王太子殿下の小夜曲

緑谷めい

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11 ラストダンスは貴方と

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 どのくらい眠ったのだろう? 目が覚めて、ふと人の気配に気付く。侍女が控えているのだと思って寝台の横をぼんやり見やると……男の人がいる!? ひぇ~!? まさかの貞操の危機!? と焦ったが、んん? よく見るとバルド様だわ。なーんだ。あー、びっくりした! でも、何故バルド様がここに?
 私は自分が素肌にガウン一枚しか身に着けていないことを思い出し、身体に毛布を巻き付けてから寝台の上で上体を起こした。

「バルド様、びっくりさせないでくださいませ。知らない男性が部屋に入って来たのかと思って心臓が止まるところでしたわ」
「すまない。驚かすつもりはなかったんだ。よく寝ていたから寝顔を見てた」
「何ですか、それ? 恥ずかしいですわ」
「お前、寝顔も可愛いな」
「はいはい。ところで侍女はどうしました?」
「俺が用事を言いつけて行かせた」
「うゎ~……」
 サイテー野郎である。
「フローラとなかなか二人きりになれないから……」
「私、この毛布の下はガウン一枚しか着ていませんの。出て行ってくださいませ」
「何もしないぞ」
「そういう問題ではございません」
「ちぇっ、つれないな~」
 そう言いながらバルド様は何故か寝台に腰掛ける。ちょっとちょっと何ですの? 焦る私。

「フローラ」
 甘い声で名を呼び、私を毛布ごと抱き寄せるバルド様。ちょちょ、ちょっと! ここは寝台の上ですわよ!? やっぱり貞操の危機?! 「何もしないぞ」って今、言ったくせに!? 無理無理無理! 痛いの無理だから!
「15歳になったらいいって言ったよな?」
「そそ、それはキスの話ですわよ」
「うん、キスの話をしてる。なんでそんなに慌ててるんだ?」
 へっ? キス? キスしたいの? なーんだ、びっくりした! いろいろすっ飛ばして大人の階段を駆け上がるおつもりかと思いましたわ、バルド様!
「もしかして、俺がそれ以上のことをすると思ったのか?」
「いえ、まさか」
 バルド様が私の目を見つめる。
「俺はフローラのことを本当に大事に思ってる。ムチャはしないから安心しろ」
「はい」

 バルド様が囁く。
「キスしていいか? フローラ」
 最近、声も一段と低くなられましたわね。腰にキますわ。私は黙ったまま頷いた。その瞬間バルド様が息を呑んだのが分かった。
「フローラ、好きだ」
 そう言うとバルド様は、そっと私に口付けた。唇にほんの少し触れるだけの優しいキス……
「フローラ。俺たちはずっと一緒だ」
「はい、バルド様」
 心がバルド様で満たされる。




 これから夜会が始まる。舞踏会である。
 夜会用のドレスに着替え、髪型やメイクも全て夜会モードに変わった私を見て、バルド様が驚いたように、
「フローラ、綺麗だ」
 と、おっしゃる。あら、いつも「可愛い」の大安売りですのに珍しい。うふふ、夜会用のドレスやヘアメイクはちょっと色っぽい仕様だからかしら?
「バルド様も素敵ですわ」
 バルド様の衣装も夜会用に変わっている。黒の正装である。黒髪黒眼のバルド様が黒い衣装を纏うと、驚くほど大人っぽく見える。鋭い目をした男っぽい顔立ちのバルド様には黒がとても似合う。カッコイイー!!
 見とれている私に、
「俺に惚れ直した?」
 と、問うバルド様。
「格好良すぎてツライ……」
 そう呟くと、
「何だ、それ?」
 と、笑われた。

 陛下と王妃様に続いて、私たちの入場の順番が来る。
「バルド王太子殿下、ご婚約者フローラ・クライン様、ご入場です」
 会場に紹介の声が響き、私はバルド様にエスコートされて入場する。背筋を伸ばして堂々と! 笑顔笑顔! 自分に言い聞かせる。
 夜会の冒頭、陛下のお言葉に続いてバルド様の成人を祝す乾杯があり、私は生まれて初めてお酒を口にした。ん? 意外と美味しい。これ何ていうお酒かしら? 隣のバルド様は一口飲んで「うへぇー」と変な声を出していらした。

