王太子殿下の小夜曲

緑谷めい

文字の大きさ
12 / 24

12 転入生 (学園4年生 ~16歳~)

しおりを挟む
 


 バルド様と私は学園の4年生に進級し、ともに16歳になった。
 マーガレット様の予知夢によると、もうすぐリリヤが転入してくるらしい。正直、私は半信半疑だった、のだが……
 その日はやってきた。

「隣のクラスに転入生が来たんだって!」
「見た見た。すっごい可愛い女の子だったぞ!」
「綺麗なピンク色の髪でリリヤっていう名前らしい。男爵家令嬢みたいだ」
 朝からうちのクラスの男子生徒達が騒いでいる。
 本当に予知夢だったのだわ。「リリヤ」という名前も「男爵家令嬢」であることも、そして「ピンク色の髪」までマーガレット様が話されていた夢の通りである。
「こんな中途半端な時期に転入なんて珍しいよな」
「でも、あんな可愛い子なら大歓迎だよ」
「俺も隣のクラスに見に行ってくるー!」
「一緒に見に行こう!」「行く! 行く!」「俺もー!」

 私は、リリヤを見に行くと言ううちのクラスの男子生徒達に紛れて隣のクラスに行き、リリヤの顔を覗き見た。
「あれだよ! あのピンクの髪の子!」
「うゎ~、ホントに可愛いな」
「表情がくるくる変わって、なんて愛らしいんだ」
「小動物みたいな可愛さだな、おい」
「抱きしめてぇ~」
 一緒に覗いているうちのクラスの男子ども。本当に上位貴族の令息だろうか? 品位の欠片もないわね、まったく。まぁ、私も一緒に”覗き”をしておりますけどね。

 その時、突然、背後から肩を掴まれた。
「お前、何やってんだ?」
 へっ? その声はバルド様。バルド様もやっぱりリリヤが気になって見にいらしたのね。
「バルド様。あれです、あれ。あのピンク色の髪がリリヤという転入生です」
 私はリリヤを指差して教えた。
「はぁ? そんなことはどうでもいい。お前は何をやってるんだ?」
「えっ? えーと、転入生を覗きに来ましたの」
 バルド様はご自分の額に手を当てている。
「フローラ。将来の王太子妃が”覗き”なんてことをするな!」
 怒られちゃったよ。
「申し訳ございません」
 そのまま私はバルド様に引きずられ、自分の教室に戻った。


 その日の放課後、私は例の西庭でマーガレット様と待ち合わせていた。
「マーガレット様! リリヤが来ました! 隣のクラスに本当に転入してきたんです。マーガレット様の夢の通りですわ。髪もピンク色でした」
 興奮気味に話す私に、マーガレット様はうっすらと微笑んだ。少しダークな笑顔に見えるのは何故だろう?
「ほほほ。フローラ、これからが勝負よ。リリヤにバルド殿下を奪われないように、しっかり殿下を捕まえておくのよ」
「は、はい」
「これから『イベント』というものが起こり始めるわ。まず初めにリリヤとバルド殿下が親しくなるきっかけとなる『出会いイベント』がいくつか起こるの。リリヤが殿下の前で転んで助け起こしてもらったり、目の前でハンカチを落として拾ってもらったり、気分が悪くてヨロめいたところを抱きとめてもらったり、ということが起こるわ」
 ベタである。ベッタベタのベタではないか?

「マーガレット様。やっすい恋愛小説のようですわ」
「ほほほ。確かにね。でもそんなことで引っ掛かるのが男というものよ」
「なるほどー」
「私はもう、たとえ強制力が働いたとしてもさすがにリリヤを苛めることはないと思うの。苛める理由がありませんものね。だから”国外追放”もあり得ないと思うわ。全てフローラのおかげよ。貴女がバルド殿下の心を射とめて、殿下の婚約者になってくれたおかげだわ。私はフローラにいくら感謝してもしきれないのよ。だからこそ、殿下がリリヤに夢中になるのは絶対に阻止したいの。だってそんなことになったら、私の可愛いフローラが悲しむでしょう?」
 キャーッ! 「私の可愛いフローラ」ですってー!? 
「とにかく、フローラは頑張って殿下に浮気をさせないように手綱をしっかり握っておくのよ」
「はい!」
 バルド様に浮気なんてさせない。リリヤなんかに渡しませんわよ! 私は決意を新たにした。


