、その目は笑ってない。
これは罠だ。
「彼氏持ち」という安心感を与えて油断させ、僕たちの「テレパシー」を暴くための高度な心理戦。
(優也、気をつけて。この子、絶対に何か仕掛けてくる)
一ノ瀬さんの警告が脳内に響く。
(了解です。普通のカップルを演じましょう。……ボロが出ないように)
心の中で作戦会議をしながら、表面上は和やかに会話を始める。
∞ ―――――――――― ∞
「じゃあ、ゲームしましょう!」
カフェを出て、ボウリング場に移動した後。
葵が提案した。
「カップル対抗戦です。負けた方がジュース奢り!」
田中くんが「いいね!」と乗っかる。
僕たちは断る権利もなく、レーンに立つことになった。
「でも、ただのボウリングじゃ面白くないですよね」
葵がニヤリと笑う。
「『シンクロ投法』でいきましょう。カップルで同時に投げて、倒したピンの合計を競うんです。……息が合ってれば、タイミングも完璧なはずですよね?」
試されている。
僕と一ノ瀬さんはボールを持つ。
(優也、タイミング合わせるわよ。……『せーの』で投げる)
(了解。……でも、一ノ瀬さん、ボウリング得意なんですか?)
(……実は苦手。ガーター出すかも)
(えっ)
(だから、優也がカバーして。……ストライク出して、私のミスを帳消しにして)
無茶振りだ。
でも、彼女の頼みなら断れない。
「せーの!」
二人同時に助走をつける。
一ノ瀬さんのフォームは美しいが、ボールは手から離れた瞬間、右側のガーターへ吸い込まれていった。
僕は必死に集中し、真ん中を狙う。
……が、一ノ瀬さんの「ああっ!」という心の悲鳴に気を取られ、僕のボールも左側のガーターへ。
ダブルガーター。
ある意味、シンクロしている。
「あはは! 先輩たち、仲良すぎですよ!」
田中くんが笑う。
葵は目を細めてメモを取る(心のメモ帳に)。
「……失敗するタイミングまで一緒とは。興味深いですね」
∞ ―――――――――― ∞
その後も、葵の「実験」は続いた。
休憩中のジュース選び(「以心伝心で相手の飲みたいものを買ってきてください」)、カラオケでの選曲(「相談なしでデュエット曲を入れてください」)。
僕たちは必死にテレパシー(とアイコンタクト)を駆使して乗り切った。
そして、帰り道。
夕暮れの公園で、最後の「尋問」が始まった。
「先輩方、正直に言ってください」
葵が立ち止まる。
田中くんは少し離れた場所で電話をしてる。
「やっぱり、聞こえてますよね? 心の声」
直球だ。
逃げ場がない。
「さっきのジュース選びも、カラオケの選曲も、完璧すぎました。……確率的にありえません」
葵が僕たちを指差す。
「科学的に証明できないことはわかってます。でも、私の勘が告げてるんです。お二人の間には、未知の回線(ライン)があると」
一ノ瀬さんが口を開こうとする。
その時。
「おーい、葵!」
電話を終えた田中くんが戻ってきた。
「何難しい顔してんだよ。……先輩たちを困らせるなよ」
「で、でも田中くん! 先輩たちはすごいんだよ! 超能力かもしれないんだよ!」
葵が訴える。
田中くんは、優しく葵の頭をポンと撫でた。
「あのさ、葵」
「な、何?」
「俺だって、葵のことなら何でもわかるぜ? 今、何考えてるかもわかる」
「えっ……嘘」
「『田中くん、かっこいい』……だろ?」
「ッ……!」
葵の顔が爆発したように赤くなる。
図星らしい。
「恋人同士なら、言葉にしなくても伝わることってあるだろ。それを『超能力』なんて野暮な言葉で片付けるなよ。……それは『愛』だろ?」
田中くんが爽やかに言い放つ。
くっ……!
眩しい!
これがリア充の輝きか!
僕と一ノ瀬さんは、その光に焼かれて灰になりそうだ。
「……うう、田中くんのバカ……」
葵が田中くんの胸に顔を埋める。
完全に無力化された。
僕たちの「テレパシー疑惑」は、田中くんの「愛の力説」によって、うやむやにされたのだった。
∞ ―――――――――― ∞
帰り道。
僕たちは疲労困憊で歩いてた。
「……疲れた」
一ノ瀬さんが僕の腕に全体重を預けてくる。
「お疲れ様です。……田中くん、いい奴でしたね」
「ええ。……眩しすぎて、直視できなかったけど」
(でも、優也と一緒なら、どんな試練も乗り越えられる気がする)
彼女の甘い思考が流れ込んでくる。
僕も同じ気持ちだ。
今日は散々だったけど、彼女との絆(とテレパシーの精度)は深まった気がする。
(……ねえ、優也)
(ん?)
(……私たちも、あんな風にバカップルに見えてるのかな?)
(……たぶん、もっと酷いと思います)
(……ふふっ。なら、いっそ世界一のバカップルを目指しましょうか)
夕闇の中、僕たちは笑い合った。
この幸せな「同期」が、永遠に続くと信じて。
だが、僕たちは知らなかった。
この直後、僕たちの絆を揺るがす「システム障害」が発生することを。
(第16話 完)
第16話完 次話へ続く
次回、まさかの「同期」不具合!? 突然、心の声が聞こえなくなった二人。誤解とすれ違いが生まれ、最大の危機が訪れる……!
