すみません! 人違いでした!

緑谷めい

文字の大きさ
2 / 18

2 誰の所為だ?!

しおりを挟む


 自邸に戻った俺は、ぐったりと居間のソファーに横たわっていた。
 行儀が悪いが許して欲しい。疲れた……主に精神的に。
 そこへ弟が現れた。

「兄上。どうでした? オリーヴ嬢とは話が弾みましたか?」

 能天気に俺に声をかけてくる弟のロイク。くそっ、コイツの所為で!



 ◇◆◇◆◇◆



 ――1ヶ月前――


 久しぶりに夜会に出た俺は、華やかな美人を見つけた。
 情熱的な赤い髪、キラキラ輝く金色の瞳、大輪の薔薇のような笑顔――ドンピシャ、俺の好みのタイプだ。
 猛禽類のようなギラギラした女達に囲まれることに嫌気が差して、長らく夜会に出席していなかったが、今日は来て良かった!

 俺は一緒にいた弟ロイクに尋ねた。
「おい、ロイク。あの綺麗な令嬢は誰だか知ってるか?」
「えっ?」
 ロイクは俺の視線の先を辿ると、
「ああ。あそこでスイーツを食べてる女性たちなら、ベルモン伯爵家の姉妹ですよ。18歳と17歳だっけな。1つ違いで仲の良い姉妹だそうですよ。二人とも私の婚約者のクラリスと親しいんです」
「そうなのか? あの綺麗な方の令嬢は姉か? それとも妹か?」
 俺の問いに、ロイクは何の躊躇もなく言い切った。

「綺麗な方が姉のオリーヴ嬢ですよ。そうじゃない方が妹です」

「そうか。ベルモン伯爵家のオリーヴ嬢だな? 間違いないな?」
「はい。間違いありません。クラリスの親しい友人ですから、間違えようがありませんよ」

 好みのタイプの女性を見つけて、俺は浮かれていたのだと思う。
 この時、完全に失念していたのだ。弟ロイクの偏った美意識のことを――



 ◇◆◇◆◇◆



 簡単に言えば、ロイクは極度の ”地味顔好き” だった。いわゆる ”ジミ専” というやつだ。
 半年前、ロイクがとあるパーティで一目惚れした(兄弟揃って一目惚れ体質!?)令嬢は、おそろしく地味な女性だった。正直に言うと、もはや ”地味” を通り越して ”貧相” という印象すら受けた――さすがに口には出さなかったが。ロイクはこの令嬢に心底惚れ込み、彼女へ猛アタックをした。そうして、めでたくロイクの婚約者となったのが、アルノー伯爵家のクラリス嬢である。ロイクの目には、何故だかこの地味な令嬢が大変な美人に見えるらしい。
 ロイクが、
「兄上。いくらクラリスが綺麗だからと言って、彼女に手を出さないでくださいよ」
 と、俺に本気まじの牽制をしてきた時は本当に驚いた。
「そんな事をする訳がないだろう(んな地味女にキョーミねぇよ!)」
 そもそも弟の婚約者に手を出すような男だと思われてるのか? 俺は。
 弟よ。お兄ちゃんは悲しいぞ。

 つまりだ。ロイクは嘘をついた訳ではない。俺の尋ね方が間違っていたのだ。
 「綺麗な方の令嬢は姉か? 妹か?」と、いう俺の問いに、ロイクは己の感性に従い正直に「綺麗な方が姉のオリーヴ嬢で、そうじゃない方が妹です」と、答えたに過ぎない。ロイクから見れば「綺麗」なのは確かに黒髪黒眼の地味なオリーヴ嬢であり、華やかな色彩の(一般的な感性で言うところの)美人である妹のコラリー嬢は「そうじゃない」方なのだ。
 ロイクの所為ではない。俺の雑な確認の仕方がいけなかったのだ。全て俺が悪い。

 はぁ~、どうするべ~よ?

 謝罪して婚約を撤回するチャンスは、初めてベルモン伯爵家を訪れた今日しかなかった、と思う。
 なのに俺は言い出せなかった。
 「本当に私でよろしいのでしょうか?」と、不安そうな目で俺を見つめたオリーヴ嬢に、とてもじゃないが「よろしくない! 私が一目惚れしたのは妹だ!」なんて言える訳ないだろう。
 俺は鬼でも悪魔でもない。人間ひとの心を持っている。何の落ち度も無いオリーヴ嬢を傷付けることなど出来ない。落ち度があったのは俺なのだ。

 だが、このままオリーヴ嬢と婚約関係を続ければ、いずれ彼女と結婚することになる。
 結婚だぞ! 結婚!! 一生、連れ添うんだぞ!?
 どうすればいいんだ!?

 俺が一人で身悶えしていると、ロイクが冷たい声で言った。
「兄上、欲求不満ですか? あまりガツガツするとオリーヴ嬢に嫌われますよ」

 ちげぇ~よ!!





 

 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!

屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。 どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。 そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。 そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。 望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。 心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが! ※あらすじは時々書き直します!

【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

団長様、再婚しましょう!~お転婆聖女の無茶苦茶な求婚~

甘寧
恋愛
主人公であるシャルルは、聖女らしからぬ言動を取っては側仕えを困らせていた。 そんなシャルルも、年頃の女性らしく好意を寄せる男性がいる。それが、冷酷無情で他人を寄せ付けない威圧感のある騎士団長のレオナード。 「大人の余裕が素敵」 彼にそんな事を言うのはシャルルだけ。 実は、そんな彼にはリオネルと言う一人息子がいる。だが、彼に妻がいた事を知る者も子供がいたと知る者もいなかった。そんな出生不明のリオネルだが、レオナードの事を父と尊敬し、彼に近付く令嬢は片っ端から潰していくほどのファザコンに育っていた。 ある日、街で攫われそうになったリオネルをシャルルが助けると、リオネルのシャルルを見る目が変わっていき、レオナードとの距離も縮まり始めた。 そんな折、リオネルの母だと言う者が現れ、波乱の予感が……

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

あなたより年上ですが、愛してくれますか?

Ruhuna
恋愛
シャーロット・ロックフェラーは今年25歳を迎える 5年前から7歳年下の第3王子の教育係に任命され弟のように大事に大事に接してきた 結婚してほしい、と言われるまでは 7/23 完結予定 6/11 「第3王子の教育係は翻弄される」から題名を変更させて頂きました。 *直接的な表現はなるべく避けておりますが、男女の営みを連想させるような場面があります *誤字脱字には気をつけておりますが見逃している部分もあるかと思いますが暖かい目で見守ってください

【完結】小公爵様、死亡フラグが立っています。

曽根原ツタ
恋愛
 ロベリア・アヴリーヌは前世で日本人だった。恋愛小説『瑠璃色の妃』の世界に転生し、物語には登場しない公爵令嬢として二度目の人生を生きていた。  ロベリアには、小説のエピソードの中で気がかりな点があった。それは、主人公ナターシャの幼馴染で、尚且つ彼女に恋心を寄せる当て馬ポジションのユーリ・ローズブレイドについて。彼は、物語の途中でナターシャの双子の妹に刺殺されるという数奇な運命を迎える。その未来を知るのは──ロベリアただひとり。  お人好しの彼女は、虐げられ主人公も、殺害される当て馬も、ざまぁ予定の悪役も全員救うため、一念発起する。 「ユーリ様。あなたにはナターシャに──愛の告白をしていただきますわ!」 「…………は?」  弾丸令嬢のストーリー改変が始まる──。 ----------------- 小説家になろう様でも更新しております。 (完結保証)

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

処理中です...