 転入生のリリヤは、あっという間に男子生徒達のお姫様になった。リリヤの周りには、いつもたくさんの男子生徒がいた。彼らはリリヤのことを「姫」と呼んでいる。どう見てもリリヤが男子達を侍らせているように見える。
 当然、女子生徒達は面白くない。
「男どもを侍らせてお姫様気取りだなんて、厚かましいにも程がありますわ」
「上位貴族の令息まで、あんな男爵家令嬢ごときの取り巻きになるなんて、恥ずかしくないのかしら?」
「あのリリヤって女、平民育ちで半年前に男爵家に引き取られたって聞いたわよ。さすが平民あがりは下品ね」
「婚約者のいる男達とベタベタするなんて信じられませんわ。まるで娼婦ではありませんの?」
 もう言いたい放題である。でも黙っていたら皆のストレスが溜まる一方だわ。女ばかりで言いたい事を吐き出すことも大事だと思いますの。私はクラスの女子生徒達の”リリヤ&取り巻きの男ども大悪口大会”を制止したりせずに聞いていた。ちなみにここは、学園の中にある上位貴族令嬢専用サロンである。男子生徒も下位貴族も入室はできない。

「フローラ様は、どうお思いになります?」
 やっぱり私に振ってきますわよね。
「私はリリヤが何をしようとかまいませんわ。ただ、彼女が私の大切なバルド様にちょっかいを出してきたら……」
 言葉を区切って、ニヤリと笑う。今の私、きっと悪い顔をしているわね。皆が私を見つめる。
「フローラ様。リリヤが殿下にちょっかいを出したら、どうなさるのです?」
 ふふふふふ……
「その時はあの女……二度と笑えないようにしてやりますわ」
「まあ……」「さすがですわ」「なんて悪いお顔……」
「ほーほっほっほ。おーほっほっほっほ」
 私の高笑いがサロンに響いた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

マジメにやってよ!王子様

猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。 エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。 生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。 その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。 ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。 「私は王子のサンドバッグ」 のエリックとローズの別世界バージョン。 登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。

どうしてこうなった

恋愛
親友の魔女が死ぬ直前、来世でも会いたいと願った魔女メデイアは親友に転生魔法を掛けた。が、実は親友の渾身のドッキリだったらしく、急に元気になった親友に驚いた際にうっかり転生魔法を自分に掛けてしまった。 人間に転生したメデイアはレインリリー=クリスティ伯爵令嬢となり、政略結婚相手の前妻の娘という事で後妻や異母妹、父から疎まれ使用人達からも冷遇されてきた。結婚相手のクレオン=ノーバート公爵は後妻や異母妹が流した悪女の噂を信じ、白い結婚を強制。三年後には離縁とすると宣言。魔女の鏡を見つけて親友と連絡を取り、さっさと故郷に帰りたいレインリリーからすれば好都合。 レインリリーはクレオンの愛する人が前世の自分と知っていて告げる気はないが、後に幼少期自分を助けてくれた魔女がレインリリーと知ったクレオンは今までの事を後悔し愛を囁くようになる。 ※タイトルとあらすじを一部変更しました。 ※なろうにも公開しています。

冷たい婚約者が「愛されたい」と言ってから優しい。

狼狼3
恋愛
「愛されたい。」 誰も居ない自室で、そう私は呟いた。

【完結】「かわいそう」な公女のプライド

干野ワニ
恋愛
馬車事故で片脚の自由を奪われたフロレットは、それを理由に婚約者までをも失い、過保護な姉から「かわいそう」と口癖のように言われながら日々を過ごしていた。 だが自分は、本当に「かわいそう」なのだろうか? 前を向き続けた令嬢が、真の理解者を得て幸せになる話。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

愛しているのは王女でなくて幼馴染

岡暁舟
恋愛
下級貴族出身のロビンソンは国境の治安維持・警備を仕事としていた。そんなロビンソンの幼馴染であるメリーはロビンソンに淡い恋心を抱いていた。ある日、視察に訪れていた王女アンナが盗賊に襲われる事件が発生、駆け付けたロビンソンによって事件はすぐに解決した。アンナは命を救ってくれたロビンソンを婚約者と宣言して…メリーは突如として行方不明になってしまい…。

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

処理中です...