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16 謝罪
しおりを挟むベルモン伯爵家ヘ向かう馬車の中で、俺はオリーヴを膝に乗せたまま抱きしめていた。
「オリーヴ、オリーヴ……」
「ルイゾン様。私の為に王宮まで来て下さって、ありがとうございました。とても嬉しゅうございました」
「オリーヴ。本当にアラン殿下に何もされなかったんだね?」
「ええ。何もありませんわ」
「本当に本当だね?」
「ルイゾン様ったら。そんなお顔をなさらないで」
俺はきっと酷く情けない顔をしているのだろう。
オリーヴはそんな俺を宥めるように、俺の頬をその柔らかい両手で包んだ。
「本当に何もありません。安心してくださいませ」
「オリーヴ……良かった」
「私もムリヤリ馬車に押し込められた時はどうなってしまうのかと、とても恐ろしゅうございました。けれど、殿下はどうしても私と二人きりで、今までの私に対する態度について謝罪をなさりたかっただけのようにございます」
「解せぬな。それならどうして、あそこまで強引にオリーヴを連れ出す必要がある? 謝罪をしたいならしたいで前もって、王宮へ何時何時参上するようにと、知らせを出せば良かっただけだろう?」
「殿下は、前もって知らせれば、ルイゾン様が私に付き添っていらっしゃるに違いないと思われたようですわ」
「当たり前だろう? オリーヴを一人で行かせたりしない。だが、俺が付き添って行ったとして、殿下に何の不都合があるんだ?」
「殿下は、私に頭を下げられたのです」
「は?」
王族が臣下に頭を下げるなど、あってはならない事だ。
「 ”謝罪” とは『あの時は悪かったな』という程度の言葉での謝罪だけではなかったということか?」
「ルイゾン様。この話はくれぐれもご内密に」
「あ、ああ。分かった」
「アラン殿下は、学園時代からの私に対する数々の意地悪や暴言について ”テーブルに手をつき、深々と頭を下げて” 謝ってくださったのです。伯爵家の娘に過ぎない私に、この国の王太子殿下がなさって良い事ではありません。殿下が突然私を王宮へ連れて来た上に、御人払いまでなさったのは、この為だったのだと、その時、理解致しました」
「人払いまでしたのか?」
「はい。そうでございます。初めは殿下の意図が分からず、二人きりにされて怖かったのですが、深く頭を下げられ、力が抜けてしまいましたわ」
「そうか……」
俺は安堵の溜め息を吐いた。
良かった。もしもオリーヴが無体な事をされて、無理矢理アランの側妃にされるような事になっていたら……
「オリーヴ。本当に心配したんだ。貴女の身に何かあったら、どうしようかと――」
俺は膝に乗せているオリーヴの顔を覗き込んで、そう言った。
「殿下は最後にこう、おっしゃいました。『本当は私が貴女を幸せにしたかったけれど、それは儘ならぬ事だ。だから、ルイゾンと幸せになってくれ』と」
アラン……何か、ごめん。
馬車がベルモン伯爵家に着くと、屋敷からコラリー嬢が飛び出して来た。
「お姉様!!」
そして、おそらく外出先から急ぎ帰宅したのであろう伯爵夫妻と、使用人達までもが次々と馬車に駆け寄って来る。
俺が先に降りてオリーヴに手を貸し、彼女を馬車から降ろした途端、コラリー嬢と伯爵夫人がオリーヴに抱きつく。伯爵は妻と娘たちの肩を抱いた。使用人達は涙を流し、その様子を見守っている――オリーヴは、本当に家族にも屋敷の者達にも愛されているんだな……
人を愛したり愛されたりすることは「習慣」だと、何かの本で読んだことがある。愛し愛される「習慣」のある人間は、また誰かを愛し愛されるのだと。
あぁ、だからかも知れない。オリーヴと結婚すれば、きっと彼女は俺やまだ見ぬ俺たちの子供を、深い愛情で包んでくれるだろうと思えるのだ。その姿が容易に目に浮かぶ。そしてまた、俺も子供もオリーヴのことをずっと愛するだろう。
この女性と共に家庭を築きたい――俺はこの時、強くそう思った。
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