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7 完璧なイケメンは好きですか?
しおりを挟む時は流れ、父が再婚してから4年が経った。
ヴィクトリアは14歳になっている。現在、王立貴族学園の2年生だ。
一つ違いの異母妹ミアも今年学園に入学した。ピカピカの1年生である。
最近のヴィクトリアは【ドアマットヒロイン】になる夢をすっかり諦めていた。
継母エイダはいまだにヴィクトリアに対して遠慮がちだし、異母妹ミアは、あのまま素直な良い子に育ってしまった……
「さようなら。憧れの【ドアマット】……」
「何だよ、それ? 君は『ドアマット』に憧れてるの?」
不意に背後から声を掛けられた。
ここは学園の中庭だ。誰もいないと思って呟いたのに、不覚!
ベンチに座っていたヴィクトリアが後ろを振り向くと、そこにいたのは同級生の男子生徒だった。
彼の名はサイラス・エマール。
この国の筆頭公爵家であるエマール家の三男だ。彼は金髪碧眼の爽やか系イケメンで、頭も良い。成績は入学以来不動の学年トップだ。尚且つ運動神経抜群でスタイルもピカイチ。まだ成長途中の14歳であるにもかかわらず、大方の成人男性よりも背が高く、とにかく足が長い。お尻の形も綺麗だ。おまけに明るい性格で、学園の人気者ときたもんだ。完璧過ぎる。ヴィクトリアが1番嫌いなタイプの男である。彼の全てが鼻につく。けっ、調子乗ってんじゃねぇぞ、ごらぁ!
「誰かと思えばサイラス様ですか」
つい、声が低くなるヴィクトリア。
「私を見てイヤそうな顔をするのは君くらいのものだよ。ヴィー」
「愛称呼びは気持ち悪いのでヤメテくださいませ」
「酷い言い草だな。泣いちゃうぞ?」
と、泣き真似をするサイラス。
鬱陶しいったらありゃしない。
「キショっ」
「声に出てるぞ、ヴィー」
「ワザとです」
「アハハ。君といると楽しいな~」
これは【おもしれ~オンナ】認定だろうか?
やめてくれ!
そういうの、ホントに要らないから!
「私に何か御用ですか?」
「私の素敵な婚約者様と親交を深めたくてね」
「はぁ……」
そうなのだ。
サイラスはヴィクトリアの婚約者なのである。
もの凄く不本意ではあるが。
「ヴィーと仲良くなりたいんだ」
自分が1番カッコよく見える角度を知り尽くしているサイラスは、ベンチに座っているヴィクトリアの右斜め25度前方に立ち、左に30度、下方に15度顔を傾け、そう言った。
ヴィクトリアも負けじと、自分が1番美しく見える角度に合わせ、ベンチから立ち上がるとサイラスの後方左32.6度に歩み寄り、距離34.7㎝を保ち、上方47.3度の上目遣いで彼を見上げる。
「ノーサンキュですわ。サイラス様」
「ハハ。つれないな」
と言いながら、頭を搔くサイラス。
父と違って髪の量が多いな、と思うヴィクトリア(サイラスはまだ14歳です!)
「……それにしても、私のヴィーは本当に美しい。その上目遣いで『死んでくれ』と言われたら、うっかり死んでしまいそうだ」
それって自殺教唆? この男は、ヴィクトリアを犯罪者にするつもりなのだろうか?
「サイラス様こそ、嫌味なほどに格好良いではありませんか。その色香で、今までに一体何人の女性をダメにしてしまわれたのかしら?」
「ヴィー。私はまだ14歳だ。女性をダメにした経験など無いよ」
「あら、私としたことが。ごめんあさーせ」
「アハハ。どうしてだろう? ヴィーに何を言われても嬉しい」
「私はサイラス様に何を言われてもイラっとしますわ」
「またまた。冗談だろう? 私の愛しいヴィー」
「オホホ。本当ですわよ(この金髪くそイケメン野郎!)」
傍から見れば、似た者同士で実にお似合いのカップルなのだが、ヴィクトリアは気付いていない。
ヴィクトリアとサイラスの婚約が調ったのは、つい1ヶ月前の事である。
エマール公爵家からバルサン伯爵家に「うちの三男坊をそちらに婿入りさせてくれないか」と打診があり、優秀な婿を探していたヴィクトリアの父が、二つ返事で承諾したのだ。
ヴィクトリア本人には何の相談も無しにである。
ヴィクトリアはカチンときたが、貴族令嬢の婚約はほぼ政略であり、各家の当主が勝手に決めるのは普通のことだ。カチンとはきたが。
それでも相手が自分の好みのタイプであれば「お父様、グッジョブですわ」と父を褒めてあげても良かったのだが、よりにもよって完璧イケメンと名高いサイラスだとは!
サイラスとの婚約を告げられた瞬間、もの凄くイヤそうな顔をしたヴィクトリアを見て、父は焦っていたっけ。
「え? え? ヴィクトリア? 嬉しくないのかい? 優秀で見目も良い、あのサイラス君が婿入りしてくれるんだよ? え? まさかのイケメン嫌い!? え~っ!? お前が嫌いなのはピーマンだけだと思っていたよぉ~ん!?」
父はヴィクトリアを一体幾つだと思っているのか?
ヴィクトリアは既に14歳になっているのだ。
ピーマンくらい(鼻を摘まめば)食べられる。
だが、完璧イケメンは、その姿を見ただけで胸やけがするのだ。
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