僕たちは神崎葵に呼び出されて、駅前のカフェに来てた。
そして、そこには見知らぬ男子学生もいた。
「紹介します。私の彼氏、田中くんです」
葵が爽やかな笑顔で言う。
田中と名乗った男は、爽やかな短髪に、人懐っこい笑顔。
まさに「ザ・好青年」。
僕のような日陰者とは正反対の、光属性の住人だ。
「よろしくお願いします! 葵から、先輩方のことは聞いてます。ベストカップルなんですよね!」
田中くんが元気よく挨拶する。
眩しい。直視できない。
「……ダブルデート、ですか」
一ノ瀬さんが冷ややかに言う。
その目は「帰りたい」と語ってる。
「はい! 仲良くなりたいなって思って」
葵はニコニコしてるけど、その目は笑ってない。
これは罠だ。
「彼氏持ち」という安心感を与えて油断させ、僕たちの「テレパシー」を暴くための高度な心理戦。
(優也、気をつけて。この子、絶対に何か仕掛けてくる)
一ノ瀬さんの警告が脳内に響く。
(了解です。普通のカップルを演じましょう。……ボロが出ないように)
心の中で作戦会議をしながら、表面上は和やかに会話を始める。
∞ ―――――――――― ∞
「じゃあ、ゲームしましょう!」
カフェを出て、ボウリング場に移動した後。
葵が提案した。
「カップル対抗戦です。負けた方がジュース奢り!」
田中くんが「いいね!」と乗っかる。
僕たちは断る権利もなく、レーンに立つことになった。
「でも、ただのボウリングじゃ面白くないですよね」
葵がニヤリと笑う。
「『シンクロ投法』でいきましょう。カップルで同時に投げて、倒したピンの合計を競うんです。……息が合ってれば、タイミングも完璧なはずですよね?」
試されている。
僕と一ノ瀬さんはボールを持つ。
(優也、タイミング合わせるわよ。……『せーの』で投げる)
(了解。……でも、一ノ瀬さん、ボウリング得意なんですか?)
(……実は苦手。ガーター出すかも)
(えっ)
(だから、優也がカバーして。……ストライク出して、私のミスを帳消しにして)
無茶振りだ。
でも、彼女の頼みなら断れない。
「せーの!」
二人同時に助走をつける。
一ノ瀬さんのフォームは美しいが、ボールは手から離れた瞬間、右側のガーターへ吸い込まれていった。
僕は必死に集中し、真ん中を狙う。
……が、一ノ瀬さんの「ああっ!」という心の悲鳴に気を取られ、僕のボールも左側のガーターへ。
ダブルガーター。
ある意味、シンクロしている。
「あはは! 先輩たち、仲良すぎですよ!」
田中くんが笑う。
葵は目を細めてメモを取る(心のメモ帳に)。
「……失敗するタイミングまで一緒とは。興味深いですね」
∞ ―――――――――― ∞
その後も、葵の「実験」は続いた。
休憩中のジュース選び(「以心伝心で相手の飲みたいものを買ってきてください」)、カラオケでの選曲(「相談なしでデュエット曲を入れてください」)。
僕たちは必死にテレパシー(とアイコンタクト)を駆使して乗り切った。
そして、帰り道。
夕暮れの公園で、最後の「尋問」が始まった。
「先輩方、正直に言ってください」
葵が立ち止まる。
田中くんは少し離れた場所で電話をしてる。
「やっぱり、聞こえてますよね? 心の声」
直球だ。
逃げ場がない。
「さっきのジュース選びも、カラオケの選曲も、完璧すぎました。……確率的にありえません」
葵が僕たちを指差す。
「科学的に証明できないことはわかってます。でも、私の勘が告げてるんです。お二人の間には、未知の回線(ライン)があると」
一ノ瀬さんが口を開こうとする。
その時。
「おーい、葵!」
電話を終えた田中くんが戻ってきた。
「何難しい顔してんだよ。……先輩たちを困らせるなよ」
「で、でも田中くん! 先輩たちはすごいんだよ! 超能力かもしれないんだよ!」
葵が訴える。
田中くんは、優しく葵の頭をポンと撫でた。
「あのさ、葵」
「な、何?」
「俺だって、葵のことなら何でもわかるぜ? 今、何考えてるかもわかる」
「えっ……嘘」
「『田中くん、かっこいい』……だろ?」
「ッ……!」
葵の顔が爆発したように赤くなる。
図星らしい。
「恋人同士なら、言葉にしなくても伝わることってあるだろ。それを『超能力』なんて野暮な言葉で片付けるなよ。……それは『愛』だろ?」
田中くんが爽やかに言い放つ。
くっ……!
眩しい!
これがリア充の輝きか!
僕と一ノ瀬さんは、その光に焼かれて灰になりそうだ。
「……うう、田中くんのバカ……」
葵が田中くんの胸に顔を埋める。
完全に無力化された。
僕たちの「テレパシー疑惑」は、田中くんの「愛の力説」によって、うやむやにされたのだった。
∞ ―――――――――― ∞
帰り道。
僕たちは疲労困憊で歩いてた。
「……疲れた」
一ノ瀬さんが僕の腕に全体重を預けてくる。
「お疲れ様です。……田中くん、いい奴でしたね」
「ええ。……眩しすぎて、直視できなかったけど」
(でも、優也と一緒なら、どんな試練も乗り越えられる気がする)
彼女の甘い思考が流れ込んでくる。
僕も同じ気持ちだ。
今日は散々だったけど、彼女との絆(とテレパシーの精度)は深まった気がする。
(……ねえ、優也)
(ん?)
(……私たちも、あんな風にバカップルに見えてるのかな?)
(……たぶん、もっと酷いと思います)
(……ふふっ。なら、いっそ世界一のバカップルを目指しましょうか)
夕闇の中、僕たちは笑い合った。
この幸せな「同期」が、永遠に続くと信じて。
だが、僕たちは知らなかった。
この直後、僕たちの絆を揺るがす「システム障害」が発生することを。
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