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Ep.01
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二十八歳。
それは、「自分探し」という痛々しい季節を終えて、「自分確定」のハンコを押したくなる年齢だ。
私は自分のことを、多面的な魅力を持つ女だと思っている。
仕事は事務職だけど、休日はアート巡りもするし、赤提灯で飲むのも好き。
家庭的な一面もありつつ、自由でロックな一面もある。
そんな「深みのある私」を、二人の男を使って演出している。
一人目は、Aくん。
マッチングアプリで出会った、メーカー勤務の同い年。
彼は私の「家庭的で堅実な一面」を映す鏡だ。
彼とのLINEは、いつも丁寧語交じり。
『お疲れ様です。今日は寒かったですね』
『自炊した肉じゃが、作りすぎちゃいました』
そんなメッセージを送ると、彼は必ず『すごいね』『いい奥さんになれそう』と返してくれる。
その言葉は、私の「将来への不安」を鎮めてくれる精神安定剤だ。
彼といれば、私は「ちゃんとした大人の女性」でいられる。
二人目は、Bさん。
インスタグラムで繋がった、カリスマ美容師。
彼は私の「自由でクリエイティブな一面」を映す鏡だ。
彼とのDMは、タメ口で、絵文字少なめ。
『この前の映画、色彩設計がヤバかった』
『今度個展行くんだけど、興味ある?』
そんなメッセージを送ると、彼は『センスいいじゃん』『マナちゃんわかってるね』と返してくれる。
その言葉は、私の「自尊心」を満たしてくれる栄養剤だ。
彼といれば、私は「センスのあるかっこいい女」でいられる。
私はこの二つの関係を、完璧にコントロールしているつもりだった。
二股じゃない。
「相手に合わせて、自分の引き出しを使い分けている」だけ。
多才な私には、一人の男じゃ器が小さすぎて受け止めきれないのだと、本気で信じていた。
二月十四日。
バレンタインデー。
私は今日、この「使い分け」の集大成を見せるつもりだった。
午前中。
会社のデスクで、AくんにLINEを送る。
チョコを渡す約束を取り付けるためのメッセージだ。
でも、ただ「会いたい」と言うのは能がない。
私は「堅実な女」を演じなければならない。
『Aくん、今日もし時間あったら会えませんか? 少し渡したいものがあって。でも、今は仕事が一番大事な時期だから、無理しないでくださいね』
送信。
完璧だ。
「会いたい」という要求を、「仕事への理解」というオブラートで包むことで、慎ましさを演出している。
Aくんなら、きっと感動してくれるはずだ。
午後。
ランチタイムに、BさんにDMを送る。
こっちは「自由な女」を演じなければならない。
『Bさん、今日夜空いてる? 渡したいものあるんだけど。まあ、私も今は仕事が一番楽しい時期だから、暇ならでいいけど』
送信。
これも完璧だ。
同じ内容なのに、語尾とニュアンスを変えるだけで、こんなにも印象が変わる。
「縛られたくない」という意志をチラつかせることで、Bさんの狩猟本能を刺激するのだ。
私はスマホを置いて、満足げにコーヒーを啜った。
私って、器用だなあ。
こうやって男たちを掌の上で転がしながら、私は「結婚」というゴールと、「刺激」というスパイスの両方を手に入れている。
Aくんと結婚して安定を手に入れ、Bさんとは大人の関係を続けて感性を磨く。
そんな未来予想図が、私の中では既に描かれていた。
でも。
私は気づいていなかった。
私が「使い分けている」と思っているその言葉たちが、実はただの「テンプレート」に過ぎないということに。
そして、そのテンプレートは、使い回しが効く便利な道具のようでいて、実は「私」という人間の空っぽさを証明する、最も残酷な証拠品であるということに。
スマホが震えた。
Aくんからだ。
『ありがとう。その言葉、すごく嬉しいよ。夜、会いに行くね』
ほら、釣れた。
私は画面を見てほくそ笑む。
簡単なもんだ。
男なんて、自分にとって都合のいい言葉を投げてやれば、面白いように食いついてくる。
私は自分が「選ぶ側」の人間だと信じて疑わなかった。
