【完結】執愛の白虎は光を求め賜う~孤独な私を救ったのは、美しく歪んだ愛玩でした~

たるとタタン

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7・白虎との穏やかな時間

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その日の夜、環は自室で一人、ぼんやりと所有の証を見つめていた。

昨日、悠人が唇を押し当てた場所が、まだ微かに熱を持っている気がする。

誰にも見せてはいけない、彼に付けられた「証」のようだ。

(本当に、私は、あの方のものに……)

心が恐怖と甘美な陶酔の間で揺れる。

その証を隠すように着物の袖を整え、環は引き寄せられるように、そっと部屋の障子を開けて縁側に出た。

月明かりの下、やはり彼は待っていた。

まるで環がここに来ることが分かっていたかのように、静かな笑みを浮かべて。

「環」

彼が私の名を呼んだ。

「婚約できて、本当に良かった」

「……はい、私も嬉しいです」

環が俯きがちに答えると、悠人はそっと近づき、冷えた環の肩をその腕で抱き寄せた。

彼の体温が、じわりと着物越しに伝わってくる。

「でも……少し、怖いです。いろんなことがこれから変わるかと思うと」

「そんなの気にしないで。怖いことなんて、全部僕が追い払ってやる」

悠人は、環の髪を優しく撫でながら、耳元で囁いた。

「これからは、何も心配しなくていい。僕だけを見て、僕だけを信じていればいい。君を傷つけるものは、もうこの世に存在しないのだから」

「悠人さま……」

彼の腕の中で、自分の心臓が激しく脈打つのを感じた。

この熱に、この声に、自分はもう逆らえないのだと思った。

それから婚約者として、悠人は堂々と屋敷を訪れるようになった。

それは環にとって、息苦しい檻の中での、唯一の密やかな逢瀬だった。

ある日の昼下がり、二人きりの茶室。

環が少し緊張しながら茶を点てていると、差し出した茶筅(ちゃせん)ごと、ふっと悠人が環の手を握った。

「あっ……」

「……環が、すっかり僕のものになったな。本当、可愛い」

彼が楽しそうに目を細める。

「結婚してませんから、まだ貴方のものではございませんわ」

「つれないね。僕は君の全部がほしいのに」

悠人の指が、環の指に一本ずつ絡みついてくる。

その執拗な感触に、環は顔を赤らめるしかできない。

逆らおうとする気持ちは、彼の熱に触れるたびに、甘く溶かされていく。

「悠人様……わたくしは、ずっと、誰にも分かってもらえないまま生きてきた気がします。
 この家では、私はいつまでも『庶子』でしかなかったから」

ぽつりとこぼれた本音。

「だけど……あなたがこうして触れてくれるだけで、私の全部が、あの苦しかった過去さえも、赦される気がするのです」

悠人は何も言わず、環の髪にゆっくりと指を差し入れた。

「環……君の孤独も苦しみも、全部僕が知ってる。僕が、君を誰よりも欲しかったから、ずっと見ていた」

「……え?」

「君はもう、孤独じゃない。僕のものとして生きてくれたら、何も怖くない」

その言葉に、環は初めて心の底から安堵したような、柔らかな笑みを浮かべた。

「……悠人様しか、いないんです」

彼の着物の袖を、震える指で掴む。

「あなたがいなければ、あなたに触れてもらえなければ、私はもう……生きていけません」

それは、環からの初めての告白だった。

悠人は、その言葉を待っていたとばかりに、環の身体を強く抱きしめた。

「……それでいい」

彼の声が、恍惚に震えている。

「君が僕に依存してくれるほど、僕は君を支配したくなる。君の息遣い一つ、心の揺らぎ一つ、僕以外の誰にも渡したくない。……これが、僕らの愛だ」

「……はい」

環は、彼の胸に顔を埋め、微かに涙を流した。

それはもう、悲しみの涙ではなかった。

時折、二人は人目を避けて、誰もいない書庫や、荒れたままの裏庭の片隅に身を寄せ合った。

誰にも気付かれない、小さな陶酔のひととき。

「ん……」

壁に押し付けられ、悠人の唇が環のそれを塞ぐ。

「環……君の全部が、僕だけのものだ」

「……はい」

「他の誰にも、指一本触れさせない」

唇が離れ、彼のそれが首筋を這う。

ちくりと甘い痛みが走り、肌にまた一つ、赤い証が増えていく。

この痛みだけが、この熱だけが、環にとっては「生きている」実感となった。

そして悠人にとっては、彼女を「手に入れた」という確かな確信となる。

「……もうどこにも、行きません」

環は、彼の背中に腕を回し、しがみつく。

「ずっと、悠人様のそばにいます。私は、あなたのものですから……」
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