王太子殿下の小夜曲

緑谷めい

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18 恋愛相談

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 私は毎日のようにフレデリク王子をからかって遊んでいた。王子は王子で相変わらず私の容姿を貶めてくる。自分がちょっとイケメンだからって、ホントにムカつきますわ!

 ある日、何処からか教室に入り込んだテントウ虫を捕まえた私は、
「フレデリク殿下! いよっ! イケメン!」
 と、呼びかけた。振り返るフレデリク王子。その高いお鼻の上にテントウ虫をチョコンと乗せる。
「ぎゃ~っ!!」
 王子が悲鳴を上げる。
「ほ~ほっほっほっほ」
 ちなみに「テントウ虫が身体にとまると幸せがやって来る」という古くからの言い伝えがあるのだ。私は悪いことはしていない。

「フローラ! またアイツと楽しそうに遊んで! やめろ!」
「バルド様、だってフレデリク殿下って、とっても面白い方なんですのよ」
「お前は俺の婚約者だろ! 他の男と仲良くするな!」
 相変わらず、心の狭いバルド様。
「はいはい。わかりました~」
「絶対、わかってないだろー!」
 バルド様から逃げる私。追いかけて来て私を抱きしめるバルド様。いつものように私の髪にお顔を埋めて「フローラの匂いがする!」と言って、そのままトリップしてしまった。
 一方、フレデリク王子は、まだ鼻にテントウ虫を乗せたまま悲鳴を上げて教室を駆け回っている。払い落とせばいいだけなのに。テントウ虫は飛べますのよ。
 「カオスだな」「面白れぇー」「王族コント対決か?」「我が国の王太子殿下もヤバイけど、隣国の王子も相当アレだな」
 クラスメイト達の声が聞こえた。



 ある日、フレデリク王子の元気がない。
 どうしたんだろう? 最近、からかい過ぎたかな? 胸に手を当てて考えてみる。思い当たる事が多過ぎた。
「フレデリク殿下、どうなさったのですか?」
「……ん? いや、別に……」
 そっとしておいた方がいいのかな? 私はその日、一日フレデリク王子に声をかけなかった。

 次の日。私はフレデリク王子から5年生の棟の屋上に呼び出された。
「俺、この国に相談できる女性の友人がいなくて……ちょっと話を聞いてくれるか?」
「私で良ければお聞きしますわ」
「なぁ……女って、好きでもない男に抱かれて平気なのか?」
 おぉっと、すごい質問キター! これはハイレベルな恋愛相談ですわね。
「『好きでもない男』とは、政略結婚の相手という意味でしょうか?」
「そうだ。政略結婚で仕方なく嫁いだ男に抱かれるのってイヤじゃないのか?」
「まぁ、貴族の結婚は、ほぼ政略ですからね。実際、ほとんどの女性は割り切っているのではないでしょうか?」

「そんなに簡単に割り切れるのか? イヤじゃないのか?」
「最初は抵抗があるかもしれませんわね。そしてそのまま相手を好きになれずに、いつまで経っても嫌で嫌で仕方ないということもあるでしょう。でも、結婚してからお互いのことを好きになって、愛し愛され仲睦まじい夫婦になることだってありますわ。男と女には相性がございますもの。本当に人によりけり夫婦によりけりだと思いますわよ」
「そうか、そうだよな。相性が良ければ、結婚してから好きになることだってあるよな」
 きっと、フレデリク王子の想い人が他の男と政略結婚をしたのだろう。イヤがっているとばかり思っていたのに、そうでもなさそうだと母国から噂が流れてきたのかもしれない。あるいは本人から幸せそうな手紙が届いたとか?
 いずれにせよフレデリク王子は傷ついているのだわ。目を伏せている横顔を見ればわかる。

「フレデリク殿下、その方が今お幸せならよろしいではありませんか。愛する人が不幸になるよりずっと良いですわ」
「……そうかもしれない。彼女が不幸せで毎日泣いているという噂を聞く方がきっと辛いよな」
「そうですわよ」
「でも……胸が苦しい」
 正直なのね。
「本当は、ご自分の手でその方を幸せにして差し上げたかったのでしょう? でも、王族の結婚は自分の意思だけではどうにもなりませんものね」
「そうなんだ。どうしても無理だったんだ。それが分かっていたから、結局、俺は彼女に自分の想いを伝えることさえ出来なかった」
 悲しそうなお顔……。本当にその方を愛してらっしゃるのね。泣いていらっしゃるの? フレデリク王子の目からポロポロと涙が零れ落ちる。
 私は見ない振りをして、何も言わずに彼に寄り添っていた。

 翌日から、フレデリク王子は私を避けるようになった。泣いている姿を見られて気まずいのだろうと思う。私からも王子に話しかけずに、少し距離を置いた。


 バルド様が訝しげに私に尋ねる。
「フローラ、フレデリク王子とケンカでもしたのか? 最近、全然話さないんだな」
「いえ、別に……」
「何かあったのか?」
「いいえ」
「まさか、アイツに何かされたのか?!」
 バルド様の鋭い目に不穏な光が宿る。
「バルド様! いい加減にしてくださいませ! そんな事あるわけないでしょう!」
「俺はお前を心配してるのに……」

 私の愛する人は目の前にいる。私たちは結婚することが決まっている。でもフレデリク王子の想い人は他の男性の妻となり、決して手の届かない女性ひとになってしまったのだ。よくある話だ。王族や貴族は政略結婚が当たり前。恋愛の末に結ばれる夫婦など、ほとんどいない。
 それでも涙を零すフレデリク王子の姿を思い出すと、胸が締め付けられる。本当にその女性を想っていらしたのだわ。
「フローラ、何でそんな辛そうな顔をする?」
 バルド様が私の肩を抱き寄せる。
「困っていることがあるなら、俺に話せ」
「何もありません」
「フローラ……」
 不安そうなバルド様の声。ごめんなさい。でも、言えませんわ。


 
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