【完結】異世界に行ったらイケメン騎士たちの愛玩人形にされました。~四人の騎士は砦の女王に溺れる~

たるとタタン

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女王

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カイの拳がキースを打ちのめし、砦のNo.2が反逆者として引きずられていく。

その光景を、医務室にいた誰もが、息を殺して見つめていた。

団員たちの間に走る動揺。副団長への不信感、そして、この非常時に内輪揉めを起こした指導者たちへの失望。

それは、外敵の刃よりも遥かに鋭く、自警団の結束という心臓を蝕んでいた。

重苦しい沈黙が、医務室を支配する。

カイは苦々しく顔を歪め、壁を強く殴りつけた。ゴッという鈍い音と共に、彼の拳から血が流れる。

「……すまない。見苦しいところを見せた」

彼はそれだけ言うと、再び戦場へと戻ろうとする。その背中は、先ほどまでの絶対的な王の威厳はなく、傷つき、疲弊した一人の男のものに見えた。

ゆきの胸が、罪悪感で押し潰されそうになる。

私のせいだ。私がここにいなければ、こんなことにはならなかった。

カイとキースが対立することも、団員たちが動揺することもなかった。

「……ご主人様」

その時、ゆきの傍らに跪いていたセスが、低い声で囁いた。

「ご自分を責めてはなりません。悪いのは、太陽に手を伸ばし、その身を焼かれた愚か者です」

「でも……!」

「あなたは、我らの光なのです。光があるからこそ、影もまた濃くなる。それだけのことでございます」

その言葉は、盲目的な忠誠心から来るものだったかもしれない。

だが、それは打ちのめされたゆきの心を、確かに支えた。

入れ替わるように、肩に傷を負ったマルセルが、ゆきのもとへやってきた。その顔には、疲労の色が濃い。

「……マルセルさん」

「ユキ……。辛い顔をしているね」

彼は、周囲に他の男たちがいるにもかかわらず、ためらうことなくゆきの頬に触れた。その指先は冷たい。

「カイもキースも、馬鹿な男だよ。君という至上の美を前にして、我を忘れてしまったんだ。……でもね、ユキ。君はもう、ただ愛でられるだけのお人形じゃないだろう?」

彼の瞳が、問うている。

お前はどうするのだ、と。

カイに支配され、キースに堕とされ、マルセルに倒錯的な愛を教えられ、セスを足元に跪かせた。

それは、ただ流されていただけではなかったはずだ。

その一つ一つの行為が、ゆきの中に性を見いだし、育てていた。

ゆきは、唇を強く噛みしめた。

そして、顔を上げる。その瞳には、もう涙も怯えもなかった。

「セス」

「はい」

「私を、カイのところへ連れて行って」

セスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに深く頷き、ゆきの前に道を開けた。

作戦室で、カイは一人、地図を睨みつけていた。その表情は険しく、焦りの色が浮かんでいる。

魔物との戦況は、芳しくない。

キースの離反による混乱が、指揮系統に致命的な綻びを生んでいた。

「……何をしに来た。ここは女子供の来るところではない」

ゆきの気配に気づいたカイは、顔も上げずに言った。

「分かっています」

ゆきは、彼の背後に回り込むと、その広い背中に、そっと手を触れた。カイの身体が、かすかに震える。

「……私を、使ってください」

その言葉に、カイは弾かれたように振り返った。その目は、ゆきの真意を測りかねて、鋭く光っている。

「……どういう意味だ」

「言葉通りの意味ですわ。今の貴方たちに必要なのは、兵力でも、作戦でもない。……心を、一つにすることでしょう?」

ゆきは、一歩も引かずに、カイの視線を受け止めた。

「私は、貴方だけの女ではない。キースのものでも、マルセルのものでも、セスのものですらない。……私は、この砦で戦う、すべての男たちのものです」

「……!」

