召喚された聖女トメ ~真名は貴方だけに~

緑谷めい

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3 君の名は

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「おお、聖女! 気がついたのか?」
 そう言って、王子っぽいイケメンがいきなり抱きついてきたから引っ叩いてやった。イケメンは一瞬、驚いた顔をしたが、焦った様子で彩音に謝った。
「す、すまない、聖女。女性に抱きつくなど私としたことが。つい興奮してしまって――すまない」
「イケメンなら何をしても許されると思ったら大間違いよ!」
「ああ。本当にすまない。――聖女よ、自己紹介をさせてくれ。私はこの国の王太子、チェーリオだ」
 やっぱ王子かぁ~。
「私は神官長のコルラード・カルディアと申します」
 そして、やっぱりオッサンは神官かぁ~……

「聖女よ。貴女の名は?」
 王太子チェーリオが彩音に尋ねる。
 「君の名は?」ってか? 
 ここで本名を名乗る気はしなかった。
 こんな胡散臭い連中、信用ならないからね。

「トメです」

「トメ? 美しい名だ」
 どうもありがとう。
 「トメ」は、ずいぶん前に亡くなった彩音の曾祖母の名である。
「早速ですが、王太子殿下。私を元の世界に戻してください」
 王族と聞いたからには一応、敬語を使ってやろう。
 彩音は基本マジメな日本人であった。
「い、いや、それは出来ない。召喚はあくまで一方通行で、こちらから元の世界に戻すことは不可能なんだ」
 やっぱりね。そうじゃないかと思ったよ。
 思ったけれど――帰れないのか……。
「そこを一つ、何とかなりませんか?」
「いや……すまない。本当に出来ないんだ」
「……」

 黙り込んだ彩音の顔色を伺いながら、気遣わし気に話しかける王太子チェーリオ。
「貴女には本当に申し訳ないのだが、我が国は神の加護無くしては成り立たない運命の国なのだ。その神の加護は聖女の祈りによって授けられる。先代聖女が2ヶ月前に天寿を全うして80歳で亡くなった為に、新たな聖女として貴女を召喚した。実に62年ぶりの聖女召喚で成功するか危ぶむ声も多かった故に、貴女を召喚することが出来てこの国は今、喜びに湧いているのだ」

「……聖女が亡くなったら次の聖女を召喚するんですか?」
「そうだ」
「はぁ~……」
 62年ぶり? どうして自分が選ばれてしまったのだろう? 年末ジャンボ1等当選よりも低い確率だよね? どうせ当たるなら宝くじが良かった……。
 だが、とりあえず、パーティー組んで魔王討伐へ行けっていう話ではなさそうである。そこは少しホッとした。勇者以外全員女性とかいう、モテない男の妄想のようなハーレムパーティーを組まされて魔王討伐なんぞに行かされた日には、目も当てられない。

「亡くなった先代の聖女はどういう方だったんですか?」
「先代聖女は召喚された時18歳だったそうだ。ニホンのチバというところの出身らしい。ちなみに我が国1800年の聖女召喚の歴史において、歴代聖女は全員ニホン人だったと伝えられている。先代聖女は、当初は王宮に暮らし神殿に通って神に祈りを捧げるという生活をしていたが、召喚から5年後に当時のこの国の騎士団団長と恋愛結婚をした。子供を3人もうけて孫は9人いる。晩年まで夫婦仲睦まじく幸せそうであったぞ」
 千葉の人だったの?! 
 というのは、ひとまず置いといて。

「あの……聖女って結婚して(処女じゃなくなって)も大丈夫なんですか?」
 彩音の質問に答えたのは神官長だった。
「ええ、大丈夫です。我が国へ加護を授けてくださる聖リリュバリ神が『繁栄』の女神であるからでしょう。先代聖女の場合はむしろ結婚・出産を経てからの方が、より一層祈りが神に届きやすくなり、この国には神より更なる加護が授けられたのです」
 へぇ~、そうなんだ。何か聖女って処女じゃなきゃダメなイメージだったけど大丈夫なんだ。良かった~。
 内心、ホッとする彩音。チャラい商学部の彼氏と付き合っていた彩音は当然処女ではない。
 まぁ、ずいぶんと御無沙汰だけどね。ふんっ!

「と、いう訳ですので、聖女だからといって恋愛も結婚も制限されたりはしません。毎朝、神殿で神への祈りを捧げて頂きますが、祈りの儀はほんの1時間程度で終了します。その他の時間は自由に過ごして頂いて構いません。もちろん週末は祈りの儀もございません。完全週休二日制でございます」
 神官長は揉み手をしながら、そう話した。人手不足に悩む会社の人事部長のような物言いだ。
「そうなんですか? 街に遊びに行ったりも出来るんですね?」
 神官長のトークに徐々に機嫌の良くなってきた彩音を見て、ホッとした様子の王太子チェーリオがにこやかに言う。
「もちろん、出来るよ。ただし護衛は付けるけどね。聖女は国の宝だから」
「わかりました」

 いや~、良かった。ラノベによっては聖女と言っても、ほぼ「監禁」みたいな扱いを受ける話もあったから、心配しちゃったよ。
 彩音はにこにこしながら要求した。
「お腹が空きました。何か食べさせて下さい」
 ランチを食べている途中で召喚されたのだ。
 あ~、お腹空いた。
「は、はい。ただ今」
 侍女っぽい女性が慌てて部屋を飛び出して行った。

 この世界の食事ってどんなのかな? と考えたところで、彩音は思い出した。
 ヤバい! トンデモナク食事の不味い異世界っていう設定の話もあったわ! どうしよう?
 彩音は料理が出来ない。この世界の食事がどんなに不味くても、料理チートで食事情改革なんて絶対に出来ない……

⦅ あぁ、こんな事になるのなら、お母さんに料理を習っておけば良かった! ⦆
 後悔先に立たず――



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