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7 星空の下でダンスを
「オリーヴ、大丈夫か?」
王家の御前を下がると直ぐに、俺はオリーヴにそう声を掛けた。
「はい。少し驚いただけです」
「オリーヴはアラン殿下の気持ちに気付いていた……訳はないか?」
オリーヴは困ったように微笑んだ。
「殿下には、てっきり嫌われているのだと思っておりました。学園時代からずっと、その……酷い事を言われていたものですから」
アランのヤツ……
「可哀想に。王族にキツく当たられるなんて、さぞ辛かっただろう。けれど、これで殿下もオリーヴのことは諦めただろうから、もう好意の裏返しの暴言は無くなると思うぞ」
「はい。ルイゾン様、ありがとうございました」
「いや、私の方こそありがとう。私と『生涯添い遂げる』と言ってくれて、嬉しかったよ」
「ルイゾン様……」
はにかむ笑顔が野菊のようだと思った。派手さは無いが清らかで愛らしい。
「オリーヴは、野菊のような女性だ」
「はい?」
フロアに戻ると、俺たちは婚約の挨拶に追われることとなった。俺たちが挨拶に回ると言うよりも、とにかく多くの貴族が「ご婚約おめでとうございます」と、俺とオリーヴのもとに集まって来るのだ。
まぁ、俺は四大公爵家の一つブロンディ公爵家の長男だからな。その俺が”ついに”婚約したというのは、社交界における大ニュースなのである。
我も我もと貴族達が俺とオリーヴに群がって来て祝いを述べる。俺は「ありがとうございます」と言って、あとはテキトーに相手するだけだが、オリーヴは一人一人に実に丁寧に対応している。驚いたことに、彼女はどの貴族の名も爵位も家族構成さえも把握しているようだ。
「御長男が第一騎士団の小隊長に昇進されたとか。おめでとうございます」
「お孫さんが先日の剣技大会の12歳以下の部で優勝されたそうですね。将来が楽しみでございますね」
「嫁がれた御長女がご出産間近だと聞きましたわ。そうそう安産祈願でしたら――」
さり気なく、けれど次々と相手が喜びそうな話題を振るオリーヴ。もしかして、今日の為に情報を覚え込んで来たのか? 本当に真面目な女性なんだな……。そして、ただ真面目なだけではない。相手の立場や反応によって臨機応変に対応する様子を見ていれば分かる。オリーヴは非常に賢く洞察力に優れている。俺は思った。彼女は将来、きっと周りから尊敬される公爵夫人になるに違いない、と――
ようやく押し寄せて来る人波が途絶えると、夜会は既に終盤に差し掛かっていた。
俺はオリーヴを伴ってテラスへ出た。
「オリーヴ、お疲れ様。貴女に助けられたよ。ありがとう」
「いえ、そんな」
「いや、本当に助かった。私は割とテキトーだから、私一人だったら、あんなに多くの貴族の相手をきちんとするなんて、とてもじゃないが無理だった」
「お役に立てたのなら嬉しいです」
「本当にありがとう。オリーヴ」
そっとオリーヴの手を握る。
恥ずかしそうに俯くオリーヴ……可愛いな。
「婚約して初めての夜会だから、せめて一曲は貴女と踊りたいと思っていたのに、挨拶に追われているうちにダンスタイムが終わってしまったね」
「今夜は仕方ありませんわ。あんなに多くの方に囲まれてしまったのですもの」
「今夜は雲が無いから、星明りで踊れそうだな」
「え?」
「オリーヴ。踊ろう」
俺はオリーヴと向かい合い、彼女の細い腰を抱いた。
「何の曲がいい?」
俺が尋ねると、オリーヴは、
「では、私の好きなワルツの曲で――」
と、答えた。
他に誰もいないテラスで、オリーヴが口遊むワルツに合わせ、俺たちは踊った。
満天の星が俺とオリーヴを照らす。
「私と貴女は結婚するんだな……」
踊りながら俺は呟いた。
「ルイゾン様?」
「何だか不思議な気がして……あ、いや、私から婚約を申し込んだのに、こんな言い方は変だな」
「……いえ、分かります。ほんの2ヶ月程の間に急にお話が進みましたから。私など今も時折夢を見ているのではないかと思いますのよ」
そう言って微笑むと、オリーヴは再びワルツを口遊み始めた。
胸が痛い……
2ヶ月前の夜会で俺が一目惚れしたのはオリーヴの妹のコラリー嬢だ。人違いをして婚約を申し込んで、間違いだったと言い出せぬままトントン拍子にコトは進み、今日はとうとう国王夫妻に婚約の挨拶をしてしまった。他の多くの貴族にもだ。
もう引き返せない。何がどうあっても引き返せない。
だが――俺は考えた。今の俺は引き返したいと思っているか? 本当に? 引き返せるものなら引き返して、改めてコラリー嬢と婚約したいと、今の俺は望んでいるか?
コラリー嬢はドンピシャ俺の好みのタイプだ。それは事実だが……ならばオリーヴを手放せるか? 王太子であるアランが本気でオリーヴを側妃に望んだら? 陛下が親バカを発動してオリーヴをアランの側妃にと王命を下せば誰も抗えない。万が一そんな事態になったとして、俺はその時平静でいられるのか? ”これでコラリー嬢と結婚出来る”と、喜べるのか?
「ルイゾン様? どうされました?」
オリーヴが心配そうに俺に声を掛けた。
「……い、いや、何でもない」
俺はオリーヴの腰を抱いている腕に力を込め、彼女の身体を更に自分に引き寄せた。
今は何も考えずにオリーヴと踊りたい。
「もっと踊ろう。オリーヴ」
オリーヴの髪に顔を寄せると、微かに甘い香りがした。
「はい。ルイゾン様」
俺を見上げるオリーヴ。彼女のその黒い瞳は、俺の顔とともに背景の星空を映し、キラキラと輝いていた。どうしてこの美しい瞳を”暗くて地味だ”などと思ったのだろう?
俺だけの黒瞳にしてしまいたい――
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