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12 転入生 (学園4年生 ~16歳~)
しおりを挟むバルド様と私は学園の4年生に進級し、ともに16歳になった。
マーガレット様の予知夢によると、もうすぐリリヤが転入してくるらしい。正直、私は半信半疑だった、のだが……
その日はやってきた。
「隣のクラスに転入生が来たんだって!」
「見た見た。すっごい可愛い女の子だったぞ!」
「綺麗なピンク色の髪でリリヤっていう名前らしい。男爵家令嬢みたいだ」
朝からうちのクラスの男子生徒達が騒いでいる。
本当に予知夢だったのだわ。「リリヤ」という名前も「男爵家令嬢」であることも、そして「ピンク色の髪」までマーガレット様が話されていた夢の通りである。
「こんな中途半端な時期に転入なんて珍しいよな」
「でも、あんな可愛い子なら大歓迎だよ」
「俺も隣のクラスに見に行ってくるー!」
「一緒に見に行こう!」「行く! 行く!」「俺もー!」
私は、リリヤを見に行くと言ううちのクラスの男子生徒達に紛れて隣のクラスに行き、リリヤの顔を覗き見た。
「あれだよ! あのピンクの髪の子!」
「うゎ~、ホントに可愛いな」
「表情がくるくる変わって、なんて愛らしいんだ」
「小動物みたいな可愛さだな、おい」
「抱きしめてぇ~」
一緒に覗いているうちのクラスの男子ども。本当に上位貴族の令息だろうか? 品位の欠片もないわね、まったく。まぁ、私も一緒に”覗き”をしておりますけどね。
その時、突然、背後から肩を掴まれた。
「お前、何やってんだ?」
へっ? その声はバルド様。バルド様もやっぱりリリヤが気になって見にいらしたのね。
「バルド様。あれです、あれ。あのピンク色の髪がリリヤという転入生です」
私はリリヤを指差して教えた。
「はぁ? そんなことはどうでもいい。お前は何をやってるんだ?」
「えっ? えーと、転入生を覗きに来ましたの」
バルド様はご自分の額に手を当てている。
「フローラ。将来の王太子妃が”覗き”なんてことをするな!」
怒られちゃったよ。
「申し訳ございません」
そのまま私はバルド様に引きずられ、自分の教室に戻った。
その日の放課後、私は例の西庭でマーガレット様と待ち合わせていた。
「マーガレット様! リリヤが来ました! 隣のクラスに本当に転入してきたんです。マーガレット様の夢の通りですわ。髪もピンク色でした」
興奮気味に話す私に、マーガレット様はうっすらと微笑んだ。少しダークな笑顔に見えるのは何故だろう?
「ほほほ。フローラ、これからが勝負よ。リリヤにバルド殿下を奪われないように、しっかり殿下を捕まえておくのよ」
「は、はい」
「これから『イベント』というものが起こり始めるわ。まず初めにリリヤとバルド殿下が親しくなるきっかけとなる『出会いイベント』がいくつか起こるの。リリヤが殿下の前で転んで助け起こしてもらったり、目の前でハンカチを落として拾ってもらったり、気分が悪くてヨロめいたところを抱きとめてもらったり、ということが起こるわ」
ベタである。ベッタベタのベタではないか?
「マーガレット様。安い恋愛小説のようですわ」
「ほほほ。確かにね。でもそんなことで引っ掛かるのが男というものよ」
「なるほどー」
「私はもう、たとえ強制力が働いたとしてもさすがにリリヤを苛めることはないと思うの。苛める理由がありませんものね。だから”国外追放”もあり得ないと思うわ。全てフローラのおかげよ。貴女がバルド殿下の心を射とめて、殿下の婚約者になってくれたおかげだわ。私はフローラにいくら感謝してもしきれないのよ。だからこそ、殿下がリリヤに夢中になるのは絶対に阻止したいの。だってそんなことになったら、私の可愛いフローラが悲しむでしょう?」
キャーッ! 「私の可愛いフローラ」ですってー!?
「とにかく、フローラは頑張って殿下に浮気をさせないように手綱をしっかり握っておくのよ」
「はい!」
バルド様に浮気なんてさせない。リリヤなんかに渡しませんわよ! 私は決意を新たにした。
転入生のリリヤは、あっという間に男子生徒達のお姫様になった。リリヤの周りには、いつもたくさんの男子生徒がいた。彼らはリリヤのことを「姫」と呼んでいる。どう見てもリリヤが男子達を侍らせているように見える。
当然、女子生徒達は面白くない。
「男どもを侍らせてお姫様気取りだなんて、厚かましいにも程がありますわ」
「上位貴族の令息まで、あんな男爵家令嬢ごときの取り巻きになるなんて、恥ずかしくないのかしら?」
「あのリリヤって女、平民育ちで半年前に男爵家に引き取られたって聞いたわよ。さすが平民あがりは下品ね」
「婚約者のいる男達とベタベタするなんて信じられませんわ。まるで娼婦ではありませんの?」
もう言いたい放題である。でも黙っていたら皆のストレスが溜まる一方だわ。女ばかりで言いたい事を吐き出すことも大事だと思いますの。私はクラスの女子生徒達の”リリヤ&取り巻きの男ども大悪口大会”を制止したりせずに聞いていた。ちなみにここは、学園の中にある上位貴族令嬢専用サロンである。男子生徒も下位貴族も入室はできない。
「フローラ様は、どうお思いになります?」
やっぱり私に振ってきますわよね。
「私はリリヤが何をしようとかまいませんわ。ただ、彼女が私の大切なバルド様にちょっかいを出してきたら……」
言葉を区切って、ニヤリと笑う。今の私、きっと悪い顔をしているわね。皆が私を見つめる。
「フローラ様。リリヤが殿下にちょっかいを出したら、どうなさるのです?」
ふふふふふ……
「その時はあの女……二度と笑えないようにしてやりますわ」
「まあ……」「さすがですわ」「なんて悪いお顔……」
「ほーほっほっほ。おーほっほっほっほ」
私の高笑いがサロンに響いた。
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