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第八章 ~特徴のない男の記憶から一部抜粋~
第一節
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「……おや、君のお姉さんは眠ってしまったみたいだ。まぁこのままそっとしておこう」
じゃあ君にも聞こうか、と妹の方に向き直る。
「そんなに睨まないでくれないか?悪いようにはしないよ」
姉の方は気づいていないようだったが、妹は施設に着いてからここの職員を冷めた目で見ていた。冷めた目というより、ゴミを見る目と言った方がいいだろうか。私たちのやっていることを知っているようで、最初身震いこそしたが、何もしてこなかったところをみると、それは繋がれていた手の先に理由があったのだろう。彼女は小さいながらにその小さい知恵を持って、姉を守っていたのだ。胸がすく思いだ。
「お姉ちゃんと同じ答えでいい、早く私も、眠らせて」
冷たい声に反応して、背中の汗が伝う。本当にこの子は六歳か?
「ダメだよ。偽りのない答え出なければ意味がない」「嘘はない」
寝ている姉のカプセルを愛おしそうに撫でながら、それでも目だけはこちらへの敵意であふれていた。このままでは死ぬとさえ感じる殺気は私の指を警報ボタンまで向かわせた。殺される、と本能が脈を打つ。恐怖だ。「あぁ、でも」
妹は姉の身体をカプセル越しに撫でるのをやめた。そして、先ほど飛び込んだカプセルにその小さい身体を沈めると微笑む。
「生まれ変わったら、お姉ちゃんになりたいな」
聞きたかった答えに緩む口を押さえ、押そうとしていたボタンとは別のところにある完了ボタンを押した。シューっと小さい音を立てて妹のカプセルに睡眠薬が入っていく。妹が寝たのを確認した。
さっきまでの殺気はどこへ行ったのか、穏やかな顔で眠っている。彼女もまた、姉と同じように違う人生を辿るだろう。そしてそれが幸せなのか否かは彼女たちが決めること。私では決めることは出来ない。カプセルを並べる場所まで、彼女たちの最後を見届ける。私にとって特別な存在にしてはいけないことは分かっていたが、しかしそれでもこうしてやらなければ気が収まらなかった。
父親の方は知っていたはずのこの施設のことを、子供たちには一切知らなかったところを見るに、父親からの愛情など期待できない。私は彼女たちの父親気分になって、呟いた。
「じゃあね、二人とも。良い夢を」
どうか、願わくはその先でも家族でいられますように。
じゃあ君にも聞こうか、と妹の方に向き直る。
「そんなに睨まないでくれないか?悪いようにはしないよ」
姉の方は気づいていないようだったが、妹は施設に着いてからここの職員を冷めた目で見ていた。冷めた目というより、ゴミを見る目と言った方がいいだろうか。私たちのやっていることを知っているようで、最初身震いこそしたが、何もしてこなかったところをみると、それは繋がれていた手の先に理由があったのだろう。彼女は小さいながらにその小さい知恵を持って、姉を守っていたのだ。胸がすく思いだ。
「お姉ちゃんと同じ答えでいい、早く私も、眠らせて」
冷たい声に反応して、背中の汗が伝う。本当にこの子は六歳か?
「ダメだよ。偽りのない答え出なければ意味がない」「嘘はない」
寝ている姉のカプセルを愛おしそうに撫でながら、それでも目だけはこちらへの敵意であふれていた。このままでは死ぬとさえ感じる殺気は私の指を警報ボタンまで向かわせた。殺される、と本能が脈を打つ。恐怖だ。「あぁ、でも」
妹は姉の身体をカプセル越しに撫でるのをやめた。そして、先ほど飛び込んだカプセルにその小さい身体を沈めると微笑む。
「生まれ変わったら、お姉ちゃんになりたいな」
聞きたかった答えに緩む口を押さえ、押そうとしていたボタンとは別のところにある完了ボタンを押した。シューっと小さい音を立てて妹のカプセルに睡眠薬が入っていく。妹が寝たのを確認した。
さっきまでの殺気はどこへ行ったのか、穏やかな顔で眠っている。彼女もまた、姉と同じように違う人生を辿るだろう。そしてそれが幸せなのか否かは彼女たちが決めること。私では決めることは出来ない。カプセルを並べる場所まで、彼女たちの最後を見届ける。私にとって特別な存在にしてはいけないことは分かっていたが、しかしそれでもこうしてやらなければ気が収まらなかった。
父親の方は知っていたはずのこの施設のことを、子供たちには一切知らなかったところを見るに、父親からの愛情など期待できない。私は彼女たちの父親気分になって、呟いた。
「じゃあね、二人とも。良い夢を」
どうか、願わくはその先でも家族でいられますように。
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