今夜、この傲慢さが粉々に砕け散るとは知らずに。
それは、「自分探し」という痛々しい季節を終えて、「自分確定」のハンコを押したくなる年齢だ。
私は自分のことを、多面的な魅力を持つ女だと思っている。
仕事は事務職だけど、休日はアート巡りもするし、赤提灯で飲むのも好き。
家庭的な一面もありつつ、自由でロックな一面もある。
そんな「深みのある私」を、二人の男を使って演出している。
一人目は、Aくん。
マッチングアプリで出会った、メーカー勤務の同い年。
彼は私の「家庭的で堅実な一面」を映す鏡だ。
彼とのLINEは、いつも丁寧語交じり。
『お疲れ様です。今日は寒かったですね』
『自炊した肉じゃが、作りすぎちゃいました』
そんなメッセージを送ると、彼は必ず『すごいね』『いい奥さんになれそう』と返してくれる。
その言葉は、私の「将来への不安」を鎮めてくれる精神安定剤だ。
彼といれば、私は「ちゃんとした大人の女性」でいられる。
二人目は、Bさん。
インスタグラムで繋がった、カリスマ美容師。
彼は私の「自由でクリエイティブな一面」を映す鏡だ。
彼とのDMは、タメ口で、絵文字少なめ。
『この前の映画、色彩設計がヤバかった』
『今度個展行くんだけど、興味ある?』
そんなメッセージを送ると、彼は『センスいいじゃん』『マナちゃんわかってるね』と返してくれる。
その言葉は、私の「自尊心」を満たしてくれる栄養剤だ。
彼といれば、私は「センスのあるかっこいい女」でいられる。
私はこの二つの関係を、完璧にコントロールしているつもりだった。
二股じゃない。
「相手に合わせて、自分の引き出しを使い分けている」だけ。
多才な私には、一人の男じゃ器が小さすぎて受け止めきれないのだと、本気で信じていた。
二月十四日。
バレンタインデー。
私は今日、この「使い分け」の集大成を見せるつもりだった。
午前中。
会社のデスクで、AくんにLINEを送る。
チョコを渡す約束を取り付けるためのメッセージだ。
でも、ただ「会いたい」と言うのは能がない。
私は「堅実な女」を演じなければならない。
『Aくん、今日もし時間あったら会えませんか? 少し渡したいものがあって。でも、今は仕事が一番大事な時期だから、無理しないでくださいね』
送信。
完璧だ。
「会いたい」という要求を、「仕事への理解」というオブラートで包むことで、慎ましさを演出している。
Aくんなら、きっと感動してくれるはずだ。
午後。
ランチタイムに、BさんにDMを送る。
こっちは「自由な女」を演じなければならない。
『Bさん、今日夜空いてる? 渡したいものあるんだけど。まあ、私も今は仕事が一番楽しい時期だから、暇ならでいいけど』
送信。
これも完璧だ。
同じ内容なのに、語尾とニュアンスを変えるだけで、こんなにも印象が変わる。
「縛られたくない」という意志をチラつかせることで、Bさんの狩猟本能を刺激するのだ。
私はスマホを置いて、満足げにコーヒーを啜った。
私って、器用だなあ。
こうやって男たちを掌の上で転がしながら、私は「結婚」というゴールと、「刺激」というスパイスの両方を手に入れている。
Aくんと結婚して安定を手に入れ、Bさんとは大人の関係を続けて感性を磨く。
そんな未来予想図が、私の中では既に描かれていた。
でも。
私は気づいていなかった。
私が「使い分けている」と思っているその言葉たちが、実はただの「テンプレート」に過ぎないということに。
そして、そのテンプレートは、使い回しが効く便利な道具のようでいて、実は「私」という人間の空っぽさを証明する、最も残酷な証拠品であるということに。
スマホが震えた。
Aくんからだ。
『ありがとう。その言葉、すごく嬉しいよ。夜、会いに行くね』
ほら、釣れた。
私は画面を見てほくそ笑む。
簡単なもんだ。
男なんて、自分にとって都合のいい言葉を投げてやれば、面白いように食いついてくる。
私は自分が「選ぶ側」の人間だと信じて疑わなかった。
今夜、この傲慢さが粉々に砕け散るとは知らずに。
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