【完結】迷惑だけど、離れたくない。~傲慢なエゴイストはグイグイくる君に焦がれる~

たるとタタン

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5話 懇願

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玲は、まるで何かに憑かれたように事務所に戻った。

桐谷が何かを話しかけてきたが、それも耳に入らない。

彼はまっすぐに隣のアパートが見える窓辺へ行くと、ただひたすらに、陽が帰ってくるのを待ち続けた。

陽は自分のものだ。誰にも渡さない。

その独善的な思いだけが、彼の頭の中をぐるぐると回り続けていた。

数時間が経ち、陽がアパートに帰ってきた。

玲はすぐさま事務所を飛び出し、彼の部屋のドアを叩こうとした。

しかし、その寸前で、彼の足は縫い付けられたように動かなくなった。

何を言えばいい?

今更、どんな顔をして彼に会えばいい?

プライドが、彼の行動を阻んだ。

傲慢な王は、頭の下げ方を知らなかった。

その日から、玲のストーカーのような日々が始まった。

仕事も手につかず、一日中、陽の動向を窓から窺っている。

陽がアルバイトに行く時間、帰ってくる時間。

ゴミを出しに出てくるわずかな時間。

その姿を見るだけで、わずかに安堵し、彼が誰かと話していれば、黒い嫉妬に駆られた。

そんなある日、玲は信じられない光景を目撃する。

陽のアパートの前に、小さな引っ越し業者のトラックが停まったのだ。

そして、部屋から運び出されてくる段ボール箱。その作業を、陽が静かに見守っていた。

引っ越すのか?どこへ?なぜ?

玲の頭が、真っ白になった。

陽が、この場所からいなくなる。

自分の手の届かない、遠いどこかへ行ってしまう。

その事実が、ハンマーで殴られたかのような衝撃となって、彼の全身を貫いた。

ダメだ。許さない。絶対に行かせるものか。

プライドも、体面も、何もかもが吹き飛んだ。

玲は、事務所を飛び出した。

階段を二段飛ばしで駆け下り、アパートの前で荷物をトラックに運び込もうとしている陽のもとへ、一直線に走った。

「陽!」

玲が、彼の名を叫ぶ。

自分のものとは思えないほど、切羽詰まった声だった。

陽は驚いて振り返り、玲の姿を認めると、怯えたように後ずさった。

「……一ノ瀬、さん……。どうして……」

「どこへ行く気だ」

玲は、ぜいぜいと肩で息をしながら、陽の腕を強く掴んだ。

その力は、彼の焦りを物語るように、異常なほど強かった。

「……っ、離してください」

「答えろ。どこへ行くんだ」

「……あなたには、関係ないでしょう」

陽は、玲の視線から逃れるように、顔を伏せた。

その声は、感情を押し殺したように平坦だった。

「関係なくない! お前は……お前は、ここにいろ!」

「……迷惑、なんでしょう?」

陽が呟いた言葉が、ナイフのように玲の胸に突き刺さる。

それは、自分が彼に投げつけた言葉だった。

「俺がいると、あなたの調子が狂うんでしょう。あなたの人生の、ノイズなんでしょう?」

皮肉な響きを帯びた陽の言葉に、玲はぐっと息を詰まらせた。

掴んだ腕に、さらに力がこもる。

「……そうだ。迷惑だ」

絞り出した声は、震えていた。

「お前がいると、調子が狂う。仕事に集中できない。静かな方がいい。……そう、思ってた」

「……」

「だが、それは俺が間違っていた」

玲は、必死に言葉を続けた。生まれて初めて、誰かに懇願するように。

「お前がいないと、息もできない。何も考えられない。ただ、時間が過ぎるのを待つだけの人形になる。……だから」

玲は、掴んだ腕をさらに強く引き寄せ、陽の顔を覗き込んだ。

その瞳には、今まで誰にも見せたことのない、必死の色が浮かんでいた。

「行くな。どこにも行くな」
 
「……」
 
「俺のそばにいろ」

玲は、最後にこう付け加えた。

それは、彼の精一杯の虚勢であり、不器用すぎる愛の告白だった。

「……これは、命令だ」

それでも心は捨てないでくれという懇願に溢れていた。
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