【完結】迷惑だけど、離れたくない。~傲慢なエゴイストはグイグイくる君に焦がれる~

たるとタタン

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6話 安堵

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陽は、玲の腕を振りほどこうとしてもできなかった。
 
その手は冷たく、けれど必死に何かを掴もうとする熱を帯びていた。

「……玲さん、離してください。俺、もう疲れたんです」

「嫌だ。離さない。逃げるだろう」

玲の声は掠れていた。  

いつもは凍てつくように冷たいその声に、焦燥と恐怖が入り混じっている。

「陽、俺は……ずっと間違ってた。お前の優しさを、鬱陶しいとか、うるさいとか、そう思ってた。だけどそれじゃなかった。お前がいないと、俺は、壊れる」

陽は目を見開いた。 

玲の表情は、初めて見るほど切実だった。

プライドも理性も脱ぎ捨てて、ただ陽がいなくなる事に怯える一人の人間の顔になっていた。

「俺は完璧な人間だと思ってた。誰にも頼らず、自分の力で全部できると思ってた。でも違った。ずっとお前に、支えられてた」

「……何を……今さら……」

陽の瞳に、涙が滲む。

「俺をあれだけ傷つけて、今になって、都合よくそんなことを言うんですか?」

「申し訳ない……とは思ってる。だけど、それでも、俺は……お前が側にいないのは、耐えられないんだ」

玲は、胸の奥から絞り出すように言った。

「お前が俺に笑いかけてくれないと、俺の世界は止まる。お前がどこかで別の誰かに笑いかけるなんて、考えるだけで息ができない」

その声に、陽は心を揺さぶられた。

彼がこんな必死な声を出すのを聞くのは、初めてだった。
「……俺、玲さんのこと、ずっと好きでした」

陽が、静かに呟いた。

「でも、それを迷惑だって言われた時、全部終わったと思った。いくら想っても、俺の気持ちは玲さんを苦しめるだけなんだって……俺、男だし」

玲は陽の肩を掴んだ。

「違う。苦しめてたのは、俺の方だ。お前を遠ざけながら、心のどこかで『まだ来い』って思ってた。勝手に、お前の愛情に甘えてた。お前が離れないって信じてた。俺は……卑怯者だ」

陽の頬を涙が伝う。

玲がそっと手を伸ばして、その涙を指先で拭った。

「……汚いので、触らないでくださいよ」

「もうとっくに俺は汚れてるんだ、お前が俺を変えたんだ」

玲は苦笑のように呟き、陽の額にそっとキスを落とした。

びくりと体を震わせた陽は、抵抗しようとしたが、その動きはあまりに弱かった。

「お前が俺から離れていくのは許せない。俺はお前の心も欲しいんだ。……本当ならお前を問答無用で閉じ込めておきたいくらいだ」

「そんなの、独りよがりですよ」 

「分かってる。だが、それが俺だ。俺は、お前とずっと一緒にいたいだけだ」

玲の手が、陽の頬から後頭部へと滑り、二人の距離はゆっくりと縮まった。    

「……本当、わがままですね」

陽は小さく笑い、涙を拭う。

「でも玲さんらしい」 

そして、微笑むその表情は、どんな言葉よりも温かかった。

玲はようやく、心の底から息をした。
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