 ファーストダンスが始まる。バルド様と私も踊り始める。バルド様は今日の主役だ。故に私たちは当然フロアの真ん中で踊らなければならない。否が応でも皆の注目を集める。緊張しますわ~!
 バルド様もレッスンの時より動きが硬い。
「バルド様、リラックスですわよ」
「お、おう」
 緊張しながらも、何とか無事にファーストダンスを終え、ホッとする私たち。
「フローラ。2曲目からはもう少し楽しめそうだ」
「そうですわね。少し緊張もほぐれましたわ」
 2曲目3曲目と続けてバルド様と踊る。

「少し休むか?」
 バルド様と二人でワインを飲む。
「あ~、美味しい!」
「フローラ、飲みすぎるなよ!」
「はい。分かっておりますわ」
 分かっているつもりだったのだが……酔ってしまった。不覚。
「バカ! だから言っただろ!」
「大丈夫です。このくらい大したことありません」
「お前、ふらついてるじゃないか。ちょっと来い!」
 
 バルド様に腰を抱かれ、テラスに連れて行かれる。テラスには椅子とテーブルがある。バルド様は途中で給仕に命じて、テラスに水を持って来させた。
「フローラ。ほら、腰掛けて水を飲め」
「はい」
「お前、俺のいない所で酒飲むの禁止だからな! 危なすぎる!」
「バルド様、大げさですわ。そんなに酔っていませんわよ」
「お前、そんな潤んだ目で見上げて……他の男に見られたらどうするんだ! お前みたいな可愛い女が、酔ってそんな顔してたら危ないだろ! 男に隙を見せるな!」
「はい……」
 日頃全くモテませんのに、ちょっと酔ったくらいで殿方がホイホイ寄って来るとも思えませんけどねー。
 私の不満げな表情に気付いたのか、バルド様が溜息をつく。
「フローラはどうして自覚がないんだ。そんなに可愛いのに無自覚だなんて信じられない」
 信じられないのはバルド様の感性ですわよ。
 バルド様は続ける。
「フローラは誰よりも可愛いんだぞ! お前に惹かれない男なんていないんだからな。もっと警戒心を持て! お前の身に何かあったら、俺は生きていけない……」
「ちょっと何をおっしゃってるのか分かりませんわ」
「真面目に聞け!」
 私はバルド様のお説教を聞きながら暫くテラスで酔いを醒ました後、会場に戻りおとなしくしていた。


 いよいよ舞踏会も終わりに近付く。
「フローラ。ラストダンス、踊れるか?」
「はい、大丈夫です。もう酔いは醒めましたわ」
 バルド様は今日の主役なのだ。どうしてもラストダンスは踊らなければならない。
「ラストダンスはスローな曲だから、俺に身体を預けていればいい」
「はい」

 ラストダンスが始まる。
 ゆったりとして少し切ない曲だ。私は力を抜いて、体重をほとんどバルド様に預けるようにして踊っていた。バルド様は私の身体を力強く支えてリードしてくださる。
 成人か~。バルド様、大きくなられたな~。もう男の子じゃない。立派な殿方だわ。つい2年前までは、私とほとんど身長もかわらなかったのに。5年前に初めてお会いした時なんて、本当にお子ちゃまだった。でも、あの日、手づから私の髪に花を挿してくださって……ふふふ、懐かしい。初めて会ったあの日から、ずっと変わらず私を想ってくださるバルド様……大好き。

「お前、何にやけてるんだ? まだ酔ってるな」
「ふふふ」
「お前……にやけてても可愛いな」
「ふふふふふ」
「フローラ、何を考えてる?」
「……バルド様のこと、大好きだな~って」
 私の腰を抱くバルド様の腕に力が込められる。
「お前……」
 バルド様は、踊りながら私の額にキスを落とした。近くで踊っている人達がざわめく。若い女性の小さな悲鳴も聞こえた。ああ、これはまた噂になってしまいますわね。
「バルド様ったら……」
「今のはフローラが悪いんだからな」
 と、バルド様は呟いた。私は何も言わずにバルド様の胸に甘えた。

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