【完結】異世界に行ったらイケメン騎士たちの愛玩人形にされました。~四人の騎士は砦の女王に溺れる~

たるとタタン

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束の間

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セスを足元に跪かせた夜が明けた。

翌朝、ゆきが目を覚ました時、感じたのは昨夜までの気怠さや罪悪感ではなかった。

どう考えても悲観する状況なのにゆきは、不思議な全能感に包まれていた。

鏡に映る自分の顔は、昨日までとはどこか違って見えた。

怯えや戸惑いの色は消え、瞳の奥には、自覚したばかりの性(さが)が、静かな光を宿している。

身支度を整えていると、部屋の扉が控えめにノックされる。

「ご主人様。朝食の準備が整いました」

セスの声だ。ゆきが「入りなさい」と命じると、彼は盆を手に静かに入室し、ゆきの前に跪いた。その動作には一分の隙もない。

「今日は、食堂には行きたくないからここで食べるわね」

「……わかりました」

セスは無言でテーブルに食事を並べ始める。その背中を見つめながら、ゆきはふと思った。

(この男は、もう私のもの。私が何を命じても、喜んで従う)

その事実が、蜜のように甘く、ゆきの心を溶かした。

「セス」

「はいっ」

「食事が終わったら、カイに伝えておいて。『今夜は、貴方の部屋に参ります』と」

「……! か、カイ団長に、ですか……?」

セスの声に、かすかな動揺と嫉妬の色が混じる。ゆきはそれを面白く思い、わざと優しく微笑んでみせた。

「ええ。団長は、私が他の男にうつつを抜かしていると、お怒りのようだから。安心させて差し上げないと」

他の男に暗に抱かれろと言ったのはこの男なのにね。

「…………御意」

セスは感情を押し殺し、深く頭を垂れた。その反応が、ゆきにはたまらなく愛おしい。

自分の一言で、この男の心はかき乱される。

自分の一つの行動が、この砦の王であるカイさえも動かす。

この世界は、なんて面白いのだろう。

朝食を終えたゆきは、セスを伴って中庭を散歩することにした。

マルセルが手入れしている花園は今日も美しく、その中央では、キースが若い団員に剣の稽古をつけていた。

「やあ、ゆきちゃん! おはよう!」

ゆきに気づいたキースが、太陽のような笑顔で手を振ってくる。

しかし、ゆきが隣に無表情のセスを従えているのを見ると、その笑顔が一瞬だけ、すっと消えた。

「……セスの奴、ちゃんと従者の仕事してるみたいだね」

「ええ。とても優秀な私の下僕よ」

ゆきが、あえて挑発的な言葉を選ぶと、キースの目が面白そうに細められた。

「へえ……。カイ団長に言いつけられた時は、あんなに嫌そうな顔してたのにな。ゆきちゃん、一体どんな魔法を使ったの?」

彼は汗を拭うふりをしながら、ゆきにぐっと顔を近づけた。

そして、他の誰にも聞こえない声で囁く。

「……一晩で、随分と余裕そうな顔つきになったじゃないか?まるで女王様だ」

「……何のことかしら」

「とぼけないでよ。その目、すごくそそられる。……俺にも、命令してほしいな。あの無愛想な犬っころみたいにさ」

キースの指が、ゆきの腰に回される。そして、花壇の影にぐいと引き寄せられた。

「昨日の俺との約束、忘れたわけじゃないよね? 『また呼んでくれる』って」

「……忘れてないわよ」

「だったら、今夜はどう? ……あの犬ころを飼いならしたみたいに、俺のことも手懐けてくれる?」

彼はゆきの耳朶を甘く食み、挑戦的な視線を向ける。

以前のゆきなら、この強引さにただ流されるしかなかっただろう。

だが、今のゆきは違う。

ゆきは、彼の胸を人差し指でそっと押し返した。

「あなたは、犬には向かないわよキース。……あなたは、どっちかというと獲物を狩る狼でしょう?」

「……!」

「狼は、手懐けるより、罠にかける方が面白いのよ」

ゆきはそう囁くと、彼の腕からするりと抜け出し、悪戯っぽく微笑んでみせた。

キースは一瞬呆気にとられた後、声を上げて笑い出した。

「ははっ、最高だ! ああ、たまらない! ゆきちゃん、君は本当に最高だよ!」

彼はもはや、その独占欲と征服欲を隠そうともしない。

「必ず、君を俺だけのものにしてみせるから。カイ団長からも、あの犬からも、あのオカマ野郎からも、全員から奪って、君が俺しか見えなくなるまで愛してやる」

そう宣言すると、彼は踵を返し、稽古へと戻っていった。

その日の夜。

ゆきは、マルセルが仕立てた、黒いレースをふんだんに使った艶やかなドレスを身に纏い、カイの部屋を訪れた。

セスから報告を受けたカイは、上機嫌でゆきを待っていた。

「……ほう。自分から俺の寝床に来るとは、殊勝な心がけだな」

カイはゆきの身体を抱き寄せると、まるで所有物を確認するように、その肌の匂いを嗅ぎ、首筋に歯を立てた。

「少し見ない間に、随分と小生意気な顔つきになったようだな。他の男に色目を使った罰は、その身体で償ってもらわねば」

彼はゆきをベッドに乱暴に押し倒す。

しかし、ゆきはもう、ただ怯えるだけの少女ではなかった。

「貴方が俺だけのものじゃないと言ったんじゃない」

悔しそうな顔をしながら、見下ろしてくるカイの瞳を、まっすぐに見つめ返す。

そして、自らその逞しい首に腕を回し、囁いた。

「罰でも、ご褒美でも……。貴方がくださるものなら、なんだって、喜んでいただきますわ。……団長さん」

その言葉と、挑発的な眼差しに、砦の絶対支配者であるカイの理性が、音を立てて焼き切れた。

「……面白い。その余裕が、いつまで続くか……試してやる」

獰猛な獣が、再びその牙を剥く。

だが、その牙はもはや、ただ少女を傷つけるためだけのものではないとわかった。

自らの意思で男たちを翻弄し始めた人形を、屈服させ、独占するために己を刻み込もうとする愛の牙だった。

ゆきは、激しい愛の嵐に身を任せながら、確かな手応えを感じていた。

この砦の四人の男たち。

支配者のカイ。

狡猾なキース。

耽美のマルセル。

忠実なセス。

彼らの心を、欲望を、すべて自分の手の中に収める日は、もう遠くないことを悟っていた。

しかしそんな乱れてはいるが平和な日々は長くは続かなかった。

この時から数日後。

砦の日常を切り裂くように、見張り台の鐘がけたたましく鳴り響いた。

それは、魔物の襲来を告げる、戦いの始まりの合図だった。

ゆきが築き始めた甘美な王国に、初めて血と獣の匂いが混じろうとしていた。
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