「ならば、その旗印として、私を使いなさい。私という存在を、貴方たちの勝利のために捧げさせてください」

それは、愛玩人形からの、完全な決別宣言だった。

性的な奉仕ではなく、精神的な支柱として、自らを捧げるという覚悟。

カイは、目の前の少女が、たった数日で、恐ろしいほどの変貌を遂げたことに戦慄した。

彼女はもはや、無力な異邦人ではない。男の心を支配する術を知る、魔性の女王だ。

彼は、しばしの沈黙の後、フッと、乾いた笑みを漏らした。

「……面白い。面白い女だな、お前は」

彼はゆきの腰を抱き寄せ、その唇に深く、しかし乱暴ではない、誓いの口づけを落とした。

「いいだろう。お前のその覚悟、買った。……だが、後悔するなよ。お前はもう、誰か一人の女として生きる道は、永遠に失われることになる」

「望むところよ。それに最初からその選択肢はなかったでしょう……」

ゆきが不敵に微笑むと、カイは彼女の手を取り、作戦室の外へと向かった。

城壁の上。

一時的に戦闘が止み、休息を取っていた団員たちが、カイと共に現れたゆきの姿に、どよめいた。

ゆきは、マルセルに作らせた、純白のドレスを身に纏っている。

それは、戦場にはあまりに不似合いで、しかし、だからこそ神々しいまでに際立っていた。

カイは、集まった全ての団員たちに向かって、高らかに声を張り上げた。

「聞け! 貴様ら! 俺たちの結束は、一人の裏切り者のために揺らいでいる! だが、俺たちは今日、新たな旗を、新たな女神を得た!」

カイが手を差し伸べると、ゆきは一歩前へと進み出た。
風が、彼女の黒髪と、純白のドレスを大きく揺らす。

その姿は、まるで戦場に舞い降りた女神のようだった。

ゆきは、眼下にいる全ての男たちの顔を見渡した。そして、凛とした、澄んだ声で語りかける。

「私は、ユキ。あなたたちと同じ、帰る場所を失った、ただの異邦人です」

静まり返る、城壁。

「私は無力で、あなたたちのように剣を振るうことも、砦を守ることもできません。……でも、あなたたちが傷つき、血を流し、死んでいくのを見るのは、もう耐えられない」

「……」

「だから、誓います。私は、あなたたち全員の女(もの)になります。この身体も、この心も、誰か一人にではなく、この砦で戦うすべての男たちに捧げましょう」

その言葉に、男たちが息を呑む。

「だから、あなたたちも誓いなさい! 生きて帰ってくると! そして、その腕で、私を奪い合うのだと!」

ゆきは、両腕を広げた。

「さあ、見せて! あなたたちの力を! あなたたちの欲望を! 私というたった一人の女のために、この戦いに勝利を捧げてごらんなさい! それが、あなたたちが、私を愛する唯一の方法です!!」

それは、聖女の祈りであり、魔女の扇動だった。

その言葉は、男たちの心に突き刺さった絶望という名の楔を引き抜き、代わりに、むき出しの欲望と、闘争本能という名の炎を燃え上がらせた。

「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」

地鳴りのような雄叫びが、砦を揺るがす。

キースへの不信も、戦況への不安も、すべてが吹き飛んでいた。

彼らの瞳に宿るのは、ただ一つ。

目の前の女神を、自分たちの手で守り抜き、そして、その褒美を勝ち取るのだという、純粋で、獰猛な闘志。

カイは、その光景を満足げに見つめると、剣を抜き放ち、天に掲げた。

「女神に続け! 敵の首を、我らの女王への供物とせよ! 総員、かかれぇっ!!」

再び鳴り響く、反撃の号砲。

今度は、絶望の音ではない。勝利を確信した、歓喜の音だった。

男たちは、我先にと、城門から飛び出していく。その背中には、先ほどまでの迷いなど微塵もなかった。

城壁の上に一人立つゆきは、自分のために戦い、そして死んでいくであろう男たちの姿を、静かに見つめていた。

もう、後戻りはできない。

愛玩人形は、死んだ。

そして今、この血と欲望に塗れた玉座に、一人の女王が、誕生した。

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