3 / 15
3 幼馴染
しおりを挟む結婚後、まだそれほど日が経たぬうちに、セレナは夫ルーベンから一人の女性を紹介された。
「彼女は私の幼馴染で一つ年下なんだ。屋敷が近いから子供の頃から今に至るまでずっと、しょっちゅう我が家に出入りしていてね。私にとっては妹みたいなものだ。セレナも仲良くしてやってくれ」
「クラーラ」という名のその女性は近くに住む伯爵家の令嬢だそうだが、ルーベンの一つ下ということは……24歳? 20歳のセレナより4つも年上である。セレナは単純に疑問を持った。伯爵家令嬢が24歳にもなって結婚もせずに、幼馴染とは言え親族でもない男性の屋敷に気軽に出入りするなど、常識的に考えてあり得ない。どういうことなのだろう? と。しかしルーベンもクラーラという女性も、セレナの訝し気な様子に気付かないようであった。その日は三人でアルファーロ侯爵家の庭でお茶を飲み、当たり障りのない話をした。
セレナの疑問に答えてくれたのは執事のセバスティアンだった。腑に落ちない納得できない表情をしているセレナに、セバスティアンはその日クラーラの帰宅後、ルーベンの居ない所でこう説明してくれた。
「一人っ子の旦那様は、一つ違いのクラーラ様を幼い頃から実の妹のように可愛がっていらっしゃいまして。あちらの伯爵家は、クラーラ様の10歳上の兄君が既に家督を継いでいらっしゃるのですが、クラーラ様はその……」
そこまで話してセバスティアンが言いよどむ。セレナは率直に尋ねた。
「クラーラさんはどうして結婚しないの? もう24歳なのでしょう?」
「クラーラ様は子供の頃から持病がおありなのです。その為『出産に耐えられない』と医者から申し渡されていらっしゃいます」
セバスティアンの返答にセレナは頷いた。ああ、なるほど。貴族は血を重んじる。最初から子を産めないと分かっている令嬢を娶る貴族男性は、まずいない。下位貴族ならともかく、伯爵家令嬢が嫁ぐ先となれば、それなりの爵位の貴族となる。結婚は難しいだろう……
セレナは同じ女性として気の毒な事だとは思ったが、何せその日初めて会った相手である。クラーラのそのような事情よりも、ルーベンへの馴れ馴れしい態度の方が余程気になった。いくらルーベンが「妹みたいな幼馴染」と言っても、実際にはクラーラは妹どころか親族ですらない他人なのだ。子供時代はともかくも、妙齢になった貴族令嬢が他家の屋敷に気軽に出入りしている事に、セレナは拭い難い違和感を覚えた。
クラーラは、呆れるほど頻繁にアルファーロ侯爵家の屋敷を訪れる。クラーラも、セレナが嫁いできて暫くの間は一応気を遣ったのか、来ればセレナに挨拶をしていた。しかし、それも結婚当初のほんの2ヵ月程のことで、やがてセレナに一言の断りもなくルーベンの執務室に直行し、彼の仕事の手を止めさせて二人で過ごすようになった。その上、クラーラはまるで自分が女主人であるかのように振る舞い、侯爵家の使用人に対して勝手気ままに命令までするのだ。これは一体どういうことなのか? セレナは訳が分からなかった。使用人達も明らかにクラーラに不満を持っている様子だ。セレナに「クラーラ様の自分勝手な命令に従いたくありません」と訴えて来た者も複数いる。セレナは自分を引き受けてくれたルーベンに楯突くような事はあまりしたくなかったが、使用人達のことを思えば、そうも言っていられない。
「ルーベン様、お話があります」
セレナは勇気を出して、ルーベンに意見した。言葉を尽くしたつもりだ。にもかかわらず、セレナの懸念は全くと言っていいほどルーベンに伝わらなかった。
「クラーラは私の妹同然なのだから、この屋敷で自由に過ごしても別に構わないだろう? 使用人にやたらと命令したがるのも子供の我が儘のようなもので、クラーラに悪気はないんだ。彼女は持病の所為で家族に甘やかされて育ったから我が儘なんだよ。仕方ないだろう?」
何が「仕方ないだろう?」なのか、セレナにはさっぱり分からない。どこかズレたルーベンの返答に、セレナは脱力した。これでは”話し合い”にすらなっていない……
489
あなたにおすすめの小説
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる